第111話、街道

 王都への道のりは、途中まではエシャルネさんの住む街へ行く道と同じだった。

 なのでもしかしたら彼女に会えるのかな、と思っていたけどそうはならないらしい。

 途中で以前とは別の道を行き、窓から見える景色も前とは違っている。


 とはいえ暫く走ると山道を行き、道中の景色は大体山と森だったけど。

 領主館を出て少し後も大体山だったし、この辺りは山の方が多いのかもしれない。

 その割に森に魔獣の気配は少なく、やっぱり魔獣の森だけが特別なのかなと感じていた。


 ガライドに『マップ』を出して見せて貰っても、あんまり強い魔獣は居ないみたいだし。

 ただ森の奥の方に結構強いのが居るみたいだから、全く居ない訳ではなさそうだ。

 それでも魔獣の森に比べれば、この辺りはきっと安全なのだろう。


『でなければ街道など出来ていないだろうな。この山道を街道と言って良いのであればだが』


 ガライドに訊ねるとそう言っていたし、余り気を張らなくても大丈夫かもしれない。

 とはいえ万が一が無いとは言えないと思うし、ある程度は気を付けておいた方が良いだろう。


 それと道中は基本的に車に乗っているだけだから、私は大体の時間を勉強に使っていた。

 今まで教えて貰った事の復習や、王城でどんな風に振舞えば良いかとか。

 基本的には気にしなくて良いけど、多少の礼儀は見せないと失礼ですからねと言われて。


 ただ前と違う事は、ガンさんとキャスさんも一緒に練習している事だろうか。

 特にガンさんは王女様に振り回される可能性が有るから念入りにだとか。

 彼女の腕力じゃ、ガンさんを振り回すなんて無理だと思うけどな。


 それと王都への道行きは、宿場町で泊りながら先に進んだ。

 偶に野宿の日もあったけれど、大体はベッドで寝ていたと思う。

 その道中でガンさんがふと口にした事で、新しい事を知った。


「相変わらず、素通りするだけなら何処まで行っても領地に入る手続きとか要らないんだな」

「各領地から王都への街道は国の土地ですし、邪魔をすれば犯罪ですからね」

『ほう、国道なのか。いや、そう表現するのも少々おかしいか?』


 王都への道はどの領地からでも向かう事が出来て、逆に何処の領地へも行ける。

 それは別の領地からまた別の領地へ行く時も同じ事らしい。

 途中で他の領地を通るからといって、何度も手続きをするのは手間だし無駄だと。


「けど犯罪者も素通りだよな、これって」

「そうとも取れますが、街道を自由に兵士が移動出来るので、犯罪者にとっては国を出ないと逃げきれない面倒な国だと思いますがね。そもそも各地に詰め所もあって衛兵も居る訳ですから、余り変わらないと思いますよ」

『ふむ、兵士の移動も自由が利く、という事か。それはそれで不安要素もありそうだが』


 そうなの? 悪い人を捕まえる為に動きやすいのは、良い事だと思うんだけど。


「それに検問が在るせいで逃げられる、という事も有りますからね」

「え? ・・・あー、見逃しの上に時間稼ぎって所か? 賄賂とかで」

「ええ。街から逃げる時に、国から逃げる時に、逆に入る時に、大金を積めば全てが見えなくなる人間は沢山居ます。検問がある以上は逃げられる訳がない、なんて考えは甘いんですよ」


 悪い人を止める為にあるはずなのに、逆に悪い人を逃がす結果になってしまう、のかな。

 私には訳が分からない。悪い人を放置したら、他の人が酷い目に遭うかもしれないのに。


「ただ街道の維持費は近場の貴族が出すので、不満を持っている者も居ますけど」

「領地の行き来で金をとれないのに維持費だけ出せって、それは不満が出て普通じゃない?」


 首を傾げているとリーディッドさんの話が続き、今度はキャスさんが訊ねた。


「出入りする商人からは金をとれますし、税収は基本住民から徴収する物です。文句を言っているのは大概自分の領地に労働力や商人を引き込めず、その為の努力もしない連中だけですよ」

「あら、リーディッド様ってば厳しい」

「厳しくはありません。そも自領の管理だとしても、街道の整備は必須でしょう。自分達の領地に利便性を求めるなら当然の事。不満を言ってる連中は何に金を使いたいんでしょうね」

「あー・・・そういう事かぁ」

「そういう事です」


 どういう事だろう。と更に首を傾げていると、ガライドが補足してくれた。


『つまり領民の生活の為に使う金を、自分の私腹を肥やす為、贅沢をする為に使いたい人間が文句を言っている、という事なのだろうな。何時の時代で何処の国にも一定数は居る人種だ。それと先程の様に、犯罪を見逃す為の賄賂も欲しいという意味だろう』


 それは良くない。人のお金を勝手に使うなんて駄目な事だと思う。

 そこまでしてお金が欲しいのかな、領主って仕事をしてる人は。

 魔獣領の領主さんはそんな事してない・・・よね?


 そんな感じで知らない事も知りつつ、知ってる事を復習しつつ、のんびりと進んだ。

 途中で犬達の世話を手伝ったりもして、結構楽しかったと思う。

 魔獣だって解っているけれど、もうこの子達の事は可愛いとしか思えなくなっているね。


「グロリアお嬢様、明日には王都に付きます。明日の朝からは少々準備に手間をかけますね」

「は、はい・・・」


 そしてとうとうリズさんに宣告され、ひらひらのドレスを着る日がやってきてしまった。

 解ってはいたけども、やっぱりどうにも弱い生地は緊張する。

 今度も破かずに済ませられるだろうか。とても不安だ。

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