閑話、本当の観察者

 街に来て碌に下調べもせず、ただ言われた事をやっただけの無能達。

 彼女のあからさまな釣りに気が付かないとか、余りに頭が悪くて笑えない。

 あの少女は何度か連中の方を確認していた。子供達と遊んでいる間もだ。

 解り易く視線は向けていなかったけれど、何度か警戒する素振りが有った。


 そして子供達と別れたら一人になって、わざと人気のない方向に向かったと。

 アレを好機と取るのは流石に無能が過ぎないか。どう考えても罠でしょ。

 まあ自分が魔道具持ちだから、いざとなればとか思ってたのかもしれないけど。


 そんな無能達が縛られて行くのを見ながら溜め息を吐く。

 出来れば捕まるにしても、もうちょっと捕まり方を考えて欲しい。

 あれじゃ少女の実力は殆ど解らず仕舞いで、無駄に警戒心が増しただけじゃないか。


 ・・・でもまあ、少しは役に立った、のかな?


 少女の強さの片鱗は見れた。紅い魔道具を纏った少女の動きが。

 逃げる男の前に立ちふさがったあの動きは、間違い無く魔道具使いのもの。

 彼女は古代魔道具を使いこなしている。ただ持っている訳じゃない。


 勿論少女が元々強い事は知っているけれど、普段はあそこまでの動きは見せない。

 ただ出来れば、紅い光を纏った戦闘をもっと見たかった。

 これは最初の一撃が見れただけでも良かった、と思うしかないのかな。


 彼女が『合図』に使った紅い一撃。アレは相当な威力だった。


 あの時袋と彼女の服の袖が消し飛んだ。一瞬で、跡形もなく。

 つまりただの威力の有るだけの攻撃とは思わない方が良い。

 塵すら残さず消え去る一撃なんて危険極まりない。


 本当はあんな物を出さずに叩き伏せられるだろうに、力を見せる事で足を止めさせた。

 あんな光を後ろから撃たれちゃ堪らない。それが解らなかった馬鹿だけが逃げようとした。

 ただし逃がさない事こそが少女の目的だった訳で、どちらにせよ詰んでいたんだけど。



 さてはて、それで私はどうしたものか。



 あの馬鹿共は確実に、私の関係者とは別口の人間から依頼を受けている。

 もし彼が依頼を出すとするなら、あんな頭の悪い奴らは雇わないだろう。

 そもそもあの程度の連中を雇う人間は、まだ彼女の事を知らないはずだ。


 ここの領主からの報告は、緊急連絡の封書だったと聞いた。

 その場合中身を知るのは国王とその側近達ぐらいのはず。

 知っている人間は限られているはずなのに、今回こういう事が起きたのは何故か。


 多分成り上がりたい下っ端貴族に情報を流した奴が居るな。

 のし上がる能力も無いくせに、上昇志向だけは一人前の連中は何処にでも居るからね。

 そんな連中が、回復の魔道具持ちを手に入れれば、等と考えた可能性が高い。


 となると今後もこういう事が続くかもしれない。

 馬鹿な連中が人を選ばず、無能を送り続けられると私が困るんだけど。


 今回の件でおそらく彼女と周囲の警戒は上がるだろう。

 彼女は好かれている。少なくとも傭兵ギルドの人間は彼女を保護したがっていた。

 そして回復魔法が使える魔道具使いとなれば、この地の領主も手放したくはないはず。



 つまり、今まで以上に彼女への接触が難しくなってしまった、という事だ。



 ただでさえ彼女は一人で居る事が少ないのに、今後は絶対に一人にならないだろう。

 唯一単独行動をする機会と言えば、魔獣の森に入って行くときだろうか。

 アレに付いて行く? 勘弁してほしい。あんな気が抜けない空間に行きたくはない。


 そもそも彼女が異常なんだ。先ず何故常に魔道具を使い続けられるのか。

 あの両手両足の動きは余りに自然過ぎて、知らなければ魔道具とは思えない。

 そんな自然な動きをする魔道具を平然と使い続け、更に上の段階があるとか変な笑いが出る。


 アレは手を出しちゃいけない化け物。それが私の下した結論。











「なら、狙い目は、今かな。戦闘モード起動」

『システム戦闘モードニ移行。ターゲットロック。補正処理開始・・・射撃準備完了』


 彼女の意識は完全に男達に向いている。私に気が付いている気配はない。

 つまりここは彼女の射程範囲外。事が解決した気の緩むタイミングこそが好機だ。


『ターゲット、エネルギー排出量減少。シールド効果ノ減少ト予測』

「やっぱり防御にも使えるんだ、アレ」


 申し訳ないけど、この国に新しい古代魔道具使いは要らないんだ。

 しかも回復魔法だなんて、ここの領主に持たれると都合が悪いんだよ。

 それに私の価値が下がっちゃうんだってさ。


「悪いね。恨むなら、権力争いが至上な連中を恨んでくれ」

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