第26話 告白

「うんうん。いっぱい遊ぼうね。あ、ところでさぁ、あの時、すごい急な質問してきたよね」

「え? 何でしたっけ」


 微笑ましいのはそれはそれとして、さり気ない流れであの時の那由他ちゃんの恋バナを引用して話をもっていこうとしたのに、普通に首を傾げられてしまった。馬鹿な、完璧な流れだと思ったのに。


「ほら、私がお見舞いに行った日、スマホでさ。大学生にとって高校生は恋愛対象かって質問してきたじゃん?」

「あ、あー……はい、しました、ね。その、いきなり変なこと聞いてすみません。その、まだボーっとしていた部分がありまして、気になったそのまま質問してしまいました」


 思い出してくれたようで、那由他ちゃんはなんだか気まずそうに視線を泳がせつつも頷いてくれた。よしよし。ここからだ。さりげなくさりげなく。

 私は那由他ちゃんと並んでベッドにもたれかかったまま、ちらっと顔を覗き込むように上体を寄せて口を開く。


「それはね、全然いいの。でもほら、恋バナなんて珍しいからさ。大学生的に高校生は全然あり、だと思うけど、那由他ちゃん的には大学生はどうなの?」

「え、あ……わ、私も、その、全然、あり、だと、思います」

「ふむふむー。那由他ちゃんもそう言うのに興味が出てくるお年頃なんだね。もしかして気になる人とかいる感じ?」


 覗き込んだ私を避けるかのように顔をぐっとそらして頷く那由他ちゃんは、素面での恋バナに照れているのか頬は少し赤くなり声も上ずっている。その可愛い姿に、何だか胸の奥からぐっと熱い何かが湧き上がってきて、そんな踏み込んだ質問をしてしまった。


「あ、あー……」


 言った瞬間、自分でもまずいのでは? と思った。だけど目をまん丸に見開いて耳まで真っ赤になった那由他ちゃんの姿に撤回することもできず、ただ返事を待った。


「えーっと、ですね、あぁ、あー……はい」

「え? まじで? え、あのね、お、お姉さん的には那由他ちゃんをどこぞの馬の骨にとられるとか悔しいなぁ。誰? どんな人? 大学生ってことだよね? もしかして私の友達? いつの間に連絡先交換してたの? でもそれって出会ったばっかりだし、正直ちょっと、決断が早すぎるって言うか、そもそも高校一年生に気安く声をかけてくる軽薄な人はなー、やめたほうがいいかもなーって思っちゃうんだけど」

「そ、そんな、軽薄とかじゃありません」


 こくん、と頷いた那由他ちゃんの可愛さに心奪われると共に、いや誰だよマジで!? と言う感情が頭の中で爆発してめちゃくちゃ問い詰めてしまった。

 可能な限りの理性で最初はお姉さん的に、と前置きしているけど後半普通に本音が出てしまって、那由他ちゃんの拒否声にびくっとしながら後悔する。


 うわああああ。やってしまった……。そりゃそうだよ。そりゃ、好きな人のこと誰かも知らないのにいきなり否定から入られたら怒るよ。だって、那由他ちゃん取られたくなさすぎて。と言うかずるくない? 私の方が先に出会ってるよね?

 あああでもほんと、那由他ちゃんにはそんなの関係ないし、ほんとに申し訳ない。那由他ちゃんに好きな人がいると言うなら、それはちゃんと友人として応援を……え? ガチなの?


 思わず下げてしまった頭をあげて那由他ちゃんを見ると、ちょっぴり泣きそうなくらい真っ赤で困ったような顔をしていて、その顔は、ちょっと気になる人がいるとかって段階ではない。

 さっきまでそらしていた顔をこっちに向けて、私と至近距離で顔をあわせて目をそらさない。そのきらきらした目で、何を考えているの?


「え、そ、ま、マジなの? え、もう、本気で好きなの?」

「……す、き…と、思い、ます」


 那由他ちゃんは息すらとまるほど赤い顔で、唇を震わせながらゆっくりとひらいた。そして肯定した。どうしてそんなに素直なの? と馬鹿みたいなことを質問してしまいそうになる。


「そ、う、なんだぁ。あー、ごめんねー、変に、ケチつけるようなこと、言っちゃって」


 いっそ告白してしまいたい。私の方が好きだし、私の方が幸せにするから、私にしなよって。でもどうしてそんなことができる? 他ならぬ那由他ちゃん自身に他に好きな人がいるって言っているのに、それを否定して、断りにくいってわかってて告白なんて。それはきっと、口から出た瞬間に後悔し、気まずくなって友達ですらいられなくなる最悪の選択だ。

 落ち着け、私。まだ、好きな人がいるだけだ。恋人になったわけでもない。今物理的に一番近いところにいるのが私なのは変わらないのだ。


 ならここからいくらでも取り戻せるはずだ。どんな人か聞いて、それより私の方がいいのだと、那由他ちゃんに思わせればいい。まだまだ、全然希望はあるはずだ。長期戦だ。


「い、いえ……その、心配してくれてるの、わかってます。その、ありがとうございます。でも、千鶴さんのことをそう言う風に言われるの、いくら本人でも、ちょっと、嫌なので」

「そうだよね、本当にごめ……ん? 私のこと?」

「え? あっ」


 え? 今、那由他ちゃんの好きな人のことを私はディスっちゃったわけじゃん? で、私が本人でもその人をディスってほしくないって?

