第38話 遊園地デートの終わり

「美味しそー。やっぱ買って正解だね」

「はい。私、こういうところのいろんなソフトクリーム大好きです」


 SAで夕食をとり、車に戻ろうとしたところでのぼりの地域限定ソフトクリームが目に付いたので、二人とも満腹だったけどついつい一つ買ってしまった。車に戻ってまじまじ見ても、カラフル感強めな紫系ソフトクリームは何とも言えず美味しそうだ。


「那由他ちゃんお先にどうぞ」

「はい。いただきます。んー、美味しいです。はい、千鶴さん」


 ソフトクリームをひと舐めして、嬉しそうに唇を舐めながら那由他ちゃんはソフトクリームを私に向けた。その口元に、ふっくら唇に思わずどきっとしてしまった。

 大丈夫大丈夫。昨夜のことは内緒だし、もう終わったことだし、ひと夏の思い出だから! と自分によくわからないけど落ち着くよう言い聞かせ、ながら身を乗り出してソフトクリームに口をつけた。


 ベリー系特有の甘酸っぱさ、優しい冷たさが身に染みる。夕食が天ぷらだったので、油っぽさも流れていくようで爽快感すらある。


「んー、美味しいね」

「……はい、千鶴さん。そんな遠慮せず、もっと食べてください。舐めてるだけじゃずっと減らないですよ」

「え? そ、そう? じゃあ」


 那由他ちゃんが舐めだったから同じようにしただけなのに遠慮してるとか言われた。那由他ちゃんも食べたがってたけど、そんなには入らないのかな?

 言われるままかぶりつく。那由他ちゃんが持っているので食べにくい。ちょっとずつ交代だと思ったからそのまま食べたけど、そこそこがっつり食べるなら受け取った方がいいのでは?


 とかぶりついた姿勢のままちらっと那由他ちゃんを見ると、すっとソフトクリームが外された。あ、やっぱ次は那由他ちゃんの番か。間接キスとは思ってたし、多少意識はするけど、かぶりついたし、ソフトクリームは口の形わかっちゃうからちょっと、あれだなぁ。と思いながらソフトクリームを何となく目で追っていると、視界が那由他ちゃんでふさがれた。


「!?」

「ん……えへへ。どうですか? 千鶴さん、昨日より、上手にできたでしょう?」

「いや、え、え……まあ、はい。結構なお手前で」


 普通にキスされてしまった。しかも昨夜の勢い任せで痛かったのとは違って、優しくふにっとされてしまった。

 かーっと体温があがるのが抑えられない。姿勢を戻して車のシートにもたれ、左手で那由他ちゃん側の顔を隠した。


「いや、う、嬉しいけど、さ。昨日のはあくまで、おやすみなさいのチューだったわけだし、その、よ、よくないよ」

「じゃあ、いただきますのちゅーです」


 聞いたことないやつ。指の隙間から那由他ちゃんの表情をうかがうと、那由他ちゃんも真っ赤になっているのに、どこかどや顔だった。んんん。可愛い。


「そ、そっかぁ、じゃあ、仕方ないね。でも、その……これも、内緒ね」


 もうしちゃだめだよ。今回のデートだけの特別だから。そう言わなきゃいけなかったのに。私は期待に負けて、そう口止めだけをしてしまった。


「はい。千鶴さんと二人だけの、秘密ですね」

「うぅ……うん」


 うっ。顔を見なくてもわかる嬉しそうな声。そして、二人だけの秘密と言うワード。やばい。全然心臓がおさまらないし熱もひかない。


「えへへ。……千鶴さん、顔、見せてくれませんか?」

「えぇ、恥ずかしいよ」

「恥ずかしがってる千鶴さんの顔が見たいです。あと、ソフトクリームとけますよ」

「……」


 いや、那由他ちゃん策士すぎない? でも仕方ないから手をおろして那由他ちゃんを見る。那由他ちゃんはとけだしてきているソフトクリームを食べて、減らしてから私に向けた。


「はい、どうぞ」

「ん……」


 と言うか、このドロドロのソフトクリームを舐め合っている方が、触れ合うキスより大変なことしている気になってきた。いくら間接キスくらいって言っても、最初の一口二口ならともかくこんな舐めたりかじったりした状態でも分け合うのは普通ない。と言うかスプーンつけろ。今気づいたけども。

 顔の熱がひかないまま、那由他ちゃんも顔を赤らめたまま、何とかソフトクリームは完食した。


 食べ終わって飲み物を飲んで甘みを流し、多少は落ち着いた。


「ところで千鶴さん、その……ご、ご馳走様のちゅー、しても、いいですか?」

「……」


 はいでた、また聞いたことないやつ。あのね、駄目でしょ。私のこと殺す気? 誘惑しすぎ。小悪魔超えて悪魔だよもう。


「那由他ちゃん……あのね、駄目だって。昨日、話したじゃん?」

「……あ、あいさつのちゅーならいいじゃないですか。それに、さっき、結構なお手前って褒めてくれたのに。私、もっと上手になりますから。千鶴さんのこと、気持ちよくさせますから」

「んんん。こ、困らせないでよ。ねぇ、はっきり言うけど、私だってしたいって。でも我慢してるの。わかるでしょ?」


 昨夜は結局ああなったけど、でもその前に私ちゃんと説明したよね? 付き合いだしたときにも自分から言ったし、那由他ちゃんのお父さんとも約束してるし、待ってるって。大事なことだってわかるトーンで言ったよね?

