用済みヒーロー。その後で

ゼフィガルド 様作


【あらすじ引用】

近未来。東の島国『皇』において悪の組織『ジャ・アーク』が誕生した。程なくして、彼らに対抗すべく、企業の科学技術の粋を集めたガジェットと平和と正義を愛する人員達によって『エスポワール戦隊』が設立された。

 悪と善の戦いの結末は勧善懲悪の例に漏れず善が打ち勝った。これはそこで締め括られてしまう物語の先にある話。彷徨う正義はいずこに向かう?


【簡単なあらすじ】

ジャンル:ヒューマンドラマ

悪と戦い、平和を取り戻した国。その代償に用済みになったヒーローたちは、何の保証もなく、ゴミのように国に捨てられた。それでも正義といつまでも戦い続ける男がいたのだ。それは『エスポワール戦隊』のリーダーであった。ホームレス生活を余儀なくされていた彼は、ある日『ジャ・アーク』が復活していることを知る。彼の振りかざす正義は本当に正義なのだろうか? 人々を恐怖に陥れる、彼らの第二幕(平和となったその後)がここに始まる!


【物語の始まりは】

15年間悪と戦ったエスポワール戦隊の終わりから始まっていく。悪と戦う使命のなくなった彼らがその後どのように人生を歩き始めたのか。プロの道を歩んだ者と似通った部分もあり、若い時分にその道に進んだ者は他の仕事ができないのと似ている。しかしその上で、彼らには人外の強さが加わっている。そしてそれが有名人であったならなおさら。働き口が見つからず、路頭に迷っていても不思議ではない。主人公はホームレス生活を送っていたのである。


【舞台や世界観、方向性】

〈個人的に調べた用語〉

瑕疵(かし)(コトバンク調べ)

① きず。欠点。また、あやまち。

② 法律で、通常あるべき品質を欠いていること。また、意思表示に詐欺あるいは強迫などの事由があること。


この物語を読んで感じる、全体の方向性は”善とはなにか?”、”悪とは何か?”である。この世に絶対なる善は存在しない。善意=善でも悪=悪意でもないということ。その上、良いと思っていることが必ずしも笑顔や喜びに繋がるとは限らないのだ。かなりテーマの深い物語である。


【主人公と登場人物について】

主人公はエスポワール戦隊であることから抜け出せない青年。彼をそうしてしまったのは社会なのかもしれない。

彼らは五人戦隊であったが、それぞれ道は異なり考え方も違う。

大きく三つに分類され、悪の元で安定した生活を送っていたもの、現実を見ていたもの、そして正義から抜け出せない者がいる。

それに対し、元悪とされていた彼らはもそれぞれ道は異なる。知恵を使いこの国をわが物にしようとした者、自分の悪を貫き人々を幸せにした者なのど。


【物語について】

皮肉なことに、正義とは悪があるからこそ、価値があり認知されるものである。アニメや漫画などのヒーローには終わりがある。大抵は悪を倒し、平和な世の中が訪れるという結末だ。しかしそれがリアルだったなら? 悪を倒したそのあとの人生というものが存在するのである。


この物語でのヒーローに対する着目点は素晴らしいと思う。ヒーローたちが使っている武器は、悪に対して使われるものであるから民衆は安心していられる。しかし悪が倒された時、彼らの手に残るのは”危ない武器”だ。そしてその正義は悪にたいして向いていたものだからだったのだ。だが悪が失われた時、その力が”単なる人殺しの行為”だと思われてしまったならば? 彼らの居場所は何処にあるのだろうか? この物語では、用済みとなってしまったヒーローがどうなっていくのかが描かれている。その人生はそれぞれであり、必ずしも正義=幸せとはならない。


【良い点(箇条書き)】

・これは単なる正義と悪の物語ではない。

・世の中の矛盾についても取り上げられている。

・正義と悪は正義=善であり良いもの。悪は悪いもの。これはイメージでしかなく、その構造は複雑である。簡単に答えを出すことのできないものなのだ。

例えば法のもとに正しいことが、個人として善とは限らないように。そういうことも盛り込まれている物語である。

・読めば読むほど、正義とは何なのか? 考えさせられ、混乱する物語でもある。

・主人公の葛藤が分かりやすく、この世は理不尽な世の中なのだということが伝わって来る。


【備考(補足)】9ページ目まで拝読

【見どころ】

まず第一に、凄い部分にスポットをあてているヒューマンドラマだと感じた。誰しも一度は戦隊モノやヒーローもののアニメを見かけたことがあるだろう。テレビで見かけたことがなくても、街中ですれ違う幼児がそのシャツを着ていることもあるだろうし、CMや玩具売り場で見かけたことがあるかも知れない。彼らは子供もしくは大人たちの絶対的なヒーローの象徴なのではないだろうか? しかしそれは絶対的な悪に対して振りかざされる正義だからこそ支持されるのである。そして悪が蔓延っているからこそ、目を向けられるのだ。

もし、この世の中に善しかなかったなら? その力は何処へ向けられるのだろうか? もしかしたら一般市民に向けられるのでは?

人は恐怖や不安から逃れられない生き物なのだ。

そんな世の中で、何も終わることなく一人正義を振りかざし続ける人間がいた。それが絶対的な正義でないと知らずに。しかしそうなってしまったことには、ちゃんと理由も存在したのである。

必要な時には称えられ、不要になればゴミのように捨てられた彼らの末路とは? あなたもお手に取られてみてはいかがでしょうか? お奨めです。

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