第232話両親と兄を騙して姉の金を盗む腹黒妹に対抗してみた2
自室にて。
かえなは桃華学園のネット掲示板の様子を見ながら、くすくすと笑った。
「先輩が逆らおうとするのが良くないんですからねー?」
スマホを自分の勉強机において、ふうっと息を吐く。脅しとしては充分な効果があるだろう。
夕飯まで受験勉強をすることにして飲み物を取りに部屋の外へ出ると、兄の耀と遭遇した。学校帰りのようだ。
「おかえりー、お兄ちゃん」
「……あぁ」
何やら元気がないようだ。何故かじっとこちらを見てくる。
「どしたの?」
「かえな、コスプレ仲間とは仲良くやってるの?」
「ん? んー、明日空き教室借りて衣装合わせするくらいには仲良いけど」
演劇部から借りられた衣装だ。
「……」
「ほんとどうしたの?」
「かえな、SNSは怖いものだから、軽々しく良くない文章を書き込んだり画像をあげないでね」
「え、ああ、うん。コスプレ写真は上げてるけど、良くない物じゃないし」
耀は少し考えて、
「分かった。気をつけな」
「はーい」
そう返事したものの、兄の様子に疑問を覚える。
耀の手に持ったスマホの画面にはメッセージの本文が表示されていた。
『うちの学校の子がコスプレ画像を晒されて嫌な思いをしてるの。わたしがかえなさんに、バラしちゃったのがいけないんだけど、それをネットに書き込んだりするのは止めてほしいってそれとなく伝えてくれるかな? 怒ってる人もいるから』
『悪いね、その子はコスプレしてることを秘密にしてて、わたし達の他にかえなさんしか知らないんだ。だから多分晒したのは彼女だよ』
○
駅で耀の姿を見つけ、奏介はすぐに近づいた。同じ高校だと思われる友人とは電車を下りてすぐに分かれたようなので、タイミングが良い。
「綾小路」
「あぁ、菅谷。……もしかして待ってた?」
何やら元気がないようだ。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「もしかして、かえなのコスプレ仲間の話?」
奏介は首を傾げた。
「ん?」
彼にはまだ何も話していないのだが。
「いや……なんかその、妹がコスプレ関係の友達とトラブってるらしくてさ。桃華学園の子らしいんだけど。伊崎と椿に聞いたんだよ」
奏介は、なるほどと内心で呟いた。
「ああ、うちの学校のネット掲示板で少し話題になってるな」
「そ、そうか」
耀は肩を落とした。
「さすがにまずいよね。その子、ショックで落ち込んでなきゃいいけど。というか、まさかかえながそういう陰湿なことをするとは思わなかった」
ショックを受けているのは耀の方だろう。
「妹さんには?」
「それとなく注意しといた。具体的なことを言うと、またその子に何かするかもしれないから」
これは良い傾向だ。かえなへの不信感が出てきているよう。
「実はそのことで。妹さんのことを聞きたいんだけど」
「え、あ、もしかしてそのトラブってる子に頼まれたとか? 菅谷、中3の頃は時々悩み相談とか受けてたもんね」
奏介は複雑そうな表情になる。
「……そうだっけ?」
「自覚なかったの?」
苦笑気味に言われ、奏介は少し不本意に思う。
「それで、かえなが何?」
「妹さんて、親と仲良い?」
「仲良いというより、母さんも父さんもかえなが一番可愛いんじゃないかな? 怒られてるのを見たことないし、考えてみたらナミ姉はかえなと正反対の扱いされてた気がする」
かえなへの不信感からか、姉について冷静に考えられるようになったようだ。
「まぁでも、だからって暴力振るうナミ姉は悪いと思うけどね」
奏介は目を細める。
(親を完全に味方につけてるわけか)
騙しているというよりも親がカエナを溺愛しているのかも知れない。
「綾小路」
「ん?」
「うちの学校の生徒をいじめたりしたら、妹さんにはっきり注意するかもしれない。それで綾小路に影響がでたらごめん」
「……」
耀は頷いた。
「まぁ、それは仕方ないね。俺より、他の人に言われたほうが良いと思うし。菅谷は間違ったことを言わないイメージ」
そこで、彼とは別れた。
それを見計らったかのように、スマホの着信が鳴った。
「はい、もしもし」
『菅谷くん、お疲れー。契約取れたって』
「! 早いな」
『大家さんは元々考えてたらしくてチョロかったみたい。ボクが出来るのはここまでかな? 君の健闘を祈ってるよ』
「ありがとな」
通話を切って、詩音と水果に簡単にメッセージを送っておいた。
「さて」
ナミカの給料日まで後二日。
●
三日後。
「こんばんは!」
ナミカのアパートの一階にある、管理人室に顔を出したかえな。
「お、かえなちゃん、久しぶり〜」
嬉しそうに言うのは中年独身の大家、
「またお姉さんの部屋?」
「そうなんですよ~。色々持ってきたので」
適当な物を入れた紙袋を見せる。
「いいよいいよ。自由に入りなね」
「ありがとうございまーす」
スペアキーを受け取って、かえなの部屋へ。
「お邪魔しまーす」
ナミカは現在、バイトに出掛けているはずだ。
ドアから中へ入り、懐中電灯をつける。通路側に小窓がついているため、明かりをつけると部屋の前を通った他の住人に気づかれてしまうのだ。
「えーと、いつもここに」
中々見つからず、ミニタンスをひっくり返す勢いで捜索し始める。
夢中になっていたその時。
ドアが開く音がして、懐中電灯の強い光で照らされた。
「っ……! ああ、お姉ちゃんもう帰ったの?」
肩をすくめ、振り返ると、入り口に男性二人が立っていた。ごつめのスーツにワイシャツ、ネクタイ。帽子はヘルメットのようだ。
「そこで何をしている?」
「空き巣だな」
かえなは固まる。
「え……」
かえなには警察の制服ではないことくらいしか分からなかった。
ホームセキュリティ、アパートと契約している警備会社のガードマンだと分かるのはもう少し後である。
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