第98話 2歳半編⑨

 2階は、でっかいほぼワンフロアーだった。

 小さいけど、備品とか椅子とかを置いている部屋が別にあったから、ほぼ、だね。


 で、ワンフロアーの中は、大きな机がいくつも置かれていて、その側には各々木でできた板が置いてある。机の周りにはいくつかの椅子。

 どうやら憲兵は5~10名程度のチームに分けられているらしく、また、殺人課や窃盗課・・・的に専門が一応決まっているらしい。まさに前世の警察官といったところかな。で、机が1チームごとにあって、その会議資料が板に張られるんだね。所変わっても、こういうのはおんなじで、なんか嬉しくなっちゃう。


 僕は、どこかに隠れるところはないかな、と、ちょっとヨチヨチしながら、各チームの所へと寄っていった。

 どうやら、僕のかくれんぼは、先に来てたララによって周知されていたらしい。鬼がジップで、僕が来たらお願いを聞いて隠してあげて欲しいと伝えてくれていた、とか。おかげで僕は自由にこのフロアを徘徊していたんだ。


 で、見つけた!


 何をって?本当はさっきの資料室で探していたんだけど、うまく接近できなかったもの・・・。ヘヘッ、地図です。

 地図ってね、本当は軍事用品。詳細になればなるほど厳重な管理がなされているんだ。でもさすがに憲兵の本拠地。この町の詳細地図を何カ所かのチームの板に張りだしてあったよ。どれもほぼ同じ。手書きだから、多少のゆがみはあるけど、無問題。


 僕は、不自然にならないよに、地図のあるところから地図のあるところに移動しつつ、ヨシュ兄にテレパシーで地図を送ったよ。これで、ヨシュ兄が、地図を写してくれているはず。

 フフ、この地図のゲットで、もう一つの目的も達成できそうです。


 そうこうしているうに、鬼のジップがやってきた。

 僕は、隠れるふりをしながら、大勢の協力者にも守られ、無事2階を脱出。

 1階は、僕がしばらくいた、憲兵の控え室兼窓口。

 そして、仮眠室に食堂。シャワールームとトイレ。


 あ、ジップが追いかけてきた。

 気づかなかったけど、2階にララもいたみたいで、ジップに捕まった模様。

 僕は地下へ。

 地下は、尋問室に拷問室。牢屋。うわぁ。

 けっこう匂いがきつい。

 と、うろうろしている内に、ジップがきたよ。


 「やっとつかまえた。アレク君は逃げるの上手だね。でも、ここは、子供の来るところじゃないから、いったん控え室に帰ろうか。」

 そう言いながら、ジップは僕を抱き上げ、視界を遮るように、地上へと駆け上ったんだ。



 地上に出ると、寝転がって、僕のお守りを若い二人に押しつけた憲兵さんが、ちょっとへいこらしながら、立派な商人に見える夫婦者とおしゃべりをしていた。


 「アレク!」

 そして、抱かれた僕を見つけた女性は、僕の元におよよ、と走り寄ってきた。奪うようにジップの腕から僕をもぎ取り、頬に頬をくっつけてくる。

 ミラ姉だ。

 僕も「おかたま~。」とか言いながら、頬をすりつけた。


 父、こと、ヨシュ兄がそっと涙を拭く真似。芸が細かいね。


 年配の憲兵さんが二人にへいこらしていたのは、ヨシュ兄が差し出した物のせいだね。

 「本当に、つまらない物なんで、是非お納めください。」

 ヨシュ兄、大量のブレスレットをカウンターに並べて言っている。

 「しかし、こんな貴重な物を。」

 「庶民がネタで買うような、気休め程度の耐久力アップの魔導具です。むしろこんなもので、愚息を保護して戴いたお礼には、少なすぎるかも知れませんが・・・」

 憲兵さんは、目がキラリと光っていて、欲しいのは間違いないよね。耐久力アップの加護付魔導具、というのは間違いない。ただしそれだけじゃないけどね、フフフ。

 そのブレスレットを150本。憲兵の数が120前後と、前調べで分かっていた。表に出ない人も考えて、プラスアルファで150本用意したんだ。これはドクと僕の合作で、全部で1000本ほど作った。もともとは、僕の魔導具制作のレッスン用だったんだけどね。

 魔導具が詳しい人が見たら、軽い耐久力アップの加護がついているのは見て取れる。そんな魔導具。でもね、本当は、もう1つの機能を仕込んだんだ。これは僕のアイデア。ドクはアイデアに喜んで、魔方陣を作成してくれた。こっちの魔方陣、きっと詳しい人が見ても何にするか分からないと思う。というか、僕がいなきゃ、今のところは役に立たない機能。もう少し大型にすれば、汎用できる機能だけど、ブレスレットに仕込むにはこれが限界だったんだよね。


 さてと、無事にブレスレットを憲兵に渡したみたいだし、資料はゲットできなかったけど、場所候補はいくつか絞れた。憲兵の詰め所の地図も作成済み。

 後は、証拠をゲットして、ザンギ子爵の悪行の証拠を見つけるとしよう。

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