第19話 お楽しみの夏休み

 那由他ちゃんを友達に紹介してみた結果、私とは仲良くなれたけどかなりの人見知りなのは相変わらずだった。できるなら私以外にも友達をつくって多少は自信を持ってもらいたいなぁ。と思いつつ、だからどうしてあげよう、何て名案は特に思い付かなかった。

 それにまあ年下ではあるけど、あんまり世話を焼きすぎてウザがられても嫌だしね。けして聡子の言ったことを気にしたわけではないし、那由他ちゃんはすでにそんなレベルじゃない仲良しだと思ってるけど、うん、まあ。


 と言うわけでわかりやすいお節介はやめて、普通に私と那由他ちゃんがより仲良しになることで、他にも友達が欲しいな、と思わせることにした。これは私にとっても嬉しく楽しく、仮に友達が欲しいなと思わなかったとしてとくに失敗とかなくて得しかないプランである。なんならWIN-WIN-WINくらいである。


「那由他ちゃん、夏休み始まったらちょっと遠出しない? あ、私の夏休みだから、八月になっちゃうんだけどね」

「えっと、この間も、結構遠くまで行ったと思いますけど、もっとですか?」


 と言う訳でクーラーの聞いた自室で勉強会をしている休日、母の用意した三時のおやつ休憩タイム中にそう切り出したところ、那由他ちゃんはきょとんとして首を傾げた。


 今まで那由他ちゃんと遊ぶ日と決めて一日遊んだのは二回だけだ。

 一回は普通に買い物してお昼食べてまた買い物して、歩き疲れてからカラオケ行って三時間くらい歌った。三時間で二人なのに翌日夜に電話した時ちょっと枯れてたのに思わず笑って喉弱って言ってしまった。でも電話を切ってから、それだけ普段からおしゃべりしてないってことじゃない? って気づいて反省したりしたけど、那由他ちゃんは気にしてなかったぽいのでセーフ。

 二回目は車でちょっと離れた郊外のアミューズメント施設に行った。体を動かしたくなったので、ボウリングやダーツと色々楽しんだ。電車で行けるところにも一応あるけど、郊外の方が大きいから待たなくていいしね。那由他ちゃんはボーリングは家族で何回かしたことがあると言うことだけど、他は初めてと言うことでよく楽しんでくれた。


 でもあれで遠出はない。普通に車で20分もかからないくらいだし。そんな遠くはないでしょ。那由他ちゃんの活動範囲狭いなぁ、もっと広い楽しみを知らせたい! と言う使命感が私の胸でますます燃え出す。


「もちろんもっとだよ。そうだなぁ。今より暑い夏だし、海、は危ないからプールとか。あ、花火大会もいいよね。どこか行きたいところある? 車もあるから、何でも言ってみて」

「あ、えっと……千鶴さんと一緒なら、どこでも、行きたいです」

「うーん、なんていう百点満点の答え。でもせっかくなら百パーセント楽しみたいしさぁ。何でも思いつくもの言ってみてよ」

「え、えーっと……水着は、恥ずかしい、と言いますか、その、今年買ってないので、多分、入らないですし」

「えっ」


 毎年買うのは全然あり。だけどそれと全く違う問題として、去年のがはいらない? 成長期なのはもちろんそうだろうけど、まだ背とかいろいろ伸びてるの? 那由他ちゃん、どう見ても170は超えてるけど、何センチなんだろ。一緒に買いに行こうっていいたいけど、でもそもそも恥ずかしいって言ってるから、無理強いはできないか。

 思わず声が出てしまったのを誤魔化して意味なく口元を払いながら話題を変える。


「うーん、じゃあ、海より山って感じかな。あー、でも」


 確か去年みんなで近場でBBQしようてなった時、結構兄と父が心配してうざかったなぁ。しっかり管理されているところなのに、川の傍で責任者なしかとか。最終的に先輩が所属してるゼミの先生が来てくれてOKになったけど。二人だとうるさいかも。

 かといって、うちの家族を連れて行くのもなぁ。わりと暇してフットワーク軽めな兄になるだろうし、川遊びで軽装になった那由他ちゃんを兄に見られるのもなんかやだ。


 花火大会やお祭り、ライブとかのイベント系はさすがに普通に心配はして注意されて定期連絡を言い渡されるけどそのくらいだし、そっちにするか。まあ確かに自然系は、どんなに注意しても万が一ってこともあるしね。那由他ちゃんと二人となれば、私が監督役だ。なら最初だし安全策をとった方が無難か。


 とは言えお祭りとかは普通に地元で日帰りできるし、せっかく夏休みに遠出するならやっぱ泊りがいいよね。とはいえ、私も大学生になるまで未成年だけで泊まりはと基本禁止だったし、那由他ちゃんのお父さんの許可はいるけど。


