五十六日目
五十六日目
草原は思ったより食料調達が難しい。
水場も限られているし、狩って食べられるような動物も少ない。
これが昨日、すぐに出発しないで商人さんを見送った理由だよ。
陽が落ちる前にその日の食料をどうにかしないといけないからね。
結局、辺りを探しても食料は見つけられなかったから、川まで引き返して魚を獲ったよ。
ただこれも釣り竿は作ったものの私じゃ一日かけて一匹二匹しか釣れないから、姫ニャンに獲ってもらった数の方がずっと多い。
あと草原はたき火も気をつけないといけないね。
芝生の上でたき火をしちゃいけないことは某アニメで学んだから、魚は釣ったらその場で焼いて、夜はたき火はしなかった。
もちろん寒かったけれど、マントのおかげでだいぶマシだったよ。
というわけで今日も人間の町を探して出発だよ。
太郎丸を走らせていると、姫ニャンがしきりにフードをかぶせてきた。
初めはイタズラかと思ったんだけど、どうにもかぶっておかないとよくないみたいだ。
理由はちょっと思いつかなかったけれど、姫ニャンがそうしろと言うんだ。私はおとなしくフードをかぶることにしたよ。
若干視界は悪くなったけれど、案外快適かもしれない。よく考えたら直射日光当たりっぱなしだったからね。
直射日光と言えばあれだ。私、実はあまり肌が強くないんだ。
日光に当たると皮膚真っ赤になって黒くならなくて、ひたすら痛いだけ。
なんだけど、こっちの世界に来て傘も帽子もなかったわりには日焼けはしてない。
そりゃあ、ここのところ野外での生活が続いてるから水浴びとかすると軽くしみるけど、その程度。
元の世界でオゾン層が破れて紫外線が――って話、結構深刻だったのかもしれないね。
日射しが穏やかっていうのか、異世界は有害性とかあまりなさそうな感じだよ。
まあ、あくまで私の体感だから他の人だと違う感想かもしれないけれどね。
あと元の世界の人間なら必ずやると思うんだけど、せっかくマントを手に入れたからマントをバサアッってやつもやってみたよ。
姫ニャンに「なんだこいつ?」みたいな顔されたけど、やっぱり楽しかったよ。
ただもうやらないと思う。
姫ニャンからあんな視線を向けられると心に来る。
でもやっぱりにおいは気になるかな。次に水場を見つけたら洗濯してみよう。マントは分厚い生地だけど、たき火の傍で乾かせば半日で乾くはずだ。
ああ、今日はマントの話しかしてないね。
まあ新しいアイテムを手に入れたらテンション上がっていじり倒してしまうのは、ゲームでも異世界でも同じってことだよ。
せっかく街道を走れるようになったんだから、少し太郎丸のペースを上げてもいいかもしれないね。
次のオークさん討伐が来るまでどれくらいの時間があるかわからないし。
そうそう。昨日は思いつかなかったんだけども、この世界に来てから爪を切っていない。
もうボロボロで勝手に削れていくからあまり気にしてなかったけど、もしも商人さんに追いついたら爪切り売ってないか聞いてみようかな。
初めて私を人間扱いしてくれた人間だし、また会いたい気持ちもある。
そんなわけで午後からは太郎丸の速度を少し上げてみたんだけど、走るうちに見覚えのあるものを見つけた。
昨日の商人さんの馬車……だと、思う。
だと思うっていうのは、そこに昨日の馬車の面影がほとんど残ってなかったからだ。馬車は屋根も破られてめちゃくちゃに荒らされていて、荷物も残っていなかった。
正直、昨日見たものとは思えない。
それでも昨日の馬車だって思えたのは、その先に商人さんがいたからだった。
ただ……。
商人さんは、殺されていた。
異世界生活五十六日目。この世界は、やっぱり私に優しくない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます