第23話 え、まさか、那由他ちゃん?

 那由他ちゃんのお見舞いをして、帰るときにはずいぶん元気になっていたけど、明日もおじさんはお仕事だし心配だ。那由他ちゃんの様子をみたおじさんからは、もう明日はゆっくりさせるから大丈夫。本当にありがとうって言われたけど、できるなら明日も様子を見に行きたいくらいだ。

 でも逆に気を使わせてもあれだし、一人でゆっくりした方が治りも早いだろうし。はー、気になる。


「ん!」


 と夜になっても那由他ちゃんを思ってごろごろしながら突然の通知音に画面を見ると、なんと那由他ちゃんからだった。もうスマホを見ても大丈夫なくらい元気になったのかな?

 帰り際にもお礼を言われたのに、またお礼なんて律儀だなぁ。全然気にしないでね! と返事をする。


「あー、と」


 一瞬迷う。明日もいつでも呼んでね、と送るべきかどうか。那由他ちゃんは真面目だから、こう言うと多少なら無理にでも呼ばないとと思うだろうか。と言うか本人にその意識が無くて、元気だと思って私を呼んだとして、私といるとつい遊ぶことに集中して無理して悪化する、みたいなことはあるだろうし。

 うーん。でも、心配していて、本当に力になりたいと思っているのは本当だ。それを伝えるだけでも、那由他ちゃんの気持ちを少しでも楽にできるなら。


「えい」


 文章を遠回しにしつつ送った。これでいいだろう。那由他ちゃんからもありがとうございます。と返事をもらってうんうん。と満足していると、少し間をあけてから那由他ちゃんから追加でメッセージが届いた。


「ん?」


 その内容は、私的に大学生にとって高校生は恋愛対象になるのか、だった。


「ん? んんんん?」


 え? どうした急に。唐突すぎない? 全然そんな話してないし、そもそも那由他ちゃんと恋バナなんてしたことないんだけど?

 えーっととりあえず返事ね。返事。大学生が高校生を恋愛対象かって? そりゃまあ、ありなんじゃない? ていうか高1と高3で付き合った一年後は高2と大1だし。そうじゃなくても3つ差くらいなら割と付き合ってる人いるよね?


 なので、あり、と返事をうちつつ、え、まじでなに、怖い。と思ってしまう。だってそうじゃない? こんなの那由他ちゃんからの恋愛相談みたいなものでしょ? 那由他ちゃんが、恋? ど、どこの馬の骨なわけ!?

 大学生って、いやでも私と会うまで友達いないってわけだし、私が紹介した誰か? 連絡先交換まで誰かしてたっけ?


「ふわっ!?」


 困惑する私は那由他ちゃんからまさかの『教えてくれてありがとうございます。千鶴さん大好き!』と言う返事が来て普通に大きな声を出してしまった。慌てて声を抑えつつも、何度読み返しても文字は変わらない。


 言い方としては、普通に冗談みたいなものだ。こんな風になら私だって那由他ちゃんに何度も大好きと言っている。だけどわざわざ恋愛対象かなんて聞いた前置きの後に、普段そんなこと言ったことのない那由他ちゃんからこれって。

 まさか、告白!? え!? これ、告白なの!?


 え!? 那由他ちゃんの好きな人私なの!? ちょ、ちょっと待って。いきなりすぎる。そんな。まだ那由他ちゃんとは会ったばかりだし、女同士だし、いくら大学生と高校生がありといっても、高校一年生と大学三年は5歳差だ。結構大きいって言うか、実年齢16歳でしょ?

 普通に犯罪って言うか、あー、いや別に、犯罪になってしまうことをするってわけではないけど、待て待て。そもそもこんなの、初めての友達の私にって言うのは他に選択肢もないわけだし、ちょっとずるいって言うか。


 ぽこん、と音がして、那由他ちゃんからのスタンプが表示される。おやすみなさい、といつも送ってくれる可愛らしい動物スタンプだ。


「……んん?」


 え? 普通にこれで会話終わるの? え? ありがとう大好きお休み? え? 普通に、お礼の流れでテンション上がって大好き付け加えただけ?


「……ぐわぁぁぁぁ」


 呻き声をあげながら私は自己嫌悪で頭を抱えて布団にもぐりこんだ。

 最悪だ。めちゃくちゃ、がっかりしてしまった。何だ私。那由他ちゃんに告白されたいのか。あー。でもあれだよね。普通に、私がすぐ返事しなかったから様子見で取り消した可能性もあるっちゃあるよね。


「……」


 ゆっくり頭を出す。告白されなくてがっかりしたのは明らかだ。つまり私は那由他ちゃんに告白されたかった。でもそれはなんだろう。那由他ちゃんのことが好きなのかな?