 ちょっと強めに否定する私に、那由他ちゃんは眉を寄せて悲しそうな顔になる。


「……黙ってたら、わからないです」

「そうかもしれないけど……でも、那由他ちゃんを嘘つきにしちゃうよ」

「私はもう嘘つきだからいいんです」

「またそんな、那由他ちゃんみたいないい子他にいないって。悪ぶらないでよ」

「ぶってませんっ」


 那由他ちゃんは急に語気を強くすると、ぐっと私の肩をつかんで顔をよせた。思わずひいてしまう私に対して、唇の端に噛みつくようにキスをした。微かに触れているだけ。それだけで、燃えるように熱い。


「……ほら、今だって、駄目って言われても、しちゃいました。だって……したい、です。千鶴さんにも、したいって、思ってほしいです。我慢できないくらい、私を大好きでいてほしいです」

「っ、そ、それは、ちょっと、ずるいよ」


 我慢できる程度にしか好きじゃないみたいな、そう言う言い方はちょっと違う。

 約束したのがどうでもいい相手ではないから、いずれ那由他ちゃんと結婚したら家族になる人だからこそ、そして何より、那由他ちゃんが大事だからこそ、軽率にしたくない。

 那由他ちゃんの年齢もまた、那由他ちゃんを構成するもののひとつなんだ。那由他ちゃんが大好きだからこそ、那由他ちゃんのすべてを尊重したい。那由他ちゃんの年齢も、またそれにともなう規制すべき点も、真摯に向き合いたい。それは那由他ちゃんの意志だけで破っていいものではない。


 だから頑張って理性を働かせて、那由他ちゃんを守ろうとしているのに。どうして、そんな風に言うの。そんな風に言われたら、私だって。


「……ん」

「!」


 気が付いたら、すぐ目の前の唇に、唇をあわせていた。柔らかい。柔らかすぎるその唇に、思わず自分のを動かしてその柔らかさを体感してしまう。むにむにと動かすと自然に自分の口が開き、那由他ちゃんの上唇をはさんでいた。


「っ」


 ほぼ無意識に、そのまま上唇をなめる。甘酸っぱい、ベリーの味が残っている。カッと体の芯が燃えるように熱くて、私は両手で那由他ちゃんの顔をつかんでさらに舌をのばした。下唇も舐めて、唇の裏へ。

 やわらかな粘膜特有のぬめりを感じながら、歯茎ににたどりつく。つるつるした歯からは、さっき食べたソフトクリームのコーンの味がほのかにした。


「んうっ」


 閉じられている歯は少しだけ震えて、強引にこじ開けたくなるけど、那由他ちゃんが漏らした声に私は動きをとめる。そしてゆっくりと舌をひいて、唇を離す。

 ちょっとだけ唾がひいてしまった。それを舌できって口を閉じると、那由他ちゃんが目を開けた。真っ赤で泣き出しそうな困り顔に似た、だけどただの泣き顔と違って半開きの口が色っぽくて、また口づけたくなるのを堪えて私はおでこ同同士をくっつける。


「ごめんね、いきなり。那由他ちゃんの気持ちは嬉しかった。キスしてくる積極的な那由他ちゃんも可愛いし、大好き。愛おしいよ」


 おでこを離し、那由他ちゃんの両頬から手を離す。那由他ちゃんは離しても固まったままだ。そんな那由他ちゃんに苦笑して右手でそっと、顎に触れて口を閉じさせる。

 素直に口を閉じる那由他ちゃんにそのまま親指で唇を撫でると、そこでようやくびくっと反応して身を引いた。その急激な反応に思わず笑ってしまう。


「でもね、あんまり誘惑しないで。那由他ちゃんが可愛すぎて、可愛いでおさまらないことしたくなっちゃうから。私がいい大人でいられるよう、もうしばらく、いい子でいてね。わかってくれる?」

「は……はい……」


 那由他ちゃんはこくんと頷きながら大人しく助手席におさまって膝に手を置き、小さくなっている。

 あんな積極的だったのに、可愛い。そもそも、何に対しても一生懸命すぎるでしょ。ほんとに、愛おしくて。あああ、好きすぎて辛い。


「じゃあ、車出すからおとなしくしててね。シートベルト閉めて。しゅっぱーつ」

「……」


 那由他ちゃんは黙ってシートベルトをしめた。それを確認してから私もしめて、周囲を確認しながら出発させる。


 それにしても……勢いでとんでもないことしてしまった。……だ、だって。那由他ちゃんがあんなに誘惑するから。私、悪くない。だいたい、高校生なんだから、キスって触れるだけじゃないってわかってるよね? いや、言って私も経験ないし実質これが私からの初キスなんだけど。

 あ、何気に昨日のあれが私のファーストキスなのか。あー、ていうか、めっちゃ気持ちよかった。ぬるぬるして、変に食べ物の味がするのが妙に興奮するし、あー、もったいない。これ、自宅でじっくりしたい。こんな旅先じゃなくて。


 てか、いや、そんな呑気な場合じゃないでしょ。なんか、那由他ちゃんに忠告するぜ、的な雰囲気で誤魔化したけど、普通にめちゃくちゃ自分がしたくてしてしまったし。

 うーわー。あれだけ那由他ちゃんに言っておいて、普通に、してしまった。しかも気持ちよすぎて今すぐにでももう一回したい。はぁ。これ、マジで那由他ちゃんが大人になるまで我慢できるかな。

 てか那由他ちゃん引いてないよね? これで嫌われることはないけど、引かれるはありそう。高校生だし知識や漫画とかで知ってるだろうけど、まさか自分がって感じで考えてなかったかもだし。


「……」


 那由他ちゃんは静かだ。高速なので隣をじっと見たりはできないけど、一瞬だけ確認したところ、まだ俯いてる。

 うーん。……これ、家に帰る前にもっかいできないかな。


 私は悶々としながらも、気もそぞろなので安全運転だけは厳守するよう、普段よりかなり気を使って運転した。

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