十九日目


十九日目


 やあ、全身の痛みで生死の境を彷徨っている私だよ。


 昨日はサイコメトリー(暫定)とトマホークの習得でテンション上がり過ぎて忘れていたんだけど、今朝になって思い出したんだ。



 私、ただのニートだったんだって。



 そんなわけて全身筋肉痛の上に両手の皮がずるむけて、スプーンもろくに持てない有様だよ。

 子供オークくんがガチで心配して傍にいてくれるんだけど、なんか恥ずかしい。


 ああ、ちなみに子供オークくんは私が集落にいるときは大抵後ろを付いてきてるよ。ペットの散歩みたいな感覚なのかね。


 ……いや、こんなところで卑屈になるのはオークさんたちに失礼だね。


 オークニキの真意はわからないけれど、ここにいるオークさんたちはみんな私を人格のある一個人として扱ってくれている。

 オークニキも子供オークくんもオークママも決して私のことをペット扱いしているわけじゃないんだ。


 ちゃんと人間扱いしてくれる相手には応えたくなるものだと思う。冒険者のことも気になるし、何か恩返しができないかな。


 まあ、今は体を動かせないから頭を働かせよう。


 サイコメトリーは上手く使えればチートな能力にもなると思うんだ。

 たとえばこの前の罠に使えたら、相手がどんなやつで何人いるかとか探れるかもしれない。他には弓とかナイフみたいな訓練が必要な武器でも、一回限定で達人みたいに使える可能性もある。


 きっとオークさんたちの役にも立てると思うんだけれど、問題は発動条件がわからないところだ。


 このスプーンだってオークさんたちが触ってるわけだし、記憶だってあると思うんだけれどいくら念じてみても何も見えてこない。

 まあ、昨日だって何か念じたわけじゃないんだけど。


 他にも財布の中の小銭とかも試してみたけれど、ダメだった。


 手斧は結構使い込んでそうに見えたし、持ち主が触れてきた時間とかそういうのが関係あるのかな。

 もしくは異種族の持ち物には効果がないとか。


 なんにせよ、こちらはもう一度発動してくれないと検証は難しい。

 そもそも一度こっきりの何かの間違いだった可能性もあるんだし。


 よし、サイコメトリーのことはひとまず忘れて、他のことを考えてみよう。


 今一番気になるのは冒険者だ。


 罠って仕掛けたら遠目からでも一日一回くらいは確認するもんじゃないかと思うんだ。

 となると、罠に獲物がかかったことも、それを外されたことも冒険者に伝わってしまってることになる。トラバサミにはたっぷり血痕が付いてしまっていたからね。


 さて、罠に気付かれてしまった冒険者は何を思うだろうか。


 目的がただの狩猟なら罠の場所を変えてまた仕掛けるだけだろう。

 オークニキも狩りに出ているし、野生動物はいるんだろうからね。でも、その可能性が低いだろうってことは私でもわかる。


 狩猟が目的じゃなかったらどうだろう?


 狩猟以外で罠を仕掛けるとしたら、そこを通るはずの〝誰か〟への攻撃のためだろう。

 トラバサミって足を狙うものだし、命が助かっても大きく動きを制約されるものだと思う。

 オークニキだって足に大けがを負ったらいつも通りに鉈を振るったりできないだろうし。


 この辺りにどれくらいの種族が住んでいるのかはわからないけれど、オークさんはこうしてここにいるんだ。

 そして冒険者とも敵対的だ。


 冒険者がオークさんたちを狙っている確証はないけれど、この辺りに攻め入るための準備だって可能性が一番高いんじゃないかな。


 それで、罠に気付かれた冒険者はどうするのか。


 攻撃を諦めるか、諦めないか。


 諦めなかった場合、すぐに攻撃を仕掛けてくるか、もしくは……。


 ……どうしよう。すごく嫌な予感がしてきた。


 異世界生活十九日目。ニートは夜更かしが得意。特技を活かしてみる。

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