 ん? ちょっと、待とうか。えっとね。うーん、目の前の口元抑えてちょっと泣き出してる那由他ちゃんが可愛すぎて頭が動かないのだけど。


「……」

「ご、ごめんなさい。その、私、こっ、心の準備がまだで、あっ、い、いいまの、なしで」

「お、落ち着いて、那由他ちゃん。涙でてるよ」


 思わず固まってしまった私に、那由他ちゃんは両手で口を隠したままぐるっと背中を向けて丸まりながら謝罪してきたけど、ちょっと待って!

 慌てて追いすがり、背中を右手でさすりながら同じように上体を曲げてその顔を覗き込み、左手でハンカチを差し出す。


「う、うう。なんか、すみません。急に、変に、き、気持ちが高ぶって」

「うん、そう言うことあるよ。あるある。大丈夫。深呼吸して」

「は、はい」


 ハンカチを受け取った那由他ちゃんはそれで涙をふいて、ふぅふぅと呼吸を繰り返し、それから起き上がって私を見返す。ちょっと落ち着いたはずの那由他ちゃんは、同じように上体を戻した私と二秒ほど目をあわせてからまたぼっと赤くなった。


「あ、ああ、あの、その」

「落ち着いて、那由他ちゃん。私の言葉を聞いてもらっていい?」

「え、あの、あぁ……あの、さ、さっきのはカットでお願いします」

「うん。わかった。いいよ。那由他ちゃんがそう言うなら、聞かなかったことにする」

「え? あ、ありがとうございます……っ」


 力強く頷く私に那由他ちゃんは口の端をあげてお礼を言いながら、眉を下げてまた泣きそうにウルウルしだす。声がしめって、まるで今にも嗚咽をあげそうなくらい、体を震わせる。それが右手で触れている背中から伝わってくる。


「う。ず、あの」

「那由他ちゃん。私、那由他ちゃんが好きなの」

「……へあ?」


 だからこれ以上那由他ちゃんがなかないように、私は全部のしがらみを放り投げてそう告白した。

 那由他ちゃんに告白はない? その発想がないわ。那由他ちゃんと両思いだと仮定したら、告白はしないけど告白させようなんて、そんなひどい話があるか。年下にだけ勇気を出させようなんて、そんな恰好の悪い話は他にない。


「恋愛感情で好き。だから、恋人になってくれないかな? 必ず幸せにするから」

「あ、え……わ、私がさっき、言ったから、な、慰めようと、してくれてますか?」


 那由他ちゃんは何故か周りを見渡してきょろきょろして、小さな声で真っ赤なままそう尋ねてきた。私はそれに微笑んで小首をかしげて見せる。

 本当は心臓が馬鹿みたいにドキドキしている。那由他ちゃんが好きだって先に示してくれているのに情けないくらいだ。だけど少なくとも、見せないくらいの意地はある。すでに手遅れなんだから、せめて少しでもよく見せたい。


「何のこと? カットされた世界のことはちょっとよくわからないな。ただ私は、那由他ちゃんのことが好きだから告白しただけだよ。……駄目かな? 返事、欲しいな」

「っ……ほ、ほんとに私でいいんですか?」


 目をぎゅっと閉じて涙をこぼしてから、那由他ちゃんはゆっくり目を開けて私と見つめあいながらそう言った。その胸を締め付けられるような可愛さに、私はできるだけ感情を抑えるため、そっと声をひそめて応える。


「那由他ちゃんじゃなきゃ駄目だって、気づいたんだ」

「……は、はい! 私も好きです! こ、恋人に、なりたいです!」

「うん!」


  那由他ちゃんが満点笑顔で頷いてくれたことで、とうとう我慢が出来なくなってしまって、私は那由他ちゃんをぎゅっと抱きしめた。

 横から膝立ちになって胸に抱きしめる私に、那由他ちゃんは戸惑いながらもそっと抱きしめ返してくれた。


「……あったかい、です。夢みたいです。ふへへ」

「私も。ありがとう、好きになってくれて。嬉しいよ」

「……ぬふ、えへ、えへへ。はい。私も、ありがとうございます」


 力を抜いてそっと那由他ちゃんを見つめあう。その柔らかい体から伝わる温度に、告白したと言う緊張が抜けていく。それと同時に足元から脳天に突き抜けて天空にまで行ってしまいそうな感情が爆発して、また私は那由他ちゃんを抱きしめていた。


「ぐ、あああ、那由他ちゃん可愛すぎるよぉぉ。もう好き! 大好き! 愛してる! あー、もうもう、ぜーったい幸せにするからね!」

「はわっ、あ、は、はいっ。わ、私も頑張ります!」

「あー! 好き!!」


 やっぱ那由他ちゃんすごく好き! 好きすぎて頭おかしくなりそうなくらい好き!! なんでこないだまで私那由他ちゃんのこと好きなの気付かなかったの!? 私は馬鹿なのか!? こんな、こんなに可愛い那由他ちゃんといて、好きにならないわけない!

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