第25話 夏祭り 後編

「私もあんまり買わないんだけど、リンゴ飴、ビジュアルは満点可愛いよね」


 ゆっくり食べて回っては食べて、としていると時間はそこそこおやつの時間を過ぎたくらいだ。なのでリンゴ飴は神社から出る方向へ食べ歩くことにした。購入したばかりのリンゴ飴を軽く回して眺めながら那由他ちゃんにそう笑いかけると、那由他ちゃんは大きなリンゴ飴をキラキラした目で見ながら頷いた。


「はい! 可愛いですよね。美味しいですし、満点です!」


 そんな可愛いリンゴ飴と那由他ちゃんの組み合わせ、ベストじゃん? あまりに可愛いので軽く写真を撮る。今日はお祭りと言うことで、朝会ってすぐにも写真を撮っているし、お店とかもパシャってるからか、そう抵抗せず収まってくれた。


「またとって……千鶴さん、写真撮るの好きなんですか? 普段そこまでじゃないですよね」

「そりゃ普段は外食くらいしかとらないけど、今日はお祭りって言うイベントだし、何より那由他ちゃんが可愛いからね!」

「もう……あの、えっと、だ、だったら、普段は可愛くないんですか?」


 あきれ顔の那由他ちゃんは私の言い訳に、視線を泳がせて赤くなりながらそう尋ねてきた。可愛さあまってつないでる手をぎゅぎゅっとひいて肩をぶつけながら答える。


「もー、普段から可愛いに決まってるじゃん。言わせたがりだなぁ、でもそんな那由他ちゃんも可愛いよ!」

「ふへ、えへへへへ」


 にっこにこに緩んだ口元をリンゴ飴で隠す那由他ちゃんは可愛いなぁもう! いやほんとに、わざわざ言わせたがるところも、こう、私なら褒めてくれるとわかっていて聞くところとか、それでいて実際に自分が美少女と思っていないところとか、いまだに私と二人きり以外は前髪たらしているところとか、全部可愛いよね。こう、私だけ特別心許してくれる感を感じると言うか。

 いやー、考えたら那由他ちゃん人たらしだよね、そんな風にされたら、誰だって私那由他ちゃんの特別何だって思うし、那由他ちゃんを特別に思っちゃうよね! もうね、好きだわ。はー。恋に落ち続けるわ。


 いや、本当にね。あれから那由他ちゃんはいつも通り、と言うにはちょっと甘えたりしてより可愛くはあるけど、少なくとも恋バナの雰囲気なんてみじんもなくて、普通に仲良しの友達の距離感だ。

 だから那由他ちゃんは私にはただ友愛しかないのかもしれない。だけどそれでも、関係ない。


 私は那由他ちゃんが好きだ。この可愛い女の子を、独り占めしたい。私だけを見てほしい。那由他ちゃんに、他の友達をとか、高校生らしい青春をとか、思い出をとか、色々と考えていた。だけどそんな風にはもう、余裕をもって考えられない。

 他の誰かを見ないように、私を見てほしい。他の誰かを見つけてしまう前に、私だけを特別に思ってほしい。もちろん学校での友達は大事だし、部活をしたいならするべきだけど、それより私を一番にしてほしい。と思ってしまっている。


「? 千鶴さん、どうかしました? リンゴ飴食べてませんけど」

「ん、いやいや。つい見とれててね。あ、危ないからもうちょいしっかりくっついててね」

「あ、はい」


 ついつい那由他ちゃんに見とれてしまっていた。周りの人込みは段々増えている感じなので、ちゃんと周囲には気を配らないとね。


 それにしても、周りをみつつも那由他ちゃんチラ見するけど、何度見ても可愛い。とこうして改めて思いが固まったものの、結論は先日と同じだ。私から告白は、ない。


 だって、人見知りで人生唯一の友人が私で、他に誰もいない状態で、家族も色々あるような状態で、そのまま私を一番にしてほしいって言うのは、もはや脅迫だろう。洗脳と言っても言い過ぎではないくらいだ。

