二十五日目
二十五日目
やあ、昨日も魚に釣り竿を盗られた私だよ。
これを読んでいる君、手塩をかけて作り上げた釣り竿を二度も奪われる屈辱がわかるかい?
まあ、普通は経験しないことだとは思うけれども。
三本目を作ろうとして、どうやら釣り竿として使うには糸が短すぎるらしいと気付いた。
髪の毛を使うアイディアは悪くなかったと思うのだけれど、四十センチ前後の糸では竿の先を水面すれすれまで近づける必要がある。
魚がいるような深さになると岸から離れるわけで、当然のことながら体も水面に向かって伸ばすことになる。
まあ、そんな姿勢で踏ん張りが利くわけがないのだから、それは釣り竿も持っていかれるわけだね。
というわけで釣り竿計画は糸を伸ばす方法を見つけるまで凍結となった。
髪の毛を解けないように結べる方法がわかるといいんだけれど、そうでなかったら強度のある糸を入手する必要があるかな。
まあ、糸さえあれば使い物になりそうだというのは収穫だろう。
釣り竿が頓挫したので、同時進行していたサイコメトリーの検証に注力する。
今日一日色々試してみて、いくつか条件がわかったよ。
・対象はある程度古い必要がある。
・目的を持って使おうとする意思がトリガー。
・同じものから同じ記憶を見ることも可能。
・使えるのは一日一度まで。
以上がサイコメトリーを使える条件と思われる。
まあ、繰り返し検証を続けていけばまた別の条件が見つかるかもしれないけれど。
古い小銭で発動しなかったのも〝使う〟という意思がなかったからだと考えれば説明はつく。
あと、読み取れるものはあくまで〝記憶〟なんだから、その物が体験してないような使い方をしても見えないんじゃないかと思う。
硬貨で穴を掘るという〝使い方〟を意識しても発動しなかったからね。
今日、まず試したのはいつもご飯を食べるのに使っているスプーンにサイコメトリーが使えるかどうか。
これはダメだった。
スプーンは木から切り出したゴツゴツとしたもの(入手経路は不明)なのだけれど、手斧やナイフ片に比べてずいぶん新しいものだ。
これはたぶん、記憶の蓄積みたいなものが足りないってことだと思う。
それから、次にナイフ片にも試してみた。
こちらは昨日と同じく、木の枝から小物を削り出してみようという意思を持ってやってみたんだ。
結果は、昨日とまったく同じ記憶を見ることができた。
物や記憶そのものに読み取る回数制限みたいなものはない。
あったとしても、一度や二度ではないということがわかった。
それでいて、そのあと手斧に使おうとしたら何も見えなかった。
つまり、これまで使おうとしても発動しなかったのは一日の使用回数に制限があったからだと思われる。
一日一度限りの能力。
検証は重ねたいけれど、この世界じゃ何が起きるかわからない。あまり考えなしに使うのは賢いやり方ではなさそうだ。
特に制限がリセットされるタイミングは正確に知っておきたいのだけれど、ひとまずは夜、就寝前くらいに使ってみるところから試してみようかな。
時間でリセットされるのだとしたら日付が替わる瞬間なのか、朝日が昇る瞬間なのか。
睡眠を取ることでリセットされる可能性もあるかもしれない。
その場合、睡眠を取れば一日に二度使うことができるのかとか、何時間の睡眠が必要なのかとか。
まあ、地道にやっていくしかないかな。
ただ、もうそんな時間はないのかもしれなかった。
異世界生活二十五日目。オークさんが血まみれで帰ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます