第55話 文化祭の後で

 かき氷を食べ終わり、もう一通り回ったし、おばさんも疲れただろうから今日はこれでおしまいにすることにした。まだ文化祭自体は明日もあるしね。夕方になったばかりなのでおばさんだけ家に送って、那由他ちゃんは私の家でデートの残りをすることにした。

 自室に入って一息つく。時間はあるって言っても、大学中をうろついてはしゃいだので少々疲れた。


「ふー、ちょっと焦ったけど、とにかくこれで正式に親公認になれたね」

「はい。そうですね」

「ところで那由他ちゃん、私のことガードがゆるんできたって思ってたんだね」

「え? そ、そんなこと言ってませんよ? ガードがかたくなっちゃうっていっただけで」


 いや、正確に言うと『また千鶴さんのガードがかたくなっちゃうから、ね?』と言ったのだ。かたかったガードがゆるんできたのにもどっちゃう、と言うニュアンスを感じるのは気のせいではないだろう。

 その場ではおばさんもいたしスルーしたけど。そんな風に思われてたなんて……確かにその通りだ。最近の私は緩んでいた。証明の為とか言って、そもそも小学校でキスするのも、那由他ちゃんが何と言おうと拒絶するべきだった。

 最近の私は、那由他ちゃんに押され気味だ。私自身の願望でもあるので、ついつい流されてしまっている。でもそんなのいい訳だ。断固とした意志で、那由他ちゃんを守らなければ。


「いや、実質言ってたよね。いやいいんだよ。事実だもんね。ちょっと、引き締めようとは思うけど」

「そ、そんな。そ、それを言ったら千鶴さんだって! まるで頬にキスしかしてないみたいな言い方でしたけど、もっとしてくれてるじゃないですか」


 別に那由他ちゃんが悪いわけではない。したくなるのはわかるし、私もそうだ。だけどそれを自制するのは、年上の私の役目だ。だから私の問題なのだ。

 だけど那由他ちゃんは責められていると思ったのか、そう言い返すように言ってくるけど、それは私に効く。思わず胸をおさえてしまう。


「うっ。そ、それはその。だって、ねぇ? おばさんに心労かけるわけにいかないし、なにより、素直に言えるわけなくない? 多分、会うのに制限かけられるよ?」

「う、そ、それは困りますけど。でも、嘘ついたのは本当じゃないですか」

「それは……そうだけど」


 上目遣いに許しを乞うてみたけど、那由他ちゃんはさらに嘘をついたことを指摘してくる。そう言われたらそうなので、何も言えない。

 これでも、嘘をついたのは気にしているのに。ある意味共犯者の那由他ちゃんがそんな風に言わなくても……。う。やっぱりまずいよね。はい……反省、してます。


「あ、す、すみません。別に、だからだめってことが言いたいんじゃないんです。そうじゃなくて……ありがとうございます。私のために、嘘ついてくれたんですよね」

「あー……まあ、私のためでもあるっていうか」


 凹む私に、那由他ちゃんははっとしたようにして口元を押さえ、先ほど責めるような感じだったのを改めて急にそうスタンスをかえた。

 うん。そうだよ。那由他ちゃんになら責められても仕方ないことをしてきたけど、他ならぬ那由他ちゃんが強いてきたんだから、那由他ちゃんに責められるの納得できない感じもあるんだよ。


 でもまあ、素直にそう言われるとそれはそれで、私が悪いのもまた間違いないわけだしね? 私の欲望のままの行いそのものでもあるわけだしね? 那由他ちゃんの為にしました、とは言えないのだけど。玉虫色でごめんね。


「はい。嘘ついてくれたのは、嬉しいです。嘘をついてでも、私といたいって思ってくれたってことですし……私と、悪い子になってくれる約束ですもんね」

「んぐ……まあ、はい。そう言う感じになりますね。」


 それを覚えてて嘘をついたわけではないけど、実質そう言うことだ。嘘をついたけど、それは那由他ちゃんと一緒にいたくて、那由他ちゃんと今まで通りの関係でいたくて、色んな思いがあってのことだ。一方的に責められると、その通りではあるけど、うん。困っちゃうよね。


