思春期 眼鏡

 眼鏡。眼鏡だ。

 ぎろりとしたただでさえ大きな目と視線が合いそうで合わない。

 華蝶は眼鏡を掛け始めた。意図する所は分からないが、視力が悪い訳では無い筈なので、視線を気にしたのかもしれない。華蝶の美貌には大振りな黒縁眼鏡は不釣り合いで俺は気に入らなかった。

「華蝶、やめろよ。眼鏡を掛ける程に視力が落ちちゃいないんだろう?」

「風彦の言う事なんて聞く必要があるのかい?」

 ぷい、とそっぽを向いた華蝶の横顔は相変わらず綺麗な曲線と直線の絶妙なバランスを描いて、惚れ惚れする。

 華蝶の本音がどうであれ、眼鏡を掛ける事で今で言う陰キャの立ち位置を確立させてしまった事により孤立している華蝶に絡む俺は周囲にいじめっ子に見えていたのかもしれない。ひそひそと陰で言われる話が聞こえない訳では無いが、俺はそれより華蝶と話がしたかった。

「眼鏡を外せよ、華蝶」

「嫌だ」

 そんなやり取りが学生の間中は続いた。

 暴力で無理矢理にでも外させる事は出来たけれど、俺が華蝶にそんな事をする訳は無い。

 ただただ、眼鏡の奥の光を通すと琥珀に光る瞳を見ていた。

 こんなに俺が追い掛けているのに、華蝶はなんの反応も示しさない、訳では無い。

 華蝶が重たそうな眼鏡で本を読んでいる時に、俺への視線を感じる事もあるし、俺の誕生日には差出人の名前の無いリボンに包まれて苺のシールが貼ってある恋愛小説が机に入っている。苺のシールは華蝶の好んだものだ。

 相変わらず苺が好きなんだな、と俺は微笑ましく思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る