第24話、許可
「失礼致します」
コンコンと音が響くの耳に入り、パチリと目を覚ました。
そして見慣れない壁を見て、領主館という所に来たのだと思い出す。
昨日リーディッドさんと一緒に来て、色々あった後にこの部屋で寝る事になったんだっけ。
状況を思い出して体を起こすと部屋の扉が開き、女の人が入って来る。
とてもいい服を着た綺麗な人で、別の世界から出て来たんじゃないかと思う様な人。
確か名前は・・・リズさん、だったと思う。
最初はここに居る人は皆偉い人なのかと思った。
けれど領主さんの話を聞くと、この人は使用人らしい。
私が知ってる使用人と大分違う。こんなに綺麗な人は見た事無い。
そんな人に昨日何故か、これから私の世話をすると言われた。
「おはようございます、グロリアお嬢様」
「・・・おはよう、ござい、ます」
挨拶をして来たので、恐る恐る私も挨拶を返す。
お嬢様と言われて違和感しかないけど、これからもそう呼ばれるらしい。
今後もそういう事が有るかもしれないから、慣れて欲しいと言われてしまっている。
『おはようグロリア。寝れなかった様だな』
「・・・はい。おはよう、ございます、ガライド」
窓枠に転がっていたガライドが、すーっと近付いて来た。
ガライドの言葉は事実だ。昨日私は中々寝られなかった。
取り敢えず挨拶をして、ガライドに手を伸ばして抱える。
そんな私を見た彼女はニコリと笑い、ゆったりとした動きで近付いて来た。
けど動きの一つ一つが綺麗で、何故か凄く緊張してしまう。
「昨晩はゆっくり寝られましたか?」
「・・・はい、寝られ、ました」
咄嗟に嘘をついてしまった。理由は自分でも良く解らない。
勿論全部が嘘じゃない。寝た事自体は本当の事だ。
ただしガライドの言う通り、殆ど寝れていないだけで。
それというのも今腰かけている物が原因だったりする。
今私が腰にかけている『ベッド』はとてもフカフカだ。
フカフカ過ぎて、凄く落ち着かない。とてもソワソワする。
そのせいで中々寝付けなくて、眠った時には日が昇りかけていた。
けれど少しは寝ているからか、体に疲れなどは感じていない。
そもそもガライドと出会ってから、疲れたという感覚が無いのだけど。
毎日食事があるおかげだろうか。多分そうだと思う。
「こちらお着替えをご用意させて頂きました。ご確認下さい」
「・・・ありがとう、ござい、ます」
ふわっと優しくベッドに着替えを置かれ、言われた通り手に取って確かめる。
と言っても私に何が解る訳もない。服が紅いなと思うだけだ。
ただ闘技場で着ていたドレスよりきっと良い物で、更に言えば手袋と靴下もある。
手袋は肩口までの長さで、靴下は膝上まである長い物。
とはいえこちらは流石に赤くはなく、どちらも真っ白な物だ。
これを付けたら手足が隠れてしまうけど、付けた方が良いのかな。
「・・・これも、付けるん、ですか?」
「ご不快かもしれませんが、お付け頂く様に領主様から命じられております。領地内であれば多少目立っても問題ありませんが、他領に向かわれた際に目立たない様、慣れて頂く為だと仰られておりました」
目立たない様にする必要が有るのか。
でも理由が良く解らず、思わずガライドに目を向ける。
『気を遣っての事だろうな。この街では受け入れられたが、何処でもそうという訳には行かないのだろう。そう考えれば目立たない処置は必要だ。言われた通り付けておくと良い』
「・・・わかり、ました」
「ご理解ありがとうございます」
ガライドの言葉に頷くと、リズさんが小さく頭を下げる。
それにビクッと仰け反ってしまい、彼女は少し困った様に笑った。
「流石に昨日の今日では、慣れては頂けない様ですね」
「・・・す、すみま、せん」
「いえ、謝られる必要など有りません。私が未熟なだけですので。リーディッドお嬢様とは自然に会話されておりましたし、私もそう在れる様に努力させて頂きます」
リーディッドさんは、だって、こんなに緊張感は無いから。
領主館に来てからも何時もと同じで、だから私も普段通りなだけなんだけど。
なんて思っているとキィっと扉が開き、リーディッドさんが部屋に入って来た。
「くそ真面目過ぎなんですよ、貴女は。もうちょっと肩の力を抜きなさいな」
「リーディッドお嬢様、お部屋に入る際は最低限ノックをされますように」