 那由他ちゃんからの告白だと思った私は、受け入れるとか嬉しいなんて全く考えずにどうしようと思うばかりだった。もちろん戸惑って当たり前だけど、これでは単に那由他ちゃんを妹分として他の誰かにやりたくない子供じみた独占欲で、それなら私の方がまし。と言う発想もなくはないだろう。


 もちろん大好きは大好きだ。那由他ちゃんはどこをとってもパーフェクトに可愛いし素直で真面目で、ちょっぴり人見知りでコミュ障なところも、守ってあげたくなってしまう愛らしさで、最近ますます仲良く私に心開いてくれていて甘えん坊なところも可愛いし、大好きだ。

 ……それが恋愛対象なのか、と言われるとどうだろう。そもそもあんまり私そう言うの考えてなかったしなぁ。一応告白されたことはあるけど、返事をする前に兄に知られてまだ早い! とか言って勝手に断られたし。その時は大して仲良くもない相手でほっとしたのが本当だけど、それはそれでうざいので兄には怒ったけど。


 それはそれとして、恋愛対象か、だよね。どうなると恋愛対象なのか。かまととぶる気はない。家族愛と恋人の違いなんて、性欲しかないでしょ。つまり、那由他ちゃんを性的な目で見れるか。


「……まぁ、まあまあまあ」


 誰に言うでもなくそう呟いて誤魔化す。うんまあ。仕方ないよね? だって那由他ちゃんだよ? あんな我儘ボディで無防備に触れられて、意識しない方がおかしいよね? 普段からそう言う目でってわけでもないんだし。

 ……いや、私、那由他ちゃんのこと好きなのかよ。何普通に結論だしてるかな。でもそう決めてしまうと、那由他ちゃんにどきどきしてたし、いくら那由他ちゃんが魅力的とは言っても同性の友達と距離感近いくらいなれてる私が、那由他ちゃんには過剰にときめいている気がしてたのにも説明がつく。


「……」


 って、割と結構前から好きじゃん。あ、なんか辛くなってきた。那由他ちゃんに対するのとは別に、胸が苦しくなってきた。そうかぁ。私那由他ちゃんのこと好きで、告白されたかったのかぁ。

 五歳年下で、私のことを初めての友達と純粋に慕ってくれる友達をそう言う目で見てたのか。……あ、いたい。胸が痛い。明日から那由他ちゃんにどう接すればいいんだろう。


 あああ、落ち着けよ。私。今大事なのは私の気持ちなんかじゃない。大事なのは、那由他ちゃんだ。那由他ちゃんが私をどう思っているのか。今のところまだ、可能性はある。仮に全然違っていて他の人を好きだと言うなら、私はそれを応援するべきだ。

 だって那由他ちゃんのことを好きだけど、それは本当に大好きで、家族のようにも嘘じゃないんだから。変な人には任せられないし、今すぐ付き合うとか冷静になろってとめるけど、一応は応援する。うん。

 あと大事なのは告白された場合だけど、もちろん両思いなら嬉しいのだけど、だからと言って安易に付き合うのはちょっとどうだろう。那由他ちゃんはまだ未成年なのだし、それこそ手近な私にうっかりその気になっている可能性もある。せめて18歳になるまでは待つべきだろう。うん。そうだね。

 それが正しい。うんうん。いいぞ。私はけして那由他ちゃんの幼さや孤独さに付け込んでいる悪い大人ではないのだから。よし。那由他ちゃんに誇れるような立派な大人でいよう!


 もちろん自覚したからって自分から告白するなんて論外である。今の那由他ちゃんに告白するなんて、関係を盾に強要しているようなものだ。大事なのは那由他ちゃん自身の心と体なのだ。


「よしっ」


 頭を整理して方針も決まったところで、那由他ちゃんにおやすみスタンプをかえす。既読もつかない。もう寝てしまっているのだろう。

 それでいい。突然の恋バナも私の先走りで、本当はまだ好きな相手なんていなければいい。そうなら私も他の人を応援とか無駄につらそうなことしないですむしね。那由他ちゃんの為ならとは思うけど、そりゃしんどくない方がいいに決まっている。


 スタンプも送ったし、悶えている間に何だかんだ時間もたってしまった。日付が変わるには早いけど、那由他ちゃんのお世話をして私が風邪をひいてしまったら気にしてしまうだろう。

 今日のところは普通に寝てしまおう。私はトイレに行ってからベッドに入った。


 そして翌日、那由他ちゃんを心配しつつも今度のお祭りの約束やその他の予定について連絡を交わした。

 その際の反応のひとつひとつが、恋心を自覚したせいかいちいち可愛く思えてしまって、次回会う時が不安になってしまう。


 明日には大丈夫だから約束通り私の家に行きますね、と言ってくれる那由他ちゃんに、無理はしないようにね。と文章上はなんでもなくいつも通り返事をしながら、不安とドキドキでもじもじしてしまう。


 さらに、もしよければ通話でお話しできないか、なんて言ってくる。暇だから私の声が聞きたいんだって。何で那由他ちゃんはこんなに可愛いのか。もちろん返事はOK! と返してから変な反応をしないか不安になりつつ、通話を繋げる。


「あ、も、もしもし、千鶴さんですか?」

「はい、もしもし。もちろん私よ。昨日以上に元気そうな声でよかった」

「はい! ……えへへ。なんだか、お電話で話すの不思議な感じですね。千鶴さんの声が耳元で聞こえるの、えへへ。なんだか、どきどきしちゃいます」


 んんん。これもう、私でしょ? やっぱ那由他ちゃん私に恋に落ちてるでしょ? って思うでしょ普通。でも単に電話に慣れてなくて緊張とななれないからドキドキってのもあるしね。私だって昔携帯電話がもらえなくて、固定電話から電話をするときはどきどきしてたもん。

 勘違いするな、私。焦りすぎだ。那由他ちゃんが何も言ってこないなら、あれはただの好奇心での質問でしかないんだから。私は今まで通り、気のいい姉貴分でいればいいんだ。


「そうね。なれないとそんな感じかもね」


 私は那由他ちゃんの可愛さをかみしめつつ、普段通りの受け答えができたことに安堵した。これなら実際にあっても大丈夫だろう、と。


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