第72話、依頼理由

 夕食はまたリーディッドさんと共に向かい、前日と同じ人が食堂に集まる。

 ただテーブルに置かれている料理の量が昨日より少ない気がする。

 とはいえ私の前に置かれている料理は、昨日より多い気がするけれど。


『昨日のグロリアの様子を見て対処したようだな』


 つまり皆は残さない様に、私はいっぱい食べられる様に気を使ってくれたのか。

 それは嬉しい。美味しい料理をいっぱい食べられるのは幸せだ。

 何より昨日と違って、ちゃんとマナーを守って食べきれると思うし。


 ・・・昨日は怒りで、その辺り頭から飛んじゃったから


「グロリア嬢には我が家の料理を気に入って頂けた様だ。もし足りなければまだ追加を用意するので遠慮なく言ってくれ。幾らでも、満足するまで食べてくれて良いぞ」

「っ、良いん、です、か?」

「え、あ、ああ。構わないが・・・」

「ありがとう、ござい、ます。じゃあ、もっと、お願い、します」


 領主さんが許可をくれたので、料理人さんにもっと持って来て欲しいとお願いする。

 すると彼は「畏まりました」と答え、恭しく礼をして部屋を去って行った。


「ご機嫌を取ろうとして不用意な事を。私は面白いので構いませんが」

『悉く裏目に出ているな、あの男の行動は。いや、機嫌は取れたので失敗ではないのか?』


 その様子を見たリーディッドさんがクスリと笑い、ガライドも少し笑っている気がする。

 二人の機嫌が良さそうなら、私の行動はきっと間違ってないんだろう。

 そう判断して未だ少し緊張しつつも、美味しい料理に手を伸ばした。


 暫くは静かな食事が続き、私の手元の料理が減って来た所で追加が置かれた。

 手元の料理を食べきるとそちらに手を出すと、また料理人さんが何処かへ消えて行く。

 一瞬驚いた顔をしていた気がするけど気のせいだろうか。


「そういえば、今日は娘が迷惑をかけたようだ。どうもこの子は貴女の事を慕っている様でね」

「お父様、私は迷惑などかけておりません」

「ほう。ならば傭兵ギルドに向かったのもお前の意思ではないと?」

「それは、その、私の我が儘、ですが・・・」

「お前の様な世間知らずの小娘を連れて入った事でトラブルがあったと聞いている。良くそれで迷惑をかけていない、等と言えたものだ。少々恥知らずではないか?」

「・・・申し訳ありません」

『傭兵ギルドで何があったかも知っているか。おそらく護衛が報告したのだろうな。流石に個室で何を話していたか、までは解っていないだろうが』


 もしゃもしゃと美味しい料理を食べていると、何故かエシャルネさんが怒られていた。

 けどギルドに向かったのは皆同意してだし、あの騒動は彼女が悪い訳じゃないと思う。

 刃物を振り回した人が悪い。ギルマスさんだってそう言ってたはずだ。


「私どもは迷惑とは思っておりませんよ。エシャルネ様にも落ち度はありません。エシャルネ様お一人で向かったのであれば確かに問題ですが、今回の件は私が許可を出しました。ならば騒動に巻き込まれた事を責められるは私でしょう。申し訳ありませんでした」

「・・・いや、貴方が謝る事ではないよ。だが貴女がそう言うのであれば、私もこれ以上は止めておこう。貴女の顔を潰したくはない」

「寛大な御言葉感謝いたします、領主様」

『・・・どっちが謝っているのか。態度と立場が完全に逆じゃないか』


 リーディッドさんが謝ると、領主さんが少し間を開けてから応えた。

 多分エシャルネさんが悪い訳ではないと納得してくれた、で良いんだよね?

 良かったと思い彼女を見ると、嬉しそうな顔でリーディッドさんを見つめていた。


 きっと庇ってもらえて嬉しかったんだろうな。

 私も似たような経験がいっぱいあるから良く解る。

 なんて思いながらもしゃもしゃと食べ、追加で来た料理も食べ続けて行く。


「ところで領主様。今日ギルドに行った事で面白い話を聞きましてね」

「面白い話?」

「いえ、どうやら街に魔獣が居るのに退治されていない、という話を聞いたんですよ」

「・・・ああ、知っているとも。花畑に魔獣が現れたそうだね」

「ええ。どうも話しを聞くに、その危険性から領主様へ陳情もあったとか。古代魔道具の使い手のお嬢様に、どうか魔獣退治をお願いしますと・・・対処されないのは何か理由が?」

『よく言う。発生した時期と状況的に、退治に向かえないのが解っているだろうに』


 そう、なのかな。発生自体は結構前から、って話だった気がするけど。

 ただどうにもならなくて領主にお願いをした、っていうのが最近の話だったような。

 色々と細かくリーディッドさんが聞いていたから、多分間違ってないと思う。

 だからやろうと思えば早目に対処して、被害は少なく出来たと思うんだけどな。


「その魔獣は毒を撒くと聞いている。大事な古代魔道具の使い手を下手に死なせる訳にはいかんのでね。ある程度の安全確認が済んでから対処を取ろうとは思っていた。それに現れた場所は『花畑』だ。少々放置した所で大きな害はない。実際発生してからそれなりに経っている」


 害は無いという言葉に疑問を覚える。だって害は確実にあるのだから。

 私は『毒』に対して強いみたいだけど、普通の人は耐えられないらしい。

 そんな物をまき散らす魔獣が居る。その時点で害でしかないと思う。

 花畑も元々誰かが管理していた場所だから大損害だと聞いた。


「あら、そうなのですね。領主様にはお考えがあっての事だというのに、余計な口をはさんでしまいましたか。確かに古代魔道具の存在は大事ですものね」

「・・・解って貰えたようで何よりだ」

「ですが一つ気になる事が。退治を陳情されたのは、ギルドマスターが古代魔道具の性能をご存じだからですよね? 毒など関係の無い遠距離攻撃で仕留められると判断してでは?」

『・・・悪い笑みが似合い過ぎる。出来ないと解っての言葉だろうが、どっちが悪役か解らんな・・・私は時々、本当にリーディッドをグロリアの傍に置いて良いのか悩むぞ』


 ガライドの心配は気にし過ぎだと思う。リーディッドさんは良い人だと思うよ?

 それにしても美味しい。まだまだ食べられるみたいで嬉しい。幸せ。

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