「そういう所ですよ、グロリアさんが緊張するのは。彼女はつい最近までそんな世界とは無縁の人だったんですよ。きっちりやれって空気を出し過ぎなんですよ」
「そんなつもりはないのですが・・・難しいですね。頑張ります」
「いやだから・・・もう、相変らず張りっぱなしでメリハリが無いですね。疲れませんか?」
「これが自然体ですので」
『中々に難物だな、この使用人は。悪い人間ではない事は解るのだが』
アレが自然体。そう言われてしまうと、緊張が解けるか自信がない。
リズさんの言葉にはぁと溜息を吐くと、リーディッドさんは笑顔で近付いて来た。
「おはようございます、グロリアさん」
「おはよう、ござい、ます」
「食事の用意がもう少しで出来ますので、一緒に食べようと誘いに来ました」
食事。そう聞いた瞬間、口の端が上がるのを自覚した。
「リーディッドさんの、料理、ですか?」
「その笑顔を見てしまうと言い難いのですが、残念ながらここでは厨房に入らせてもらえないんですよ。なので作ったのは領主お抱えの料理人となります。古株のお爺ちゃんですよ」
「・・・そう、です、か」
「落ち込まれて喜べば良いのか困れば良いのか悩み所ですねぇ」
自分でも予想外なぐらい、凄くがっかりしてしまった。
彼女はそんな私の頭をポンポンと叩き、優しく撫でてニッと笑う。
「まあ味は良いので大丈夫ですよ。期待してください」
「わかり、ました。期待、します」
リーディッドさんが言うならきっと美味しいに違いない。
素直に頷いて応え、ベッドから降りて着替えを手に取る。
するとリズさんが手を差し伸ばして来た。
「グロリアお嬢様、お着替えをお手伝い致します」
「・・・わかり、ました」
ニッコリと笑顔を向けられ、けれど何故か有無を言わさない迫力が有った。
そのせいか着替えるだけで凄く緊張した。朝から気持ちが凄く疲れた気がする。
着替えたら三人で部屋を出て、綺麗な廊下を歩いて行く。
先頭はリズさんで、リーディッドさんと私はその後ろを付いて行っている。
そしてとある扉を開いた先の、とても広い部屋に入れられた。
中には大きなテーブルが有って、上には食べ物が乗っていて・・・領主さんが座っている。
「やあ、おはようグロリア。よく眠れたかな?」
「・・・はい、眠れ、ました」
「眠れる訳ないじゃないですか、こんな落ち着かない所。後何食事の時間合わせようとしてるんですか気持ち悪い。何時ももっと早いでしょう。とっとと消えてくれませんか?」
「リーディッド・・・数少ない家族の交流ぐらい良いじゃないか・・・」
「天涯孤独ですので、そういうの解りませんね」
領主さんの問いに頷くと、リーディッドさんは否定を返した。
それに驚いていると、どんどん領主さんへ文句を口にする。
領主さんは悲しかったのか、目を抑えて俯いてしまった。
「さて、あんなのはほっておいて食べましょう。テーブルマナーはその内教えますけど、暫くは食器を使って食べる事に慣れましょう。グロリアさん、スプーンすら慣れてないでしょう?」
「リーディッド、無視は良くないと、兄さん思うなぁ・・・」
領主さんの言葉を完全に無視して、リーディッドさんは私を席に座らせる。
そしてスプーンを手渡し、食事をする様に促した。
目の前には見た事の無い物が沢山で、どれを食べて良いのか解らない。
「・・・どれを、食べて、良いんで、しょうか」
「・・・そうか、そうでしたね。どれでも良いですよ。全部食べたって、構いません」
「良いん、ですか?」
「ええ、良いんですよ。誰も怒りませんから、好きに食べて下さい」
リーディッドさんに許可を貰い、言われた通りに手を出してみる。
取り敢えず一番近くにあった『スープ』に似た物を。
ゆっくりスプーンですくって、零さない様に口に入れる。
「――――――!」
美味しい。凄く、美味しい。色々一杯口に中に不思議な味がする。
もっと食べて良いのかな。良いん、だよね?
そうやって一応大丈夫か伺いながら、美味しい料理を食べさせて貰った。
美味しかったし、幸せだったけど・・・緊張したかもしれない。
「・・・失念していました。そういえば彼女は生の魔獣以外は、手渡された料理しか食べてませんでしたね。食べる事に許可が要ると思っているのか。はぁ、教える事は多そうですねぇ」
『全くだ。私ももう少し細かく気が付ける様にならねばな・・・』
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