五十日目
五十日目
やあ、狩りに挑戦してみた私だよ。
怪我の回復にはやはり肉が一番。
私は獣を捌いたりできない(結局オークさんたちからも教えてもらえなかった)けれど、手斧を投げれば獣を捕ることくらいはできると思うんだ。
調理はオークニキにがんばってもらおう。
ダメでも丸焼きにして出せば食べてくれるかな?
狩り場に選んだのは、荒野の中の飛び地みたいな森だった。
オークさんの生き残りを探しているときに発見したもので、冒険者に襲撃されたところとは別の森だ。
入ってみたら、ウサギみたいな小さい生き物から鹿みたいな大きいのまで色々見つけることができた。
オークニキの体格を考えると大きいのを捕りたいところだけど、私じゃあまり大きいものは運べない。
あと手斧一発で仕留められるか自信がない。
無難なところだとウサギっぽいのを何羽か捕まえるってところかな。
ただ、小さい生き物はやっぱり素早い。
姫ニャンも手伝ってくれたけれど、手斧も空振りするしなかなか捕まえられなかった。
日が傾き始めたころ、幸運にも子鹿っぽい生き物に遭遇した。
ちょっといい例えが思いつかないけど、スーパーのカートくらいの大きさかな。
いちいち〝ぽい〟と付けるのは、明らかに私の知ってる鹿じゃないからだよ。
毛並みは白いし、足もなんか蹄周りが膨らんでいてフライドチキンみたいになってる。あと尻尾もハ虫類みたいにごっついのが生えているね。
ちなみにウサギの方もウサギにしては鋭い牙が生えていたし、爪も長くてなんだか物騒なフォルムをしていたよ。
集団で飛びかかられたらちょっと怖いような姿だった。
鹿っぽい生き物は子鹿でも強そうだ。反撃されたら負けそう。
ナイフとかも手に入れたけれど、私がまともにできるのって未だに斧投げだけなんだよね。
幸い、子鹿はまだこっちに気付いていないみたいだ。
いや、気付いてるのかもしれないけど、逃げる素振りも向かってくる様子もない。
距離は……五十メートル以上あるかな。
木とか茂みも邪魔だし、もう少し近づきたいところなんだけど逃げられちゃうかな。
確実に仕留めるなら頭を狙うべきなんだけど、この距離だとちょっと当たる気がしない。私、視力悪いし。
胴体なら当たりそうだけれど、一発で倒せないと困る。最悪、手斧を持っていかれるかもしれないし。
悩んでいたら、いつの間にか姫ニャンがいなくなっていた。
慌てて姫ニャンを探したら、なんと子鹿の後方に移動していた。
さすが猫耳族。気配の殺し方も猫みたいだね。
姫ニャンは私に目配せをすると、わざと茂みをゆらして大きな音を立てた。
驚いた子鹿は反射的に逆の方向へと逃げ出す。
姫ニャンの反対側、つまり私の方へと。
真っ直ぐこっちに向かってきてくれたおかげで、狙うのは簡単だった。
私が投げた手斧は見事に鹿の顔面を真っ二つにしていた。
姫ニャン、私が狩りやすいように子鹿を追い立ててくれたんだ。
私も思わず姫ニャンに抱きついて喜んだら顔をべろんべろん舐められた。
この際におい付けも許す! ありがとう姫ニャン!
手斧は放っておくと錆びるからすぐに抜いて血のりを拭う。
あとオークさんたちが鹿っぽいのの首をはねて逆さに吊ってたことを思い出して、とりあえず首をはねておくことにした。
血を抜ききった方がいいと思うんだけど、どこかに吊り下げられるかな?
でも現実はそう甘くない。
なんというか、子鹿がいるなら当然いるべきものがいるよね。
あの、親鹿とか。
べきべきって木がへし折れる音がしたからふり返ったら、ごつい角の生えた鹿もどきがこっちを見ていた。
私と姫ニャンは子鹿を担いで死に物狂いで逃げた。
異世界生活五十日目。子鹿はオークニキが捌いてくれました。
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