三十八日目
三十八日目
やあ、やはりというか迷子になった私だよ。
色々考えてはみたけれど、結局森を突っ切って元の道を辿るルートを選択したんだ。
森を迂回するという手もなくはなかったのだけれど、この森がどれくらいの規模で広がっているのかわからないこと、それに運が良ければオークさんたちの遺体に何か弔いをしてあげられるかもしれないことから、このルートにした。
ただまあ、元々入り乱れていた足跡のひとつを追跡していた上にあれから十日以上経っているものだから、足跡も残っていなかったよ。
曖昧な記憶を辿って道を戻ってみたのだけれど、やはりどうにもならないことはどうにもならないね。
というかこの世界、私に対してちょっと厳しすぎるんじゃないかな……。
まあ、泣き言を言ってもどうにもならないことは身に染みている。
冒険者の遺品のナイフで木に傷を付けながら歩いているのだけれど、同じような木に出くわすことはなかった。
ひとまず同じところをグルグル回っているわけではなさそうだけれど、かといってどこに進んでいるのかもわからない。
コンパスとか、欲しいなあ。時計も壊れちゃったから方角を計る方法が何もないんだ。
というかごめんね姫ニャン。
私が至らないばかりに巻き添えにしてしまった。
姫ニャンはなんというか、私が移動すると普通についてきてくれる。
休憩すれば隣で丸くなるし、そのまま眠ってしまったらいつの間にか勝手に膝枕を使われていることもあるくらいだ。
言葉はしゃべるけど、生態はかなり野生寄りみたいだね。
それでいて、行動の指針を私に預けてしまっているかのようである。
野性的だろうと文明的だろうと、こういうのはよほど信頼している相手でもない限りできないものだと思うんだ。
言葉も通じないのに、姫ニャンはどうして私に付いてきてくれるんだろう。
不思議に思いながら一日森をさまよっていたら夜になってしまった。
場所を変えたせいか、また獣が寄ってきたからたいまつパンチで追い払っておいた。
怪我もだいたい治ったみたいで、たいまつ振り回すのに踏ん張っても痛みはなかったよ。
おかげで前よりだいぶ勢いを付けたスイングができるようになったと思う。
まあ、ここでイキがると痛い目に遭うってことくらい、私だって知ってる。
中学でスキーに行ったときもズサーって曲がれるようになったと思った瞬間すっ転んで手首捻挫したし。
特に、今は私がバカをやると姫ニャンが巻き添えになるんだ。
すでにこうして迷子になっている以上、常に気を引き締めていかないとんひいっっ?
キリッとしていたら、いきなり姫ニャンにほっぺたを舐められた。
リアルに「んひいっ」て悲鳴出た。
え、なんで?
ええっと、もしかして慰めてくれたのかな。
嬉しいけど、でも不意打ちはやめていただきたい。
君は私の推しにそっくりなんだから、いきなりほっぺたペロリなんてされたら心臓が耐えられない。
私はひっくり返ってしこたまうろたえたわけだけれど、姫ニャンは満足そうに笑うばかりだった。
はあ、好き。
自分の中で開いてはいけない扉が開かれそうになっているのがわかる。
でも、今さら姫ニャンのいない生活なんて考えられない。
……うん。寝よう。煩悩を振り払わないと道を誤ってしまいそうだ。
異世界生活三十八日目。私はノンケ私はノンケ私はノンケ。
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