第43話 1歳半編⑧

 翌朝、僕らはギルドでパーティ登録を行った。

 問題の名前だけど、どうしても○○の○○という感じにしたいようだ。僕としては、口にして恥ずかしくないもの、将来赤面して転げ回らずにすむもの、を主張したいんだけど、どうも相手にされない。

 なんとか頑張って「宵の明星」となった。うん、地球では金星だね。こっちでは、連星なんだ。日が落ちると中天に七色の連星が瞬く。これをこっちでは宵の明星と呼んで、先駆けとか導くものの隠語にもなってる。普通の単語として存在してるし、意味も悪くないと思って賛成したけど、他のメンバーは、僕の髪のイメージで良い!だそうです。いやね、僕ってば見習いのオマケですよ?僕のイメージて、おかしくない?

 一応、7人のメンバーで、七つの星が七色の光を放つ宵の明星とリンクする、というホントか後付けかよくわかんない理屈を盾にこれに決まりました。


 無事(?)パーティ登録を済ませ、ミモザに向けて依頼を受けようと、掲示板を見ていると、受付のお姉さんがやってきた。

 「宵の明星さんはミモザに向かうと聞きましたが、間違いありませんか?」

 「そうだが?」

 ゴーダンが代表して答える。もちろんパーティのリーダーはおっさんだ。

 「でしたら、いくつか依頼を受けて頂きたいのですが・・・」

 お姉さん、チラッと僕を見る。今は、自分の足で立っていて、身長の問題で、僕を見たということは、誤解しようがない。

 「コイツはガキだが、使えるぞ。依頼を受けるに問題ない。」

 ゴーダンが、そんなお姉さんに、不機嫌そうに言う。おっさん、自分じゃ僕のこと、ガキとか赤ん坊とか、散々言うくせに、知らない人が僕を侮ると、不機嫌になる。

 「いえ、ダー君に不安とかではなくて、むしろダー君が必要といいますか・・・」

 「どういうことだ?」

 「パパラテ商会をご存知でしょうか?」

 「確か、ミモザの筆頭商会ですね。」

 ヨシュアさんが口を挟む。

 「そうです。筆頭といっても他に商会はない町なんですが。もともとは隣領トフシュクの商会の出でして、暖簾分けの形で、三男トッド氏がミモザに商会を開かれました。」

 「なるほど。それで?」

 「トッド氏は先日、奥方を魔物に襲われ、亡くされました。ワーレン様が、その報告と慰安の為、領都に召喚されたのですが、その来る道中にも魔物の襲撃にあったことで、護衛のランクを上げたい、と、今、ギルドに来られています。その、先日来、ダー君の噂がギルドに出回ってまして、噂を耳にされたミンク嬢、あ、トッド氏のお嬢さんですが、ダー君のパーティが良いと、その主張されてまして・・・」

 「僕の噂?」

 「1歳半にして、あのゴーダンさんを認めさせた天才魔導師、と。」

 え?そんなことになってるの?

 「あぁ、アレですね~。」

 ふむふむとミランダさんとヨシュアさんで何か言っている。僕が二人をみると、ミランダさんが明かしてくれた。

 「リーダー(いつの間にか、隊長からこういう呼び方になってる)が、こっちに来て冒険者してるとき、『凄い奴を育ててる。俺なんか足下にも及ばねーすげー奴だ。まだガキだが、見習い登録させて、しっかり鍛えるつもりだ。』て、飲むたびに自慢してましたからねぇ。どんなすごい子か、と、楽しみにしてたら、ねぇ。」

 ミランダさんが、僕を見て笑顔を見せる。

 すみませんねぇ、期待はずれで。

 「ガキどころか、赤ん坊ですもんね。スーパーすぎますよ。」

 ラッセイ君、嬉しそうに言ってるけど、誰も「スーパー」とか思ってないからね?ゴーダンがトチ狂った?ぐらいの感想でしょ。

 そう思って、聞き耳たててる冒険者たちの様子をうかがうと、まさかのラッセイ派?

 どうやら、冒険者たちのゴーダンへの信頼は凄まじく、身内贔屓とか親バカのそしりは、ほぼない模様。むしろ、ゴーダンが褒める以上、まだ赤ん坊なのにすごい魔導師、スーパー赤ちゃんだ!見れてラッキー!と、テンションだだ上がり。

 冒険者てバカ?バカなの?

 僕は、どんな顔をしていいのかわからず、元凶を睨み付けた。が、これが失敗でした。

 「すっげー、あのゴーダンさんを睨みつけてる」

 「俺だったら、チビってしまうぜ。」

 「カッケー、ダーちゃまカッケー!惚れてまうやろ~」

 「俺、一生ダーちゃまの追っかけするわ。」

等々・・・

 いつの間にか、知らないところで、凄腕の赤ちゃん魔導師ダーちゃま、という謎の存在が生まれた瞬間でした。ナム~



 まあ、それは置いておいて。

 

 僕らのパーティは、ギルドの奥へと連れていかれた。ていうか、最上階、しかもギルド長室?実績0の赤ん坊が入る場所ではないよね? 

 でも、僕、その部屋の豪華なソファーの上、の女の子の足の上に座らされて、がっちりホールドされていた。

 どうしてこうなる?