 友愛や敬愛やその他もろもろ全部を無理やり恋愛感情に押し込めてしまうような、そんな暴力性さえ感じる。あ、私が敬愛を受けているみたいに言ってしまった。まあとにかく、私からいくのはない。


 と、聞こえのいいことを考えてはいるが、別に私は那由他ちゃんの成長を思ってとか言うような、そんな大げさに上からものを言えるような人間ではない。いくら私が年上でお姉さん風をふかせていて相手が年下とはいえ、言っても高校生。16歳は法的にも結婚できる年齢だ。恋愛なんて弱肉強食。早いうちに唾をつけたもの勝ちだ。とも思うのだ。


 なので、那由他ちゃんから告白されたら、あり。と言うことにしよう。超えちゃいけない一線はあるけど、まあまあ、恋人になって関係をキープするのはセーフでしょ? 那由他ちゃんはこれかも見分をひろめ、友人をつくって輝かしい高校生活を送るし部活をしたっていいけど、それプラス私と言う恋人がいてデートをしたっていいわけだ。

 那由他ちゃんの成長を願ってはいるけど、それはそれとして、仮に気の迷いでも恋と思って告白してくれたならそれを無下にするのはまた違うもんね。先日は安易に付き合うべきじゃないとか思ったけど、それってそれこそ那由他ちゃんを一人前の人間扱いしてないのと同じだ。子供ではあっても、その感情に優劣なんてないんだから。私は大人だからこそ、那由他ちゃんも一人の人間として尊重すべきだよね!


「那由他ちゃん、これからどうしようか。さすがに歩き疲れたし、どこかで休憩する?」

「うーん、そうですね。でも、お腹はいっぱいですし……」

「そうだねぇ。私か那由他ちゃん家で休憩しよっか。その格好も大変だろうし」

「あ、じゃあ私の家でいいですか? いつも私ばっかりお邪魔してますし」

「お。いいね。じゃあお邪魔しちゃおっかな」


 となると私がするべきことは、那由他ちゃんに恋愛として好きになってもらって告白してもらえるように頑張る、だ。

 でもどうすべきか。今すでにお家にも気さくに招いてくれるかなりいい関係なので、あまり無理して壊したくはない。さりげなく……まずは私が那由他ちゃんを恋愛対象なように、那由他ちゃん的にも私がありなのか聞いておくか。意識してますよ、アピールすることで那由他ちゃんも私を意識するだろうしね。


 よし。少しずつ距離をつめていこう。と下心満載の私はいつも通りを装って那由他ちゃんのお家に行くことになった。


 なお私の姫リンゴ飴は無事完食し、那由他ちゃんのは食べきれなくて半分近くを持って帰って冷蔵庫にいれることになった。お父さんに食べてもらうらしい。お父さんと仲良しなのほんと微笑ましい。

 あ! 気が付いてしまったのだけど、私今日、那由他ちゃんと一緒に色々食べたのめっちゃ間接キスだったな。あんまり意識しすぎてもキモいからいいけど、何にも考えてなかったのはそれはそれでもったいなかったような。まあいいか。


 那由他ちゃんのお家まではいつも通りなのだけど、何故か流れでずっと手を繋いだままだった。那由他ちゃんは私より背が高いのだけど、手の大きさは同じくらいだし、柔らかさは私より上である。いつもながら、若いなぁって手である。


