第59話、訪問

 リーディッドさんが戻って来ると、車の扉がパタンとしめられる。

 そして暫く待つと「わふっ」という鳴き声と共に車が動き始めた。

 大きな壁を潜って、街の中へ入って行く。多分このままあのお城に向かうんだろう。


「折角の別の街ですから本当はグロリアさんを連れて歩いてあげたいんですけどね。とりあえず今は我慢して下さい。話し合いが終わった後なら、多少は回れると思いますから」

「え、いえ、私は、別に、構いません、よ?」


 窓の外をじーっと見ていたからか、リーディッドさんが申し訳なさそうだ。

 けど別に街を回りたくて見ていた訳じゃないし、謝られる様な事は無い。

 むしろ私は早く帰りたいとすら思っている。みんなの居る街に早く。


「何かお土産買って帰りたいねー。ね、グロリアちゃん」

「つーか買って帰らねえとフランが絶対煩いぞ。あと受付の姐さん方が」

「確かに、ギルドには何か買って行かないといけませんかね。はぁ、面倒くさい」

『・・・完全に観光気分だな。彼女達らしいといえばらしいが』


 お土産。そっか、お土産を買って帰らないといけないんだ。

 キャスさんが言ってくれなかったら、多分気が付かなかったと思う。

 お財布はちゃんと持って来てる。ちゃんと何時も通り服の中に入れている。

 リズさんを少し困らせてしまったけど、これだけは手放せない。


 ただお土産を買うとしても、何を買えばいいのかな。

 食べ物は・・・悪くなりそうな気がする。帰りに日数がかかるし。

 友達は、女の子は髪飾りとか好きだったけど、男の子は何が良いんだろう。

 虫が好きな子はいたけど、それなら山に行った方が居るしなぁ。


「うーん・・・うーん・・・お土産・・・うーん・・・」

「ねえ、グロリアちゃんが物凄く真剣に悩ん出るんだけど、邪魔しない方が良いかな」

「そりゃあ・・・いやどうだろ、悩んでるっていうか、苦しんでる風に見えて来た」

「意外な所で困った様子を見せますよね、グロリアさんは」

『まあ、都会に出て土産など、選んだ事が無いだろうしなぁ・・・』


 暫く悩み続けたけれど、結局答えが出る前に車が止まった。

 なので悩むのはそこまでにして、少し緊張しながら背筋を伸ばす。

 そして扉が開いて兵士さんが手を差し出し、先ずリーディッドさんが下りて行った。


 ただ私の場合はリズさんが先に降りて、彼女に手を取られて車を降りる。

 外に出ると人がいっぱい並んでいて、思わずビクッとしてしまった。

 特に鎧を着てる人達の目が、私達を警戒している様に見えて。


『随分物々しい様子だ。歓迎はされていないな』


 ガライドが周囲の様子を見てそんな事を言い、少し警戒心が上がる。

 何かあったら私が皆を守らないと。あ、でも今回は戦っちゃ駄目なんだった。

 うう、でもやっぱりいざとなったら、怒られても戦うしか・・・。


「いらっしゃいませ。旦那様から案内を仰せつかっております。どうぞこちらへ」


 並んでいる内の一人が、頭を軽く下げてからそう告げた。

 リズさんと似た様な使用人姿だから、このお城の使用人さんなのかな。

 そして後ろに居る鎧を着た人達は、きっと兵士さん、なんだろう。


「ええ、お願いします。私もご頭首へのご挨拶は先にしておきたいので」


 リーディッドさんがニコッと怖い笑みを見せ、使用人さんに優しい声で応える。

 その間にキャスさん達も車を降り、私達の後に付いて来ていた。


「リーディッドさん、こっちよ」

「ええ、直ぐに参ります」


 ただ使用人さんが案内をする前に、魔道具使いの女性が移動を促す。

 その行動に少し違和感を感じた。あんまりに普通に話しかけて来たから。

 出発前も、宿場町で顔を合わせた時も、何処か私達を怖がっていた様子だったのに。


 けどリーディッドさんが素直について行くので、私もその後ろをついて行く。

 何故かリズさんに手を引かれてだけど。聞いてないけどそういう決まりなんだろうか。

 少し緊張するけど嫌じゃないし、素直に手を繋いで黙って歩き続ける。

 更にその後ろをキャスさんとガンさん、兵士さん達が付いて来ていた。


「その・・・お嬢様、差し出がましい事とは思いますが、旦那様は何時もの応接間には居りません。そちらに連れて行かれるつもりでしたら、二度手間になりますかと・・・」

「・・あっそ。じゃあ早く案内してくれない?」

「も、申し訳ありません。すぐにご案内致します」


 けれど女性の案内だと間違いな様で、使用人さんが途中で止めた。

 女性が対し不満そうに返すと、使用人さんは少し怯えた様子を見せる。


「そんな風に言われずとも良いではありませんか。たとえ不興を買うとしても間違いを正してくれる。そんな使用人は家の宝ですよ。少なくとも私はそう思っております」

「・・・リーディッドさんがそう言うのであれば・・・謝っておきますわ」

「め、滅相も無い! お、お気になさらず!」


 リーディッドさんの言葉で女性が謝ると、使用人さんは驚いた様子で応えていた。

 とはいえ女性は不服そうで、リーディッドさんは怖い雰囲気のままだけど。

 その様子に何とも言えない居心地の悪さを感じながら、使用人さんに付いて行く。

 暫く全員無言で歩いて行くと、とある部屋の扉に使用人さんがノックした。


「お客様をお連れしました」


 使用人さんのその言葉に返事は無く、思わず私はキョロキョロと周りを見てしまう。

 キャスさんとガンさんも同じ様な様子で、けど他の人は動じていない。

 ただ少しすると扉が開き、大きな兵士さんが姿を現した。


「どうぞ、お嬢様方」


 兵士さんがそう言うと、使用人さんが一歩下がって腰を折った。

 そこでリーディッドさんと女性が動き、私も慌てて後ろをついて行く。

 扉をくぐったその先には、もう一つ扉が在る小部屋だった。


 全員が仲に入ると後ろの扉が閉まり、前の扉が兵士さんの手で開かれる。

 けれどその先には又扉が在って、変な空間に思わず首を傾げた。


『二重扉どころか三重扉か。話を聞かれたくない為の部屋か・・・それとも』


 ただガライドが説明をしてくれて、扉の意味は解ったけれど。

 そっか、その為に幾つも扉が在るんだね。確かに声は聞こえ難くなりそう。


「護衛の方々はここでお待ちをお願いします」

「・・・リーディッド様、どうします?」

「大丈夫ですよ、キャスさん。ガンさんや兵士達と共に待っていて下さい」

「・・・解りました。貴女がそう言うのであれば」


 何時もと違う様子のキャスさんに、リーディッドさんは待っている様にと告げる。

 すると少し不満そうではあるけれど、部屋の端にある椅子に素直に座った。

 ガンさん達も同じ様に座り、それを見届けてから扉の先に促される。


 そしてまた後ろの扉が閉まると、前の扉が開かれた。

 今度は又扉、という事は無く、扉の先は普通に部屋の中だ。

 中央には大きな椅子や机が合って、そこにおじさんがニコニコ笑顔で座っている。


「ようこそおいで下さった。先ずはお座りなさい」

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