 遡ること、数分前。

 

 ノックをして入るゴーダンの腕に抱かれて、ギルド長室に入った僕。リーチの問題で、階段をえいこら登る僕のスピードに耐えられなくなったおっさんに抱かれてしまったんだ。部屋に入る前に降ろして、て、言ったけど、無視。そのまま、入室。

 部屋には、案内の受付嬢と恐らくギルド長。裕福そうな服を着たおじさん、及びその護衛1名。窓辺のギルド長の執務机に腰をかけた小さな女の子。

 女の子は、沈んだ感じで、足をぶらぶらさせている。

 で、こっちを向いた。

 そして、僕を、2度見&ロックオン!

 「か、かわいい!」

 子供特有の甲高い声で、叫ぶと、あ、危ない!机から飛び降りた!

 ゴーダンの足下へ走り寄って、上を見上げる。ていうか、ずっと僕を見たまま、走ってきた。

 「かわいい、かわいい、かわいい!ねぇ、お父様、この子私の弟にする!」

 「ダメ!」

 その子を突き飛ばすような勢いで、ママがその子とゴーダンの間に身体を挟み込む。

 そして、僕が初めて見る怖い顔をして、その子の背に合わせて、しゃがんだ。

 「この子は私の赤ちゃん。あなたの弟にはならない。」

 「でも・・・」

 「でもじゃない。私は、あなたのお父様と結婚するつもりはないし、ダーを養子にするつもりもない。」

 そう言うと、ママは立って、クルッとゴーダンのおっさんに向き直った。

 「ゴーダンさん、帰ろ。ダーを奪う奴は敵です。」

 うわぁ、ママ、小さい子の言うことだよ?いや、嬉しいけどさ。空気読もうか?みんな、気圧されて、固まってるよ。

 ママは、我関せず、と、おっさんの腕から僕を奪って、がっちりと抱きしめた。そのまま、後ろも見ず、部屋を出ようと歩き出す。


 「ちょっと待って下さい!」

 フリーズから溶けて、慌てたのは偉そうな服着たおじさん。

 「娘がすみませんでした。話を聞いて下さい!娘は間もなくお姉ちゃんになるハズだったんです。弟か妹が間もなくできるよ、と、楽しみにしてたんです。ですが、先月妻共々お腹の子も魔物にやられて・・・」

 グスン、とおじさんは鼻を啜る。

 「落ち込む娘に、いつか弟か妹を連れてきてやるからね、と・・・」

 「ダーはあげられない。」

 「もちろんです。娘には言って聞かせます。」

 「うちのダーを見るのが目的なら、もう用は済んだね。帰らせて貰っても?」

 副リーダーのアンナおばさんが、声をかける。

 「いえ、待って下さい。護衛を、護衛の件を高ランクの皆さんにお願いしたい。メンバーに子供がいる高ランカーのパーティが間もなく結成されると聞いて、ここで待たせて貰っていたんです。」

 ゴーダンが、ギロリとギルド長を睨んだ。個人情報ダダ漏れ、問題だよね?

 「待て。勘違いするなよ。情報の出所はお前さんだからな。」

 ギルド長、うちのリーダーが、というより、目線をチラチラしてるところをみると、副リーダーが怖いらしく、必死に言い募る。

 「どういうことだい?」

 副リーダー、ギルド長とリーダーを交互に見て言った。怖っ。絶対この人怒らせちゃだめだ。

 「ゴーダンが先月来たときに、下の酒屋で来月には、俺の秘蔵っ子を見習いにして、こいつらとパーティ組むから、そのときはよろしくな、と、そこら中の冒険者集めて乾杯してたからな。その秘蔵っ子は、顔も力も将来ヤバいぞ、とべた褒めしてたからな。そこの二人も否定もせんと、むしろそんなレベルじゃない、とか、煽ってた。ギルドを出入りする奴なら、誰でも知ってるぞ!」

 ギルド長の、発言を聞きながら、アンナおばさんの様子がさらにやばくなる。

 「あんたら、何やってんだい。」

 僕は、ママの腕の中で、ガタガタ震えてしまったよ。

 「その噂の見習い登録がされた、というので、パーティ編成を待ちに待たせてもらってたんです。その、見習いさんが、まさか赤ちゃんとは思いませんでしたが・・・」

 依頼人さんが、申し訳なさそうに、言う。


 その後、とりあえず座って話そうということになって、いったん僕は、ママの膝の上で、他の人は、まぁふつうに座って話し始めたんだけど・・・

  

 結論を言えば、依頼は受けることになりました。ちょうどミモザ行きの予定で依頼を探してたこと、破格の金額を提示されたこと、行きがいかつい冒険者で、娘が怖がってしまい空気が悪かったこと、そもそも、ゴーダンのおっさんがあることないことくっちゃべり、期待を持たせて、依頼人をここに足止めさせてしまったこと、等色々理由はあるけど、一番はママが許可したのが大きい。

 なぜか、ママは娘さん=ミンク嬢と盛り上がり、僕がいかにかわいいかとか、いかに賢いか、とか、まぁなんの罰ゲームという褒め殺しの刑に僕は処せられて、しかも、ミモザに着くまで、ミンク嬢の弟として、貸し出されることになりました。ぼ、僕の発言権は?はい。なかったです。


 そんなこんなで、僕は「お姉ちゃん」のお膝に乗ることになり、ソファーの上の女の子の膝の上で、ハグされて、脱力してる状況が生まれているのですよ。グスン。

 

 

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