幼少期 いつの間にか傍にいた

 彼奴とは同じく昭和の終わりの生まれ、と言っても流石に同じ病院で産声をあげた、なんてフィクション染みた事は言えない。ただ、保育園は同じ年長組だったから、その頃には一緒に居たんだろう。

 女児みたいな可愛い顔をした子供で、よく男子にモテた。本人は無自覚らしいが、よく「風彦ちゃんが本命だから、風彦ちゃんと結婚するの」と言って振っていたらしいので、華蝶自身も性別は分かってなかったんだろう。子供なんてそんなものだ。

「ねぇ、風彦ちゃん。華蝶からおちんちん取れたら結婚しようね」

 等と言っていたので、どうやら親に「大人になったら性器が取れて女の子になる」と言われていたらしい。今思うと、華蝶は親に女の子が欲しいと望まれていた節がある。

 それは小学校で「男の子は黒いランドセルですよ」と教師に言われても、華蝶がピンクのスカートを履いていたのを見れば何となく想像がつく。ふわふわの柔らかい髪を長くして、苺の髪ゴムで結んでいて、ランドセルを背負って居ない時は女児にしか見えなかった。

 小学校2年生の頃、華蝶のクラスに来て、告白して来た3年生の小学生男子が居た。俺は違うクラスだから知らなかったが、華蝶は相変わらず告白を断ったらしい。

 それから、華蝶はいじめにあうようになった。同じクラスメイトだけではなく、3年生の小学生が指示していたらしい。

 華蝶はよく俺に泣きついて来た。

「もう学校に行きたくないよ」

 べそべそと泣く華蝶に代わって、俺が3年生の小学生の所に行って、取っ組み合いの喧嘩をした。身体的に差がある頃だから、酷く殴られて骨折をする怪我をした。それでも俺は満足だった。その3年生はもう華蝶にちょっかいを出て来なくなったからだ。

 俺としては満足だったのだが、華蝶に取っては随分とショックな出来事だったらしい。

俺が入院から戻ってくると、華蝶はもうスカートを履いてなかった。髪も短くして、俯きがちの静かな少年になっていた。

「風彦ちゃん。ごめん」

 一言、華蝶が言うのに、頭を撫でてやったら、華蝶はぎこちなく笑った。

 前の華蝶より、今の華蝶の方が綺麗だな。

 なんとなく俺はそう思った。

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