第40話 1歳半編⑤

 二人の話は、僕には意外だった。

 まず、主に聞き込みと潜入だって。

 特にヨシュアさん、まさかの商業ギルドに潜入してるんだって!大丈夫なの?


 一方、ミランダさんは、某貴族のメイドさん。貴族の噂を中心に、13年前とついで(?)にこの前の襲撃事件の黒幕を探ってるんだって。


 それと同時に、冒険者稼業もやってるとか。冒険者のコミュニティーに上手く入り込めば、町のダーティーな噂も入ってくるらしいよ。ヨシュアさんに至っては、この町の情報屋も親しい人がいるらしく、そちらを通じても、たった3カ月で、情報だけは、真偽は別として、膨大な数ゲットできたよう。


 ヨシュアさんのもたらした情報の中で、意外かつ嬉しいものとして、ナッタジ商会は、未だカバヤのものになってない、ということだったよ。どういうことかというと、商会として店舗を構えることができるのは、ランクC以上の商人。ランクで特典が違うのは冒険者と一緒だけど、その性質上、冒険者はその人のみで、商人ランクは商会の存続のためC以上は相続が認められるんだ。商会とセットでね。

 その相続だけど、Cになるにはその国のトップの許可がいる。ここでは王様。商業ギルドの長の推薦で、国王が許可し、証が授けられる。この証を使って、相続の様々な書類が作成されるんだ。

 けど、カバヤはこの証を持ってない。家捜ししたけど、見つけられてないんだって。

 証がない場合、店主になりたければ、本人の商人ランクを上げて、かつ、商会を相続するにふさわしいとギルドに認められる必要がある。ギルドに推薦されて、改めて証を王様に貰うんだ。証を手にしたら、それをもとに自分で商会を立ち上げられるんだけど、希望すれば、商会の引き継ぎを許されることもある。ネームバリューは大事だから、これを望む人も多いけど、ギルドの許可はその分厳しい。

 そんなわけで、カバヤはあくまで、書類上は番頭として店を切り盛りしてる。

 なんで商人ランクを上げないかって?

 上げないじゃなくて、上げられないんだ。

 色々評判悪いから信用ないでしょ?しかもナッタジ商会自体の売上もがた落ち。

 これじゃあ上げようがない。

 一応、昔、申請しようとしたらしいけど、Dも難しいと言われて暴れたらしい。なんで長年ナッタジ商会で番頭勤めてた自分がそんな低評価なんだってね。

 「ギルドでその方を認識してるかが、判断基準になりますので。」

と、当時の受付嬢が、澄まして応えたのが、未だに笑い種なんだって。カバヤは番頭としてギルドに出入りしてたけど、強きに弱く弱きに強い、として知られていて、しかも美人とそうでもない職員に対する態度の差が激しいということもあり、悪い評判は高かったとか。『信用できるカバヤさん』という人物をギルドで認識できていない、と、暗に言った受付嬢に拍手喝采。ナッタジ家の惨殺事件自体も話題だったから、ギルド側も慎重になってるってことも、カバヤにとって悪く作用したんだろうね。

 「いけ好かない奴だったけど、当時からそんなに悪評あるのは知らなかったな。卑屈で影の薄いイメージしかねえわ。」

とは、ゴーダンのおっさんの弁。そりゃあおっさんは、「強き」の方だもん、そうだろうね。

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