第93話、王女の仕事見学
王女様と遊んだ翌日。今日は傭兵の仕事に向かう予定になっている。
城に行っている間は一つしかしなかったし、久しぶりにいっぱい働こう。
むんと気合を入れて、リーディッドさんの後ろを付いて行く。
キャスさんとガンさんは組合で集合だ。
「真面目ですねぇ・・・」
『全くだな』
リーディッドさんとガライドがそう呟き、チラッと後ろへ目を向けた。
視線の先には当然後ろに居る私・・・ではなく、その隣の王女様だ。
今日の彼女は昨日よりも装飾の少ないドレスで、腰に小さめの剣をぶら下げている。
彼女は私の仕事を見学したいらしい。これも私見定める事の一つなのかな?
私としては構いはしないんだけど、危ない仕事も有るから少し心配ではある。
だって昨日の疲れ切った様子を見てると、そんなに動ける様に見えなかったし。
「自ら吐いた言葉を違えない。それが信頼の為の一歩でしょう?」
「信頼、ですか。私にしてみれば王族からは程遠い言葉ですね」
「・・・民にはそこそこ評判良いんですよ?」
「今の治世が悪いとは言いませんよ。この国は何だかんだ平和ですし。けどまあ、何も知らされていない下の者達であれば兎も角、上を知っている人間からは鼻で笑いたくなるという話です」
「・・・辛辣ですね」
「平時であるからこそ大きな問題無く回っている国。そう思っていますからね、私は」
リーディッドさんは鋭い目を向け、王女様は困った様な顔を見せた。
何だか険悪な空気を感じて、けれど何も言えなくてオロオロしてしまう。
「すみません。グロリアさんの前で言う事ではありませんでしたね」
「え、あ、い、いえ、気にしないで、下さい」
ただそんな私の頭を撫で、リーディッドさんは謝って来た。
謝って欲しい訳ではないし、別に彼女が悪いとも思ってはいない。
この人が意味なく厳しい目や言葉を向けるとは思えないし。
ただ王女様とは昨日遊んで、ガライドも認める人だと解った。
だから出来れば仲良くして欲しいな、と思うのは私の我が儘だろうか。
「事前にお伝えしましたが、私は貴女を守る余裕など有りませんからね」
「二度も確認は必要ありませんわ。その為に護衛も付けている訳ですから。それに私も戦えるほどの技量が有る、とは口が裂けても言えませんが、身を守る時間は稼げるつもりです」
「・・・ま、良いでしょう。くれぐれもお怪我をしない様に」
王女様が剣を握りながら応えると、リーディッドさんは溜め息を吐きながら注意を告げた。
実際リーディドさんは余り強くない。相手次第では守る余裕なんかきっと無いだろう。
「その時は、私が、頑張り、ます・・・!」
なのでフンスと気合を入れて告げると、何故か皆に苦笑された。
何でだろう。首を傾げていると「貴女はそれで良いです」と頭を撫でられた。
なら悩む必要は無いか。全力で彼女を守れば良い。
『そうだな。グロリアはきっとそれで良いのだろう』
ガライドも同意してくれたから間違いない。
そんな感じで屋敷を出て、トテトテと傭兵ギルドへ。
中に入ると「おっひさー!」とフランさんに抱きしめられた。
そのまま職員のお姉さん達にもみくちゃにされる。
「・・・私の知っている傭兵ギルドと、随分空気が違いますね」
そんな私達を眺めながら、王女様はポツリと呟いていた。
彼女の知るギルドはどんな所なんだろう。
あの大きなギルマスさんの居るギルトみたいな感じなのかな?
「よっす、グロリア」
「グロリアちゃーん、一昨日ぶりー。うりうりー」
「おはようござい、ます。ガンさん、キャスさん」
私を苦笑して見ているガンさんと、混ざりに来たキャスさんに挨拶を返す。
そんな私達の元へ、ギルマスさんものしのし近付いて来た。
「よう、グロリア。元気そうだな」
「はい。ギルマスさんも、元気、ですか?」
「おう、体が頑丈なのが取り柄みたいなもんだからな!」
ギルマスさんはそう言って私の頭をなでると、その視線を王女様へ向けた。
そのせいか自然とみんなの視線が、王女様へと向いた気がする。
「王女殿下、で宜しいかな」
「はい、ギルドマスター様」
「あー・・・一応話は聞いてるし、今ある仕事は危ない物は少ない。それでも全く危険が無いって訳じゃねえし、近くに居たら汚れる事も有る。王女様は本当に大丈夫なのかい?」
「構いません。自ら望んだ事ですから」
「・・・そうかい。じゃあ、まあ、怪我だけはしない様に気を付けてくれ・・・下さい」
「ふふっ、ありがとうございます」
ふわっと笑う王女様を見て、ギルマスさんがフッと笑顔を向ける。
・・・気のせいかな。フランさんの目が怖いのは。
「騙されちゃ駄目ですよギルマス・・・絶対笑顔の裏に何かありますよその子・・・!」
ギルマスさんの元には届いていないけど、私にはそんな声が聞こえた。
笑顔の裏、か。そうなのかな。私にはその辺りは判別がつかない。
でも私はガライドを信用したい。彼の判断を信じたいな。
「さて、では行きましょうか」
私がもみくちゃにされている間に手続きを終えたらしく、リーディッドさんの指示で外に出る。
当然ガンさんとキャスさんも一緒で、王女様もその後ろを護衛の兵士さんと一緒に。
「今日は本当に雑務しかありませんね」
「私はそれで良いけどねー。ガンと一緒なせいで魔獣の森に近い所に採取に行かされるもん」
「俺のせいにするな。前にも言ったけどお前らが付いて来たんだからな」
「「ガンが使えるのが悪い」」
「・・・何で俺使えるのに責められてるの?」
『本当に何でだろうな。ガンといい、あの子といい、不憫な男が多いなこの街は』
そんな感じで今日はのんびりと、街中のお仕事だけをした平和な一日だった。
「な、なぜ私まで野良仕事を・・・私はただ傭兵として戦う彼女の見学に・・・」
「ほら、王女様、手が止まってますよ。喋っても構いませんが手は動かして下さい。まだまだ今日の作業は有るんですから」
「王女様ー。もうちょっとしたら休憩だから頑張れー。ふれーふれー、おっうじょっさまー!」
「王女様、お水、飲んで、もうちょっと、頑張り、ましょう」
「・・・ワカリマシタ・・・ガンバリマス・・・」
ぜーぜーと汗をかきながら頑張る王女様に、皆で応援を送りながら。
「・・・王女様って野良仕事でこき使う様な相手だっけ? 俺がおかしいの? リーディッドは兎も角何でキャスはあの状況に順応してんの?」
『ガンが正しいと私も思う。私は段々彼女の事も不憫になって来たぞ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます