第97話、魔道具の鍛錬
「ホントにどうしたグロリア。何で突然そんな事言い出したんだ?」
ガンさんが目線を会わせる為にしゃがみ、私の頭を撫でながら問いかける。
つまり意図が伝わっていない。だからみんな驚いた顔をしたのかな。
よく考えたら練習は自分の中だけで決めた事で、ガライドにすら言っていなかった。
私は何かをしたいと思う時、その中身を言わない癖がある気がする。気を付けよう。
「魔道具を使う、練習をしようと、思い、ました」
「魔道具の練習?」
「はい。紅を纏って、使う練習を、したい、です」
「・・・まさかと思うけど、魔道具戦闘の訓練相手をしてくれ、って事か?」
「はい」
ガンさんの問いにコクリと頷いて応えると、彼は頭を抱えてしまった。
何か駄目だっただろうか。練習はしておいた方が良いと思うんだけど。
『そういう事か・・・突然何を言い出すのかと驚いたぞ。本気で心配になった』
「あ・・・ごめん、なさい」
説明不足で驚かせたのは気が付いたけど、心配までさせているとは思わなかった。
もしかしてガンさん達もそうだったんだろうか。もしそうなら皆に申し訳が無い。
「いや、謝る必要は無いけど・・・魔道具での訓練か・・・うーん」
ただガンさんはそれよりも、魔道具の訓練という点が気になっているらしい。
頬を描きながら眉間にしわを寄せ、明らかに困っている表情だ。
「嫌、です、か?」
「嫌っていうか・・・正直に言うと怖いかな。訓練とはいえあの紅い光の前に立つのはな。生きた心地がしない」
『古代魔道具相手に飛びかかった男の言う事とは思えんな。ガンらしいと言えばらしいが』
そうか、それでガンさんは困ってたのか。なら何も問題は無い。
「大丈夫、です。私は、受けたい、だけです、から」
「受けたいだけって・・・『光剣』を受け止めるって事か?」
「はい。魔道具の、攻撃を、受け止める、練習です。だから、ガンさんは、危なくない、です」
攻撃に使う練習は、別にガンさんにお願いする必要は無い。
一人でだって出来るし、何なら魔獣相手に使えばいいだけだ。
「今なら、魔力、いっぱい、です。練習に、使え、ます」
お腹が全く減っていない今の内にこそ、こういう練習はやっておくべきだ。
それに私の記憶にはまだ残っている。あの光の筋の様なきらめきが。
防げなかった。躱せなかった。倒せなかった。
死ぬ所だった。
段々意図して魔道具を使えている。なら練習すればもっと使えるようになるはず。
もっともっと上手く使える様になって、二度とあんな目には遭わないようにする。
そうしないといけない。強くならないといけない。今よりもっと。
―――――――――――でないと、きっと、奪われる。
何か明確な根拠がある訳じゃない。未来の事が解る訳じゃない。
けれど私は今のままで満足していちゃいけない。
ずっとそんな感覚が付きまとっていて、意識した事でそれが強くなった。
「ガンさん、おねがい、します・・・!」
きっと私は今、とても怖がっているんだと思う。
見えない恐怖が胸を埋め、その恐怖から「また」目を逸らしていた。
乗り越えるべき相手だったのに。倒すべき相手だったのに。
魔道具との戦闘訓練をしなかったのは、きっと私が怖くて逃げていたんだ。
でなければ鍛錬を思いつかないはずがない。たとえ私の頭がどれだけ悪くたって。
なら私は前に踏み込まなければいけない。もっと魔道具との戦いに慣れなきゃいけない。
「・・・リーディッド、良いのか?」
ただガンさんは、私じゃなくてリーディッドさんに確認を取った。
多分保護者だからだと思う。
「グロリアさんと貴方の判断に、私が口を出す必要が有るとは思えませんね。私は貴方を信じていますから。それはキャスも同じ事でしょうし、でなければ付き合いは長くなっていません」
「まーねー。ガンがやるって言うなら、それで良いんじゃない?」
「お前等、こういう時だけ・・・はぁ、解ったよ。やるよ。やります」
リーディッドさんとキャスさんの返事を聞き、ガンさんは項垂れながら了承を口にした。
ただ彼は一度溜息を吐くと、真剣な表情を私に向ける。
「その代わり、俺の練習にも付き合って貰う。それで良いならだ」
「勿論、です」
「即答かぁ・・・」
彼の練習が何かは解らないけど、そんな事当然付き合うにきまっている。
代わりに何て言われずとも、何なら先にガンさんの練習をやったっていい。
「なら、ガンさんの、練習を、先に、しま、しょう!」
「待って待って。代わりにって言ったんだから、代わりにで良いから。というか心の準備が要るから後にしてお願い。な?」
「・・・わかり、ました」
「珍しく露骨に残念そうな顔になったな・・・」
だってそれはそうだ。彼の役に立てると思ったのに。
『なんとなくガンが何をやりたいのか解ったが・・・まあ黙っておいてやるか』
ガライドは何がしたいのか気が付いたらしいけど、私に教えてくれないらしい。
珍しく意地悪だ。でもよく考えたら何時もの事かもしれない。
後になってから『こういう事が有った』って言ってる頃事も有るし。
「・・・よかったねー、ガン」
「ま、良い傾向でしょう」
リーディッドさんとキャスさんがポソッと呟いた言葉が、やけに耳に残った。
「んで、王女様は何だったんだ?」
「いえ、また後日に。今はグロリア様を優先で構いません。ええ、後日に、ゆっくりと」
「そ、そう・・・解った」
あ、そうだった。王女様の話を遮ったんだった。
本当に良いのかな・・・何だかちょっと申し訳ない。
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