「えっと、まあ、とりあえず、結論はおばさんに認めてもらえてよかったよかった。これからも一線を越えない関係でいようねってことで」

「えー、ちょっとくらい超えても、ばれなければセーフって結論ではないんですか?」

「やめよ? 那由他ちゃんには天使の羽が似合うよ」

「……悪魔の羽は、似合いませんか?」

「似合うから困るんだよねぇ」


 あと、馬鹿みたいな言い方で誤魔化そうとしたのにのってくるのやめてくれる? 想像しちゃって普通に似合うし、那由他ちゃんが言うと可愛い発言として全然ありなんだよね。

 ちょっと眉を寄せて言われたのに苦笑で返す私に、那由他ちゃんは、むーと頬を膨らませる。可愛いね。


「そんなに膨れて。可愛いよ。大丈夫。大人になるなんてすぐだから」


 ちょんちょん、と頬をつついてなだめると、那由他ちゃんはこちらの肩にもたれてきた。手を下して横並びで私の右肩に那由他ちゃんを迎えながら、そっと左手をのばして頭をよしよしする。


「むくれてる那由他ちゃんも可愛いよ」

「うー。子供扱いしてます」

「子供だからね。仕方ないよ」

「……ロリコンなのにそう言う風に言うんですね」

「うっ……那由他ちゃん、私のこと嫌い?」


 嫌いじゃないのはわかってるけど、この流れでロリコン扱いは心にくるんだけど。

 思わず否定の言葉がほしくて尋ねる私に、那由他ちゃんは首をかしげるように私を見上げて、ニコッと笑う。


「好きです。ロリコンなのも含めて。でも千鶴さん、他に欠点ないですし、ロリコンなのに私を子供扱いするのって矛盾してると思います」

「うーん、どうだろ」


 ロリコンは子供だから好きなのであって、好きな相手は子供である前提なのだから、子ども扱いはしているのでは? むしろちょっとくらい想定年齢からオーバーしてたとしても好みの対象に入った相手は子供だと言う認識をして子供扱いするのでは?

 でもまあ、私の場合は那由他ちゃん限定のロリコンなのでまた話がかわってしまうけど。


「とにかく、千鶴さんはロリコンの悪い大人なんですから、私のこと子供扱いせず、普通に恋人として遠慮なく接してほしいです」

「わ、悪い大人って。言い方。……私も、一応ショック受けてるからね。自分がそうなことに」


 一応、悪いとは思ってるのだ。小学生だと思っても自制心が働くどころか、余計変に興奮する自分の変態さに罪悪感を覚えてはいるのだ。なのに那由他ちゃんから悪気がないにしてもロリコンロリコンって、うううぅ。……逆に、心臓が変になりそう。

 心が痛くて、だけど同時にそのきしむような胸の痛みに那由他ちゃんの笑顔が重なって、しびれるような甘美さがひろがっていくのを感じる。


 はあ、那由他ちゃん……小学生だってわかっているのに。わかっていても、どうしようもない。


「……千鶴さん」


 どことなく慰めるような、悲し気にも見える目を向けてくる那由他ちゃん。そのうるんだ瞳を見つめるだけで、どうしようもなく愛おしくて、触れたくて、それだけで済ませたくない下卑た感情が湧き出てしまう。


「ごめんなさい。……そうですよね。ロリコンって、悪いことですもんね。でも、じゃあ……ロリコンになってくれて、ありがとうございます」

「……」


 し、死んじゃいそう。今すぐその口塞いでやろうか。悪気はないんだよね。挑発する気もないんだよね。わかってる。わかってるんだよ……?


