四十一日目


四十一日目


 森を抜けた!


 丸一日かかったけれど無事に森を抜けることができた。

 私のひどい絵でも森を出たいという意思は伝わったみたいだね。


 というか姫ニャンは森の道や方角なんかを理解しているみたいだ。

 どうやって認識しているんだろう。

 すごいな。私にもできるかな。


 姫ニャンは森を抜けたあとも真っ直ぐ進んだ。頼もしい。


 向かう先には荒野らしきものが見える。


 オークさんたちの集落がある方向なのかな。

 景色には見覚えがあるような気はするけれど、ちょっとわからない。

 あのときとは向きも逆だし、行きは避難に必死で周りを見ている余裕なんてなかったんだ。


 ちなみに食料はお魚を四匹ばかり焼いて持ってきた。

 尻尾を紐で縛って釣り竿に括り付けて持ち歩いている。

 本当は生のままの方がいいのかもしれないけれど、森を出たら気軽にたき火ができるかわからないから、すぐに食べれるようにしておいたんだ。


 あの森には天敵がいないのか、お魚はどれも丸々太ってて美味しかったな。


 四匹のうち、お昼に姫ニャンと一匹ずつ食べた。残りは夜と翌朝に半分こしながら食べよう。


 そうして午後も歩き始めてしばらくしたころ、姫ニャンがとうとつに嫌そうな顔をした。


 冒険者や獣かと思って周囲を見渡してみたけど、特にそれらしいものや動くものは見当たらなかった。


 まあ、私視力悪いしメガネも割れてるし歪んでるから、視覚情報はあまりあてにならないのだけれど。


 でも歩いているうちに理由がわかった。


 風に乗って、嗅ぎ慣れた臭いが漂ってきた。


 何日も放置した生ゴミみたいな臭い。

 酷い悪臭だけれど、今となっては懐かしい臭い。


 オークさんの臭いだ。


 私はもう慣れたけど、姫ニャンは鼻をつまんで吐きそうな顔をしていた。


 もしかして猫耳族は人間より嗅覚が鋭いのかな?

 いや単に私が鈍いだけかもしれないけれど、とにかく姫ニャンがオークさんの集落に近づこうとしなかった理由がわかった気がする。


 それからさらに少し進むと、オークさんの集落が見えてきた。


 私は一度足を止めて姫ニャンに向き直ると、二匹残った魚のうち一匹を手渡した。


 それから自分を示してから集落の方を指さす。

 あの集落に行ってくるというジェスチャーだけど、伝わったかな。


 わざわざ示したのは、姫ニャンは臭いがダメなら離れたところで待っていてくれればいいと思ったからだ。

 ……待っててくれるかな。


 姫ニャンは少し迷うような素振りを見せたけど、集落から離れていった。たぶんそっちが風上なんだろう。

 集落を出るときはそっちから出ることにしよう。


 ここからは別行動だ。


 ひとりになった私は、集落の方向を向いた。


 異世界生活四十一日目。オークニキ、私帰ってきたよ。

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