第177話過去のいじめを逆恨みしてきた同級生を懲らしめるための作戦会議を開いてみた

 通っている学校にて。

 土原つちはらアカノは南城からのメールに眉を寄せた。先日から謎のポエムのブログが流行っていて、その作者が小学生の頃の同級生、南城泰親だというのだ。

 先日同窓会で顔を合わせたばかりだったが、この流行についてメールで聞いてみたのだ。

「アカノ? どした?」

 小学生の頃の友人、現クラスメートの納谷のうやミハラがメロンパンを食べながら問うてくる。

「ほら、流行ってるブログのポエムあるでしょ? ほんとに南城君なのか聞いて見たんだけどーなんか勝手に拡散されちゃったんだって。実際南城君が書いたポエ厶じゃないのに」

 南城は事実を曲げて土原に伝えているようだ。

「なんだそれ、勝手にって……誰かの嫌がらせ?」

「菅谷奏介って覚えてる?」

「あーあの嘘つき野郎?」

「あはは、ミハラ酷っ」

 吹き出したアカノはそうそうと続ける。

「あいつにやられたって。てかさ、カナエも言ってたのよね。菅谷に学校辞めさせられたとかって」

「うわ……マジで?」

「あたしらはガン無視してたけどさー。小学生の頃より悪質じゃない?」

 アカノは小学生の頃の楽しい思い出を思い出しつつ、菅谷奏介の泣き顔を記憶から引っ張り出した。

 と、再び南城から連絡が。

「あ、南城君が遊ぼうって。ミハラも一緒にいかない?」

「誘われたのか? じゃあ行くか。一人じゃ恥ずかしいんだろ?」

「よく分かってるわ! さすが親友ね」

「なんか安っぽいな」

 こうして、南城と会うことになったのだが。



 当日の日曜日。

 アカノはお気に入りのセーターとスカートで駅前に来ていた。

(南城君彼女いないって言ってたんだよねー)

 小学生の頃からの想い、伝えることなくここまで来てしまったが、チャンスかもしれない。

「アカノー」

 見ると手を振りながら歩いてくるミハラの姿が。

「おはよ」

「気合入ってんな」

 ミハラがにやりと笑う。見透かされているようだ。

「良いでしょっ」

 そんなやり取りをしていると、駅中から南城が現れた。聞き慣れた声、振り返ると、

「……え」

 マスクとメガネをした南城が歩み寄ってきた。

「え、何、どうしたんだよ」

 ミハラが面食らったように問う。

「いや、コンタクトなくして、あと喉が痛くてね」

 まるで変装しているようなのだが。そして、彼の後ろには、

「カナエ!?」

「久しぶり」

 丸美が立っていた。

 立ち話もそこそこにファミレスに移動し、四人で席に座る。

「もしかしてー、二人って付き合ってんのか?」

 ミハラがからかうように聞く。アカノは内心ドキドキしていた。南城へは小学生の頃から淡い恋心を抱いている。

 しかし丸美が肩をすくめた。

「そんなわけないっしょ? ただ、境遇が同じっぽいから」

 南城は何度か頷き、

「メールで話したけど、菅谷にやられたんだよ。僕ら」

 アカノはミハラと顔を見合わせた。

「嘘情報バラまかれたり、学校辞めさせられたりしたって話よね?」

「てか、ほんとにそんなこと出来んのかよ?」

 ミハラが疑いの眼差しを向ける。アカノも完全に同意だった。

「実際やられたんだよ。あいつ、仲間と協力して」

 南城丸美も力強く頷く、

「そうそう、仲間を使ってさ。一人では何も出来ないくせにあいつ調子に乗りまくってんだよ?」

 ミハラは眉を寄せる。

「んー、もしかして逆恨みってやつか? ほら、小学生時代色々あったじゃん。あたしら、あいつへの当たり強めだったからいじめられたとか思ってたんじゃないか」

「ああ、ありそう」

 アカノはため息をついた。心当たりがある。南城に言われてから無視していた。逆恨みの理由は十分だ。

 アカノは頬杖をつく。

「滅茶苦茶危険人物ね。だったら、警察に逮捕させちゃえば?」

 自分の発言に三人はぽかんとする。

「逮捕?」

「少年院にでも入れば逆恨みも何もないでしょ。人を陥れてるんだから」

 南城と丸美の表情が少し変わった。

 アカノは続ける。

「南城君達がやられたのって普通に名誉毀損罪でしょ?」

 丸美は少し考えて、

「確かに」

「なら、冤罪でもぶっかけて警察呼んじゃえばよくね?」

 ミハラが言う。

「それ、良いね」

「ああ、ありだな」

 丸美と南城は表情を緩める。なんとなく、南城ともう少し話していたいと思ってしまった。

「ミハラ、あたし達も手伝わない? ほら、逆恨みでなんかやられても困るし」

「確かにな。それはめんどい」

「ん。じゃあ、四人で菅谷をやるってことで良いよね?」

 それぞれ頷く。

 すると、南城がこほんと咳払い。

「これはいじめとかじゃなくて、あっちから仕掛けてきてて、やり返すっていうだけで、正当防衛だからさ」

「分かってるって」

 丸美は力強く頷いた。

「作戦会議しないとな!」

 他人事なせいか、ミハラがにひひと笑った。

 小学生時代を思い出す。クラス団結して奏介を懲らしめていた頃。

 アカノはあの時の一体感が好きだった。




 そんな話をする土原達の後ろの席で聞いていた奏介はドリンクバーのコーヒーをずずずっとすすった。ソファ席であり、すりガラスで仕切られているのでこちらには気づいていないだろう。

「……奏ちゃん、ほんとにいじめっ子ホイホイだよね。こんな偶然」

 正面に座る詩音がオレンジジュースをすすりながら肩を落とす。

「偶然じゃないでしょ。たまたま見かけたあのクズ二人が良からぬことを考えてそうだから、電車とバスを乗り継いで尾行して、この低脳いじめ会議に行き着いてるんだからさ」

「うん……。あ、いつみさんから連絡来たよ。お昼用意してるからゆっくり来てって」

「そっか」

 今日は詩音と高坂家に遊びに行くことになっているのだ。あいみが楽しみにしているそうだ。

 奏介はコーヒーカップをソーサーに置いた。

「さて、こいつら、ブタ箱にぶち込まないと懲りないみたいだな」

 奏介側から仕掛けてきたなどとぬかしているが、実際は丸美や南城が絡んできたのだ。二人は間抜けにも返り討ちにあっただけ。なのに間違った情報を伝える南城達、それを無条件で信じ切る土原達にも、言い表せないくらい腹が立つ。

(こうやって、裏で俺を悪者にして、笑ってたんだよな)

 あまつさえ、再びこちらを攻撃してこようとするとは。

(許さない)

 奏介は鋭い視線を向けた。楽しそうに作戦会議をする元同級生達を。



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