「うーん、迷うなぁ。夏にこだわらなくても普通に旅行でもいいけど」

「りょ、旅行ですか?」

「せっかく夏休みだし、那由他ちゃんのお父さんの許可があれば一泊くらいしたくない? あ、そうだ。遊園地にいくのはどう? 隣県だけどそんな頻繁にいかないし、どうせ行くなら連日チケットの方が得だもんね」

「え、そ、そんな。いいんですか?」

「そりゃもちろん私はいいけど。お金がちょっとかかるけど、那由他ちゃん貯金ある?」

「あ、あります。お年玉ためてますから!」

「あ、そっか。行ったことはある?」

「えっと、小さい頃に一回行きましたけど、その時、その、ちょっと色々あったので、それから行ってないんですけど。その、ち、千鶴さんと一緒なら、行きたいです」

「そっか。じゃあまずはお父さんの説得だね」

「はい!」


 色々、が気になるけど子供の頃ならまあ迷子になってトラウマに、くらいだろう。それで家族が気を使って誘わなくもなって同じとこには行かなくなったオチなのかな? だったら二日でも十分楽しめるだろう。さすがに毎年行ってますし飽きてますレベルだと、他にしよっかってなるけど。

 見るからにうきうきして同意してくれた那由他ちゃんに微笑みながら、まだ始まったばかりの夏を思って私も楽しみで、しっかり勉強しようと思った。これで単位落としてたら笑えないし。確か夏休みにしかしてない短期講習は受けてないはず。

 一年の時は普通に忘れて全欠席して二年でとったけど、私が取るべきなの一つだけだったはずだし。うん。後で確認しておこう。人気施設だから早めに予約とらなきゃだし。お盆からはずらしてもやっぱ学生に人気だしね。よし。忙しくなって来たぞ。


 そうして那由他ちゃんと夏休みの企画について、他にもまたカラオケ行こうとか、色々話しているとすっかり時間がたってしまって、慌ててその日分のノルマをこなすことになった。

 いきなりつまずくところだったので危ない。あと遊んでいい思い出をつくるのはもちろんだけど、那由他ちゃんのお勉強も、ここで一気に追いつきたいしね。


 本人にもやる気があるから、ここは可能な限り毎日勉強をしたいところだ。もう一年生後半まで進度は進んでいる。一気に中三レベルまで行くことも可能だろう。そうなればもう基礎は固まってくるし、あとは高校受験レベルまであと少しだ。二学期からの授業も多少は理解できるようになってくるんじゃないかな。授業もある程度復習からはいるだろうし。


 そんな感じで、楽しみに日々は過ぎて行った。










「ごめんなさい……」


 そう那由他ちゃんから電話がきたのは、近所の神社であるお祭りにいく約束をしていた日の朝のことだ。

 どうやら風邪をひいてしまったらしい。一昨日会った時は普通だったけど、昨日の電話でも確かにちょっと喉がいたいと言っていた。


「全然気にしないで。お祭りはどこでもやっているし、別のところに行けばいいから。ね?」

「はい……本当にすみません」


 謝罪する那由他ちゃんを何とか宥めて電話を切る。そして即座に那由他ちゃんの父親にかけた。時間は8時前。夏休みになってから私と遊ぶときはいつも、父親の出社時間と一緒に那由他ちゃんが出るのでまだ家にいるのは確実だ。


「朝からすみません」


 まず謝罪してから、那由他ちゃんの看病に行きたいと伝えた。おじさんも気にはしていたみたいで、私に頼みたいけどさすがに図々しいと思っていたので、申し訳ないけどとOKしてくれた。

 私がやりたいのだから気にする必要はない。おじさんは那由他ちゃんに似て気遣いの人なので、よく面倒を見てもらって申し訳ないとかいって多めにお金を出そうとするけど、そう言うのは全く必要ない。旅行だってまさか私の分まで出そうとするし。


 私が友達の那由他ちゃんといたいし、私が心配なのだ。だから全然問題はない。


 急ぎ家をでて、なんとか出社前のおじさんに家の鍵を借りることに成功した。しかし他人の家の鍵を持っていると思うと、なんとなくそわそわしてしまう。合鍵なので、家を出る時にそのまま持って出てもいいとは言ってくれたけど、怖いからおじさんが帰るまで家にいるつもりだ。


「よーし、待っててね、那由他ちゃん!」


 今私が行くからね!


 気合を入れて、いったん家に帰る。何故ならお母さんに相談したいし、ご飯を作ってあげるならそれはそれで準備がいるからだ。


 お母さんまで来たがったけど、それはさすがに那由他ちゃんが気を使いすぎるだろう。私でさえ使いはするだろうし。なので遠慮してもらった。

 向こうの家で料理するつもりだったけど、普通に、そんな大事なことを任せられないとか言われて、おかゆを作ってもらってタッパーにつめられてしまった。

 いや、おかゆ位つくれますが。と言いたいが、まあお米たくところからだと時間かかりすぎるし、よく考えたらキッチンあんまり触るのもよくないよね。一応おじさんからキッチンとかも好きに使ってとは言ってもらってるけど。


 てなわけで、改めて千鶴、出陣します!

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