第42話 1歳半編⑦

 「派手に冒険するにあたって、色々認識を共有しておきたい。」

 一通り、報告が終わり、方針を決めたゴーダンが、真面目な口調で言った。彼はチラリと僕を見た。

 何だろう?僕のこと?僕が念話ならペラペラで赤ちゃんらしくないとか、魔法が異常だとか?

 ゴーダンがその必要があると、認めるなら、必要なんだろうな。本当は、みんなに引かれるのが怖いし、特にママが引かれると立ち直れないかもしれないけど。

 僕はちょっとした涙目になる。見られたくなくて、下を向き、唇を噛んだ。

 そうすると、でっかい手に頭を掴まれ、クイッと上を向かされる。真っ直ぐに、ちょっと怖い顔で、ゴーダンが僕を見ていた。

 しばらく沈黙。耐えられなくなり

 「好きにすれば?」

と、僕は不機嫌に呟く。

 同じくらいの沈黙の後、ハァーとでっかいため息をついたゴーダンは、頭を掴んでた手を放すと、軽く頭をはたいて、みんなに目を向けた。


 「おまえら、前世記憶って知ってるか?」

 え?僕、その話はしたことないよね?別の世界での記憶とか、流石にヤバすぎだし、隠してたよ?記憶読んだ?

 「あの、生まれる前の記憶、ですか?たまに魔力が強い家系に現れる、と、聞きますが?」

 ヨシュアさんが言った。他の大人組も頷いている。え?常識なの?別に珍しくないの?

 「実際は魔力が強い家系だからというわけではない、と、俺は思っている。たまたま魔力持ち同士なら念話が可能な場合があることと、身内だと、魔力も似るからことから、念話が成立しやすいから、見つかりやすいというだけだろう。この記憶は、多くの赤ん坊がもっているが、成長につれて消えていく。一般的には、しゃべれるようになる前に消えると言われてる。しゃべれるようになる前に何らかの意思疎通方法があれば、もっと多くの記憶持ちは見つかるだろう。」

 え?何、今さらのその情報。しゃべれるようになる前に記憶が消えるって、今、僕、随分しゃべれるようになってるよね?ウーン。実際は記憶が消えていってるんだろうか?実感としてはほとんど変わってないかな?はじめから、どこの誰だったとかは記憶ないし、文化とか知識に記憶は片寄ってるしね?


 この情報、おっさんはドヤ顔で解説してるけど、みんなの様子をみると、さして感慨はなさそう。そんな説もありましたよね~みたいな顔をしてる。ママはふうん、て顔。

 「こんなこと言い出したのは、みんなどうせ気づいてると思うが、こいつがその記憶持ちだ。」

 僕の頭に手を置いてゴーダンが言った。

 みんな、それが何か?という顔。

 え?知ってたの?

 「むしろ、そうじゃない方が怖いですね。」

と、ヨシュアさん。

 「隠してるみたいだったので、敢えて聞きませんでしたが・・・」

と、ミランダさん。

 「よかった。記憶持ちなら、赤ん坊に計算負けても、恥じゃない!」

とは、ラッセイ。いや、そこは悔しがれよ!

 「ダーは特別な子なの。ウフフ。」

ありがとうママ。ぶれないって素敵。

 アン、いや冒険者に戻ったからアンナか、は、特に反応なし。むしろ知ってて当然だね。


 「俺が記憶持ちと出会うのは二人目だ。しかも、もう一人は成人ていうか、爺さんだった。エッセルの爺さん、つまりは、ミミの爺さんだ。」

 はへ?まさかの身内?

 「いろんなことを爺さんから教わったが、記憶持ちに関しても色々教わった上に託されたことがある。」

 ゴーダンは僕をまっすぐ見た。

 「もし自分の身内に記憶持ちが現れたら尋ねてみてくれ。『醤油のレシピが欲しいか?』」

 「醤油だって!」

 醤油があれば味噌もある。この世界にあるだなんて・・・煮付けに、煮っ転がし、焼き魚にかけるだけでも良し!

 「欲しいに決まってる!」

 「ほぉ、もし、爺さんの知識を託せる者なら、俺が驚く反応をするだろう、てことだったんだが、コレは当たりみたいだな。お前が、そこまで外に感情を素で表すの、初めて見たわ。」

 ゴーダンの嬉しそうな顔。

 「普段でも、そんぐらい、出してくれたら、可愛げもあるんだがな。」

 え、僕そんな無愛想じゃないと思うけど?いつもにこにこ、良い子にしてるよ?

 ゴーダンのおっさんは、わかってねぇな、と口の中でつぶやいた。

 なんだよ、言いたいことがあれば言えば?僕はムッとして、睨む。

 「俺に対しては、それでもマシなんだけどな。ところで、だ。今更だが、坊主は記憶持ち、で、いいんだな。」

 僕は頷く。

 「それも特別な記憶持ちだ。」

 どうだろう。普通の記憶持ちが分からん。

 「おそらく爺さんと同じとこの記憶があるんじゃねぇか?今のところ記憶は消えてない。そうだな。」

 たぶん、そう。僕は頷く。

 「よし、そうとなれば、決まりだ。明日、パーティ登録のあと、その足でミモザへ向かって出発だ。」

 「ミモザ?」

 「ああ。ダーの記憶がいつまで持つか分からねぇ。爺さんの言葉に反応した記憶持ちを連れてこい、と、言われた隠れ家が、ミモザ沖の小島にある。ミモザには常駐の依頼があるはずだし、それを受けつつ、その隠れ家に向かう。異論は?」

 全員首を横に振る。


 よし。僕の初冒険、いよいよ明日、出発だ!

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