第100話 2歳半編⑪
話し合いの後、僕は、ほぼずっと宿屋でお仕事中です。
ずっと、座ったままだと疲れるし、集中力の限界も来るから、お休みしながらだけどね。正確には30分集中して、1時間休憩。
休憩の方が長いって?僕の年齢を考えてみてね。前世の記憶があると言っても肉体は2歳半。これだけ集中できるのだって、すごいんだからね。
1時間の休憩の時には、その時お留守番の人(一応、メンバーの誰かが僕と一緒にいるよ)と、剣や魔法のお稽古したり、町にお散歩に出たり。この前と違っていつもの冒険者の格好をしていると、この前の迷子だって気づかれないのは面白いね。僕を保護してくれたおばさんさえ気づかないんだもん。僕くらいの坊ちゃんが迷子になっててねぇ、なんて、話をされて、申し訳ないやら恥ずかしいやら。お詫びに、いっぱい串焼き買って帰ったよ。
ナッタジ商会にも行ってきました。
一番の大通り、その真ん中に位置するお店。
立派な門構え、というか、他のお店とちょっと違う。
で、思い出した。
ここは、ひいじいさん、元日本人の作ったお店。確か昭和の人、だよね。
だったらこの門構え、時代劇か地方の重要文化財から採用したね。
うん、そう。ナッタジ商会の店構えは、江戸時代の大店風、でした。
でも、違和感はなかったよ。周りの商店とかも、似た感じの店構えだから。きっと、ナッタジ商会を真似たんだと思う。
ナッタジの中心部は、ちょっと時代村みたいで、僕はわくわくが止まりません。
とはいえ、ナッタジ商会はダメだね。
僕が入ろうとしたら、強面のおじさんに追い出されたよ。
で、その様子を見てたセイ兄。
「何、するんだ!」
と言ってすごんだら、まさかのもみ手?
僕のもそれなりの素材の服なんだけど、まずは子供、ってところでお金を持ってない、と思われたんだろうね。保護者然として入ってきたセイ兄。装備は高ランクにふさわしいものだし、顔とか雰囲気で貴族っぽい。簡単に言えばお金持ちそう。
「いらっしゃいませ!」
って、店の奥からも大合唱。居酒屋かい!
態度が気に入らなかったけど、気になるし、セイ兄に手を引かれつつ、入ってみた。
・・・・汚い。
なんか、あちこち埃だらけで、すすけた感じ。
そりゃこの辺りは、砂埃がひどいから、すぐに埃にまみれるのはわからなくはない。でも、ここは食料品も扱うお店だよ。
従業員も、なんていうか、くたびれた感じ。
みだしなみもなんだかだらしない。
ホラー映画の屋敷、みたいな気すらする、あまり入りたくない店、だね。
実際、お客さんの姿はほぼない。これじゃあ儲からないよね。
僕らは、店の中を一回りすると、すぐに出た。
休憩時間はそんな感じだけど、お仕事って何してるのか?
フフ、先日仕込んだ物たちを使っての、情報収集だよ。
まず、僕が見てヨシュ兄が描いたこの町の地図。
でっかい地図を床に広げています。
そして、150個の石。僕はこれを地図上で移動させます。
で、僕についている人が、その移動の様子を書き写すよ。
はい、人間GPSシステムの完成です。
ほら、この前憲兵さんにブレスレットを配ったでしょ?あれには、もちろん耐久力アップの加護が付いてるけど、それだけじゃないんだよね。あれはね、うっすらと魔力を放出するんだ。
人は誰でも、もちろん魔導師でなくても、魔力は持っている。無意識にそれを纏っている、と言ってもいい。体温とか脳波とか、気にせず放出してるよね。あれといっしょ。あのブレスレットには、その微弱な魔力をキャッチして反射する、そんな機能を持たせてるんだ。僕のダダ漏れ魔力をなんとかできないか、と試行錯誤していたドクが、その途中で発明(発見?)した機能なんだけど、この魔力キャッチは魔力が微弱なだけに難しい。でも、これもまた、僕が魔力コントロールの特訓中にやった練習が役に立ったんだ。できるだけ薄くのばした僕の感覚でこの特徴ある反射の魔力をキャッチできるようになった。ドクのところにいるときに、半分遊びでやった宝探しゲームの応用なんだ。
僕は、このダンシュタの町全体にうっすらと自分の魔力を広げる。そして、感覚を目の前の地図とリンクさせる。うーんとね、絵をトレースする道具みたいな感じ?元の絵を機械で読み取り、横に置いてある紙にその映像を映す。なぞると、同じ絵がかける。そんな道具。あんな感じで、僕は地図と感覚をリンクさせて、キャッチしたブレスレットの位置を、石を使って示していくんだ。ブレスレットが移動すると、石も移動させる。これで、憲兵さんたちが、どこにいるか、丸見えってわけ。
なんでこんなことしてるかってのは、暗部の動きを知りたかったから。誰が暗部かわからないし、今、彼らが何を追ってるのかわからない。でも、暗部らしき人の動きが追えて、たとえば詰め所の中でどこに暗部の基地がある、とか分かったら、証拠はそこ付近にあるだろう、とか分かるでしょ。あと、ザンギ子爵とはどうやって接触する、とかね。
もちろん、そこまでわかるかは分かんない。
情報収集の1つとして、暗部の動きが分かればいいなぁ、と考えた方法の1つ。できるならやっちゃえ、ていうことだね。
この前の迷子&鬼ごっこ作戦で、詰め所を自由自在に探索するのには役だった僕の存在だけど、普通の情報収集では、ほぼ役立たず。子供だからみんな口が軽くなるけど、ものによっては口を閉ざすし、難しいことを聞くと違和感あるしね。そこで、この作戦を提案したけど、そんなことができるのかって、みんなビックリしていた。反対する理由はないとして、作戦の1つに入れてもらえて、なんとかお荷物状態にならないようで、一安心。
こんな風に、憲兵さんを見張って4日。
怪しい部屋を見つけたよ!
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