第95話、婚姻
迫って来る魔獣を少しひきつけ、見える距離になってから踏み込む。
一歩で距離を詰めたら、そのまま魔獣の頭を殴り抜いた。
「っと」
頭が弾け飛び、その衝撃で体も飛んで行きそうになるのを捕まえる。
そして一応周囲を警戒しつつ、ガブリと魔獣にかぶりつく。
ガツガツと魔獣のお肉を食べて行き・・・その途中で少し首を傾げた。
「・・・お腹、空いてない、様な?」
何時もならあるはずの空腹感が、今日はまるで感じない。
お腹に手を当てて首を傾げ、ガライドに怪訝な視線を向ける。
『まだ前回戦った魔獣のエネルギー・・・魔力が十分あるからだろうな。おそらくそうではないかとは思ったが、やはり一定量を超えると空腹感を感じない様だ』
「です、か・・・じゃあ、食べない、方が、良い、ですか?」
『いや、この魔獣を一体食べた所で、前回の植物の魔獣を食べた分を超える事は無い。ならば魔力を溜めておく事に問題は無いだろう。全部食べてしまうと良い』
「わかり、ました。あぐっ。もぐもぐ・・・」
『・・・あの話は、聞かせるべきか・・・どうしたものかな』
「どうか、しましたか?」
『・・・いや、気にするな。今は良いだろう。ゆっくり食べると良い』
「? わかり、ました」
少し気にはなるけれど、ガライドの指示通り肉を食べて行く。
お腹が空いていないので体が充実する感覚も無く、ただただもぐもぐと咀嚼して呑み込む。
肉を全て食べたら残った皮を持ち、中に骨を包んで皆の元へ戻った。
ガライドからの指示は無かったけれど、持って帰った方が良いかなと思って。
「お待たせ、しました」
「いえいえ、お腹は満たせましたか?」
「えと・・・あんまり、お腹空いて、なかった、みたい、です」
「あら、そうなんですか・・・んー」
リーディッドさんの問いに応えると、彼女は空を仰いで悩む仕草を見せる。
なので何となく王女様に視線を向けると、彼女の表情が少し険しい気がした。
「どうか、しました、か?」
「っ、い、いえ、何でも、ありません・・・お気になさらず」
「そう、ですか」
ただ声をかけるとハッとした表情を見せ、直ぐにニッコリと笑顔になった。
何か考え事でもしてただけ、だったのかもしれない。邪魔しちゃったのかな。
「グロリアちゃんが強過ぎて、びっくりしちゃったんだよねー。ねー王女様」
「え? ええ、まあ、そうですね。とても、驚きました」
キャスさんの言葉に少し狼狽えながら頷く王女様。でも私は少し首を傾げる。
「そう、ですか? でもあれなら、ガンさんも、出来ますよ?」
「え!? そ、そうなんですか!?」
「待て待て待て。俺は魔道具を使わないと無理だから。素であんな事は出来ないから」
「そ、そうです、よね。び、びっくりしました・・・」
『グロリア。王女は魔道具の力無しで魔獣をあっさり倒した、という点に驚いていた様だ』
魔道具無しで、とは違う気がするけど、光を纏わずに倒したからって事かな?
そういえば王女様は私が紅い光を放ったところを見ているし、あれで倒すと思ってたのかも。
なのに近付いて殴るだけで倒したのを見て、予想外であんな顔をしていたのかな。
「・・・いえ、待って下さい。貴方、魔道具使いなのですか?」
「あ、いや、えっと、まあ・・・」
「魔道具持ちではなく、魔道具使いなんですか?」
「は、はい、そう、ですけど・・・」
ただ途中で何かに気が付いた様に、ぎょろりとガンさんに目を向ける王女様。
その迫力にガンさんは押されて、背を少し仰け反らせている。
「・・・あれを、同じように倒せるのは、本当ですか?」
「あー・・・同じように殴っては、ちょっと自信ないけど、斬って良いなら」
「そう、ですか・・・あれを、あっさりと、ですか・・・」
王女様は考え込む仕草を見せ、ガンさんもキャスさんも少し心配そうな顔を見せる。
護衛で付いて来ている兵士さん達も不安そうで、けれど王女様はすぐに顔を上げた。
そしてガンさんに一歩近づくと、彼の右手をきゅっと両手でつかんだ。
「ガン様、貴族との結婚についてどう思われますか?」
「・・・はい?」
『突然どうしたこの王女は』
突然王女様から放たれた言葉に、ガンさんが凄い曲げ方で首を傾げた。
ガライドも困惑した様子を見せていて、当然その状態で私が解る訳が無い。
同じ様に少し首を傾げながら、二人の会話を眺める。
「いえ・・・そうですね、貴方の目から、私は婚姻対象になりえますか?」
「????? 何言ってんの? 待って、王女様大丈夫? 何か混乱してない?」
「私は至って真面目です」
「それこそ意味解んねぇよ・・・」
王女様は言葉通り真剣な表情で、ガンさんは物凄く困った表情になってしまった。
「あっらー。ガンにもとうとう春がきちゃったー?」
「おめでとうございます、ガン。次期国王の席を頑張って奪い合って下さい」
「お前等まで何言ってんの!?」
「え、だっておめでたいじゃん。こんな可愛い子と結婚だよ。しかも王女様だよ」
「まさかガンが貴族になる日が来るとは。人生とは面白い物ですね」
「俺は何も面白くないしめでたくもねえよ! っていうか決定事項にするな!!」
私もおめでとうと言った方が良いのかな、と一瞬思ったけどガンさんは嫌みたいだ。
「ひ、姫様、流石にそれは、陛下がお許しになられないかと・・・彼は平民の出ですし・・・」
「許しは出させます」
「で、ですが・・・」
「今は黙っていて下さい」
「・・・はっ」
『・・・どうやら本気で言っている様だな。何を企んでいるのやら』
護衛さんが口を閉ざすと、王女様はまた一歩ガンさんに近付く。
「冗談や錯乱で口にしている訳ではありません。答えはすぐでなくて構いませんので。よければ真剣に、ご一考を」
「・・・いや、ええと、はい」
そして王女様は最後まで真剣で、ガンさんも最後まで困惑した様子だった。
『・・・取り敢えずこんな危ない森の中でする話ではないと思うのだが。わざとか?』
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