ダーティーホワイトエルブズ ~現代に転移して魔物退治人となった魔力ゼロのエルフは誓う。クズ野郎で転生チートスキル【主人公属性】を持つ弟に死を、と~

きさまる 様作


あらすじ引用

目の前には倒れて死んでいる友人のマロニー。そしてマロニーに全く似ていないはずなのに、そのマロニーに成りすませていた兄の姿。その兄は憎悪もあらわに、彼に──ミトラの胸に呼び出した魔剣を突き立てた。

“主人公属性”なるチートを持つ転生者、ミトラに。


「敵は“転生チート主人公”」

だがこれは、その兄の話。兄の視点で語られる物語。

気まぐれに兄を陥れる“主人公”な弟に抗う話。



【物語の始まりは】

兄が弟を殺害する場面から始まっていく。二人の間に何があったのか? 戦闘シーンの後、これまでの経緯について語られていく。


【どんな物語なのか?】

この物語では、”あえて”主人公不確定と感じるように書かれているという印象。それは正義の概念に似ている。戦争などではA国の立場の正義とB国の立場での正義は違う。自分は間違っていないと思って戦っているはずである。一人一人がどう思うかは別として、国なり個人なりの大義名分があって戦っている。この物語は、兄から見た時、弟から見た時、どちらの立場から見るかで感じ方の違う物語であり、どちらが正義なのかは読み進め、真実が明かされるまでは分からない仕様となっている。


【舞台や世界観、方向性(箇条書き)】

この兄弟は異世界から現代にやってきたエルフ。きっかけは魔物退治。そこでパーティが全滅してしまい、気づいたらこの世界にいた。

彼らが現在いる世界は現代に近い。飛行機、自動車、スマホにインターネットが存在しており、この世界で兄は魔物退治を行う聖職者集団である“騎士団”という組織に拾われた。恐らく順風満帆な人生を歩んでいたのだろう。しかし、こちらの世界に来てから数年後、弟に再会したことから事態は急変する。


【登場人物について】

二人は元はこの世界に住人ではなく、魔法の存在する世界にいたエルフ。森での生活を敬遠し、人間の街で冒険者として生活していた。


兄(本名は分からない。マロニーと名乗っている)……魔法の使えないエルフだったが、こちらの世界では魔素が少なく元々魔法が使えない世界だった為、彼にとっては過ごしやすい世界であった。

弟(ミトラ)……転生チート主人公属性を持っている。


【感想】

一言でいうなら、皮肉の詰まった作品だなと感じた。ご都合主義の悪い部分を剝がしていくような物語である。どちらかというと爽快感というよりも、気持ちがとても分かると言った方向性だ。

人間の本質を抉り、外側しか見ていない能無しがどんな風に見えるのか?

社会の縮図でもあるし、親兄弟の縮図でもあるだろう。無能な人間ほど、汚いことをするものだが、元々才能があるわけでもないので中身は空っぽで、薄っぺら。しかし外側しか見ていない人間は、そこに騙され破滅の道を歩む。離婚についても、原理はこれと同等だと思った。恋をしているうちは、相手の本質など見えていない。結果、自分の想い通りにならないと文句ばかり言うか、離婚という形になる。人間関係とは、どんな関係性でも立場でも変わらないものだなと、改めて感じた。


【備考(補足)】第10話まで拝読

【見どころ】

この物語はどちらかというと、募らせた憎しみがどう動いていくのか、というようなダークな内容である。兄が弟を殺すところから始まっていき、これまでの経緯が独白によって展開される。過去に何があったのか? どんな環境で何を想って生きていたのか? この兄弟がどんな人物でどんな力関係だったのか?


その中で感じるメッセージとは、”チート”とは何なのか? ハーレムとは何なのか? という根本的なものだ。砕けて言えば、チートな主人公はジャイ〇ンと変わらないよね、ということだ。自分の意のままになる世界の中で、人はそんな主人公に何を感じているのか? 通常物語では語られない、主人公以外の人物の本音が明かされていく物語だと感じた。ある意味怖い物語だ。

例えば、学校や職場で傍若無人に振舞っている人物がいたとする。周りは大人だからニコニコしているかもしれない。しかし腹の中では何を考えているのかわからない。もしかしたら全員が敵かもしれない。こういう怖さを思い知る作品でもあると思う。”主人公”というベールがはがされた時、彼の周りの世界はどうなっていくのだろうか?

あなたもお手に取られてみてはいかがでしょうか? お奨めです。

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