「那由他ちゃん、いい加減にしないと、悪いロリコンの大人に、ひどい目にあわされちゃっても知らないからね」

「……どういう目にあうのか、教えてくれますか?」

「っ」


 その期待するような目と、あからさまに挑発的な言葉に、ついに私はたまらなくなってしまって那由他ちゃんに噛みつくようにキスをした。膝立ちになって那由他ちゃんの肩をつかんで、無理やり唇を合わせ、息つく間もなくそのまま舌をねじ込む。背後のベッドの側面に押し付けながら、那由他ちゃんの片足にまたがるようにして、左ひざを足の間に押し込んで左手で那由他ちゃんの後頭部を守りながら首を後ろに傾けさせる。


「ん、んんっ」


 こっつんと那由他ちゃんの頭をマットレスに預け、声を漏らすと共に力が抜けた歯の間にさらに舌をいれていく。熱く滑ついた舌をあわせると、その参観日ぶりの快感にとめようがなく気持ちが高ぶってしまう。

 わしわしと左手の指先で那由他ちゃんの後頭部の髪をもてあそびながら、右手をそっと肩から滑らせて柔らかな胸に触れた。ぐっと横からあげるようにするだけで、その大きな胸の重さ、弾力が強さとなって感じられる。


「んうっ」


 なんて圧倒的な存在感なんだろう。これが、小学生の胸か。それを揉みしだきながら、那由他ちゃんの舌を磨くようにぐいぐいと絡めていく。それに反応するように、那由他ちゃんはか細く声を漏らしながらぴくぴくと小刻みに反応するように私の左ひざを太ももでぎゅっと締め付ける。

 その感触も楽しくて、ぎゅっと腰を曲げて押し込み体を密着させる。右手を肩に戻して密着して手じゃなくて体で感じても、那由他ちゃんの体の豊満さは十二分に気持ちよくて、服を着てこれなら、脱いだらいったいどうなるのか。恐怖すら感じながら、荒くなった呼吸にややぼんやりしながら私はキスを終えた。


「はあっ、はあ。はぁ……」

「はっ、はっ、はぁっ、はぁ、あぁ……」


 まだ、顔は近い。ほんの少しだけ唾が跡をひき、口に橋がかかっている。それを回収するように少しだけ吸い込みながら那由他ちゃんの唇に触れるキスをする。


 二人の心臓が胸越しにわかるくらいうるさいのに、ちゅ、と派手なリップ音が部屋に響いたように感じられて、恥ずかしくなってしまった。那由他ちゃんは耳まで真っ赤で、ぼんやりしたようなうっとりした顔で、荒い呼吸を繰り返している。

 ああ、もっと、もっとしたい! 好き。好き好き好き! 大好き!! 愛してるよぉ……ああ、もっと、気持ちよくなりたい。苦しい。頭がおかしくなりそう。


「那由他ちゃん……。好きだよ。だから、お願いだから、私をこれ以上、おかしくしないで。まともでいさせて」

「……私は、どんな千鶴さんも、大好きですよ」

「馬鹿……悪い子」


 那由他ちゃんの唇にキスをして、そのまま私は腰を下ろして那由他ちゃんにもたれるように抱き着いた。膝の上にのっかかり、胸元に顔をうずめる。もはやどっちが年上なのかわからない姿勢だ。いい匂いで、柔らかくて、ぐっと押し付けるとくすぐったそうに吐息を漏らしながら那由他ちゃんは私の頭を撫でた。

 でも、気持ちよくて、興奮するのに、どこか落ち着く。那由他ちゃんはどんな私も受けいれてくれる。

 何をしても、どんなに業を背負っても。それは救いであり、希望であり、絶望のようにすら思えた。那由他ちゃんと出会えて世界は変わっていく。まるで、この世界の全てが輝いている幸せの楽園のような、偽りで虚飾されていて一歩間違えれば命を落とす地獄のような、何一つ明確にできないこの感情。


 ただ言えるのは、この、那由他ちゃんに向けるこの思いだけは、きっと死ぬまで変わらないのだろう。私はどこまで落ちていくのだろう。この恋に、底はあるのだろうか。

 私はしばし、那由他ちゃんの胸で震えた。


 そして我に返ってから、ゆっくり離れた。那由他ちゃんはまるで慈愛の女神のように微笑んで、私が謝る前にこう言った。


「ひどい目にあいませんでしたね。きっと、私の傍にいる人は悪い大人でも、いいロリコンなんだと思います。だから、大丈夫ですよ」


 ああ、もうほんとに、那由他ちゃんが好きすぎて、いつか、彼女に殺されてしまうんだろうなって、そう思った。

 その晩、私は自分のガードのゆるさに自己嫌悪するしかできなかったのは言うまでもない。

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