「あ、す、すみません。ずっと繋いでましたよね。すみません」

「あ、なんでなんで。いいじゃん。別に」


 それに那由他ちゃんはマンションの玄関でロックを解除しようとしたところで気が付いてはわはわしながら手をほどこうとしたけど、もちろんそんな勿体ないことはしない。

 さりげなく繋ぎなおしてにこっと笑いかける。心の距離を詰めるには、体の距離も詰めるのがいいだろう。ていうか単に私が嬉しい。


 大好きな那由他ちゃんと手を繋いでいると、なんとなーく心がわくわくすると言うか、ドキドキも多少あるけど、癒される。好きな人と傍にいる感じって心地いいんだねぇ。


「う、あ、ち、千鶴さんがいいなら、い、いいんですけど」


 那由他ちゃんは困惑していたけどそうOKを出してくれたので、手を繋いだまま部屋に向かった。


「あ、先に着替えてもいいですか?」

「ん。そうだね。その格好、可愛いけどさすがに部屋までそうだと疲れるだろうしね。じゃあダイニングで待ってるね」

「はい、すみません」


 一瞬、脱ぐの手伝おっか? と言いそうになってしまったけど、それは言う瞬間は普通に下心ないけど、多分実際にしていると途中から下心がわきそうなので弁えた。それはさすがにね、同性とはいえ、恋愛関係に発展するとなると話は変わるもんね。


 と言う訳で待つことしばし。今日は那由他ちゃんのおじさんも早く帰ってくるらしいし、夕食については考えなくてもいいだろう。多少はゆっくりできる。それにしても、さっきは私の恋愛対象に那由他ちゃんありって伝えたいと思ったけど、さてどう自然に伝えるか。

 那由他ちゃんが聞いてきたのはめちゃくちゃ唐突だし違和感しかなったしなぁ。私が同じように違和感だしちゃってもしかして私のこと好きなの? と感じさせたらそれがもうプレッシャーになっちゃうしなぁ。さりげなく、かつ意識はさせるって難しいな。


「お、お待たせしました」

「はいはい。ゆっくりで大丈夫だよ。あ、さっき買った飲み物あけて勝手にコップとか借りてるから」


 那由他ちゃんからは笑顔でOKをもらったので、那由他ちゃんのカップも用意して部屋に移動する。

 那由他ちゃんはラフな部屋着に着替えている。普段は言ってもちゃんとした、と言うか普通にシンプルながらも本人の雰囲気もあって大人っぽい感じなのだけど、部屋着だとして油断しているのか、動物のキャラものシャツに水色の半ズボンだった。小学生みたいな格好にすら見えるけど、那由他ちゃんだからかあんまり違和感はない。


「那由他ちゃんのそう言う格好始めてみるけど、いいね。小学校から着てそうな感じが、部屋着―って感じで」

「あ、えへ、そ、そですか? 子供っぽいかな―とは思ったんですけど」

「全然、似合ってるよ。普段のシンプルな大人っぽい感じもいいけど、そう言うのもいいよね。さっきまでの浴衣のちょっと色っぽい感じとはギャップで、いい感じだよ」

「い、色っぽい、ですか。ぬふ、ふふ、そ、そう言うの、照れちゃいますね」


 あと単純に似合ってる以上に、段々素を見せてもらってる感じで、ほっこりもするよね。それにしても反応的に実際に小学生から着ているっぽいな。全然綺麗な感じなので、那由他ちゃんは物持ちがいいなぁ。


「あー、ところで那由他ちゃん、この間の風邪はもう全然大丈夫みたいだね。いや、部屋にくるのあの時ぶりだから、思い出しちゃって」

「あ、はい。えっと、その節はお世話になりました。あれからはちゃんと、お風呂上りもあったかくするように頑張ってます」

「うんうん。それはいいよ。夏とは言え、油断は禁物だもんね。そう言えばもう宿題は手を付けてるの?」

「あ、終わりました」

「……え? もう? あ、ていってもまぁ、もう八月だしそうか」


 私の夏休みが始まったばかりなのでびっくりしたけど、八月の二週目にさしかかっているのだから、そんなものか。私もだいたい七月中には半分は終わらせていたし。ただ友達の中には、八月最終日に写させてとか言ってくる子もいたし、私が個人的に早いだけだと思っていたけど、真面目だとこの位で普通か。


「はい。そう、ですね。千鶴さんとあんまり会えなくて暇だったので。えへへ。その分、ちょっとはしゃぎすぎて、風邪を引いてしまいましたけど。でもその分、いっぱい遊びましょうね」


 さすがに私も夏休み前のテスト前はばたばたして会えなかったからね。仕方ない。仕方ないけど、那由他ちゃん可愛すぎるし、存分に遊ぶぞ!

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