三十日目


三十日目


 魚を手に入れた!


 せっかく川が目の前にあるんだ。空腹に耐えかねて釣り竿三号を製作し、三度目の釣りにチャレンジしてみた。


 幸い木の枝はたくさん落ちていて、少し探せば釣り竿に使えそうな長さのものも見つかった。


 釣り糸はやっぱり髪の毛を束ねたものだけれど、今回はもうやけくそで三重くらいの団子結びをしてみたところ、案外普通に耐えることができた。

 あまりスマートとは言えない出来だったけれど、成せばなるものだったよ。


 おかげで、ついに魚を釣り上げることに成功した。


 あとはできるだけ乾いている木の枝を集めて火を熾し、たき火を作って焼いて食べた。


 太った魚を丸々一匹平らげてきちんと眠ったら、目眩や動悸もだいぶ収まったよ。


 火の付け方、オークニキから教えてもらったんだよね。


 オークニキ、無事かな。


 集落の方、どうなったかな。


 先を急ぎたくはあったけれど、これ以上無理をすると傷口が完全に開いてしまいそうだったから少し早い目に休むことにした。

 たき火があったおかげか、獣や冒険者に襲われることはなかったよ。




 そして今日。


 今日はまず、移動を始める前に杖を作るところから始めたよ。

 作るといっても手ごろな枝を探してささくれを落としただけなんだけど。


 でもちょうど先っちょがYの字型に分かれてる枝を見つけることができて、松葉杖みたいに使ってみたら存外に歩きやすくなった。


 ちょっと歩き方のコツを掴むまで時間がかかったけれど、だんぜん移動速度が上がったよ。


 松葉杖を手に入れたところで昨日に引き続き川を下っていると、なんとか森の中に戻る道を発見した。

 オークさんたちと休憩した場所かはわからなかったけれど、少し歩いていたらたくさんの足跡を見つけることができた。


 オークさんたちは体が大きい分、体重もある。

 私くらいだとすぐ消えるような足跡しかつかないけれど、オークさんたちの足跡は三日経ってもまだくっきり残っていた。


 もしかして、冒険者はこういうのを追いかけてきたのかな。


 あのときわかっていたら、消しながら歩いたりする方法を考えることもできたかもしれないのに。


 過ぎたことを悔やんでも仕方がない。


 今は、前に進むんだ。


 異世界生活三十日目。私は祈る思いで足跡を追いかけた。


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