閑話、使用人の想い
領主館にこれから子供が住む事になると、突然連絡が入った。
まさか領主様が隠し子を・・・等という話には一切なっていない。
むしろそれならばどれだけ良いか。浮いた話一つない事に使用人一同は危機感を覚えている。
「あー・・・帰ってきちゃいましたねぇ。帰って来るつもり無かったんですけどねぇ・・・」
そんな領主様が連れて来たのは、久々にお帰りになったリーディッドお嬢様だった。
まさか仲直りしたのかと思った一同は、その横に居る女の子に気が付く。
整った顔立ちの、赤い髪と目が印象的な子供。
派手な見目とは裏腹な、物静かそうな雰囲気。
そして両手両足の厳つい武装と、それに違和感の無い足取り。
異質だった。どう考えても普通の子供ではない。
おそらく私だけではなく、全員がそう思っていた。
「彼女はグロリア。これから屋敷で面倒を見る。皆宜しく頼む」
領主様の言葉に皆が頭を下げ、彼女を受け入れる意を示す。
そもそも余程の事が無い限り屋敷の主に異を唱える事など無い。
彼女がリーディッドお嬢様を連れ帰る切っ掛けになったのであれば尚の事だろう。
けれど彼女の身の上を聞き、そんな話どころではないと思わされた。
更に彼女はこの幼さでありながら、傭兵として仕事をすると告げる。
説明された彼女の強さが事実であれば、心配など不要なのだろう。
だが彼女は子供だ。当然ではあるけれど心配する者は出る。
けれど彼女の怪我を心配する私達に対し、刃物を貸して欲しいと言い出した。
最初は武術を収めている証拠でも見せるのかと思い、私達は武器の大きさを訊ねた。
だが彼女はどんな物でも構わないと言い出し、不思議に思いながらナイフを手渡す事に。
すると――――――彼女はナイフを首に押し当て押し込んだのだ
一同は驚き慌てて取りあげると、彼女の首には傷一つない。
それどころかナイフがへし折れていて、彼女はそれを当たり前の様に見ていた。
簡単に怪我はしないと、そう言って。
私はその事実に息を呑んだ。体の強靭さにではなく、彼女の考え方に。
だってそうだろう。彼女の発言の意味を少し考えればすぐに解る。
彼女はナイフを首に当てる事を、何でも無い事だと認識する様な生活だったのだと。
ほおっておけない。そう、思った。
気が付くと彼女付きの使用人に立候補しており、そしてすぐに認められた。
自分で言うのも何だが、私はこの屋敷で働いて長いから多少信用は有る。
それに自らこんな事を望むのは、今回が初めてだったのも理由だろう。
「グロリアお嬢様、私の名はリズと申します。どうぞ、よろしくお願い致します」
「・・・よろしく、おねがい、します」
ぺこりと頭を下げる彼女に、出来るだけ『人間らしく』なって欲しいと願う。
その為にも先ずは彼女の事を知ろう。もっとグロリアという少女の事を知ろう。
好きな事、嫌いな事、彼女が考えすらしなかった事も。
きっと聞かれて嫌な事も有るだろう。聞いて私が嫌になる事も有るだろう
けれど聞かなければいけない。そして彼女は自分の語る事の意味を何時か知って欲しい。
最初から自分の意思なら構わない。
けれどそこに『選択肢』が無い事は異常なのだと。
在るがままに只受け入れている状況がおかしいのだと。
そう、何時か知って欲しい。
「そうですか、紅いドレスを・・・それが貴女の戦闘服なのですね」
「・・・戦闘服・・・そう、ですね・・・」
とはいえ彼女の事を否定はしない。彼女が望む事を否定しても意味が無い。
彼女の生き方を否定して良いのは、未来の彼女がそう思った時だけだ。
そう思えるように、なって欲しいとは、少し思ってしまうけれど。
さしあたっては紅い服を揃えよう。彼女の仕事着を見繕わねば。
ドレスは幼いころのリーディッドお嬢様の服を手直しすれば良い。
ただグローブやソックスが無い。新しく作って頂かねば。
領主様にも彼女の魔道具である手足を隠す様にと命じられた。
ならば多少は金がかかっても問題は無いはず。
ただ今は白い物しかないので、暫くは我慢をして頂こう。
「・・・リズ、気合を入れるのは結構ですが、やり過ぎないで下さいよ」
「はい、リーディッドお嬢様」
「・・・本当に解っているんでしょうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます