第128話女の子の顔の傷をからかって酷い言葉をぶつける小学生達に対抗してみた1

 その日の放課後、奏介は詩音、水果と学校を出た。


「え、高士君と?」


 会話の流れで水果は頷いた。


「あの子のお母さん、働き始めてね。今日は遅いからって頼まれたんだ」


「へぇ~。この前の感じだと息子命って感じだったけど」


「ちょっと離れてみたら、息子が甘えてくるようになったって嬉しそうにしてたらしいよ」


「そうなんだ、あの時はどうなるかと思ったけどね。ね、奏ちゃん?」


「ああ、考えが変わってくれたなら、言った甲斐があったよ」


 高士と母親の顔を思い出し、奏介は何度か頷いた。


「一回ゆっくり話す機会があったんだけど、一人息子っていうのは可愛いらしいね。それで束縛してたことに気づかなかったって言ってたよ」


「うーん、わたしにはまだ分からない感覚かも?」


「親にしか分からないことなんじゃない?」


 奏介が言う。


「だねー。奏ちゃんもお姉ちゃんがいなければ一人息子だよね!」


「そりゃそうでしょ」


「確か、菅谷のお姉さんは一人暮らししてるんだっけ?」


 そう、すでに社会人なのだ。


「きょうだいがいると、親の愛情が分散するんじゃない?」


「むぅ、確かに」


 詩音が顎に手を当てた。


 と、水果が視線を前方へ。


「おっと、いたいた」


 水果が言う。正門を出てすぐ、バス停の近くでランドセルの少年が手を振っていた。


「悪かったね、待っただろ」


「ううん。あ、こんにちは」


 奏介と詩音に頭を下げる高士。


「こんにちはっ、高士君、なんか表情が明るいね」


「そ、そうかな?」


 最近ゲーム機を買ってもらい、友達と遊んでいるらしい。


「じゃ、帰ろうか」


「水果ちゃんまたねー」


 水果に手を繋がれた高士だが、「あ、あのさ」


 奏介へ視線を向ける。


「ん?」


「兄ちゃんに聞きたいことがあるんだけどっ」


 ここで別れる予定だったが、話を聞くために、水果の家まで付き合うことにした。








 電車に乗って水果の家の最寄り駅で降りる。


「顔に怪我した女の子か」


 奏介が呟くと、高士は眉を寄せながら頷いた。


「学校から遠回りして家に帰る途中に、大きい公園があってさ、そこにいつもいるんだ。話すようになったんだけど、周りの人に色々言われるみたいで」


「顔かぁ。どんな感じなのかわからないけど、可哀想だね」


「申し訳ないけど、顔だとつい見ちゃうね。でもそれに対して色々言うのは違うよ」


 水果が言う。


「だからさ、この前の兄ちゃんみたいに何か言ってやりたいんだけど、思いつかなくて」


「あー。あれはね、奏ちゃんの専門技術だから、一般の人には真似出来ないよ?」


「あはは。確かに」


「いや、資格がいるみたいに言わないでよ」


「とりあえず、話を聞いてみようか。菅谷はうちの学校で相談窓口担当だからね」


 奏介は小さくため息をついた。もはや、桃華学園関係なしだ。


 高士について行くと、噴水のある大きめの森林公園に出た。


 公園敷地内の入り口を抜けると、高士が視線を向けた。


「あの子」


 噴水の横のベンチに座り、スマホから伸びるイヤホンをつけていた。音楽を聞いているか動画をみていると言ったところだろうか。


 年齢は高士と同じくらいに見える。右頬を覆う白い大きな絆創膏。隠しきれない紫と赤色が混じった肌の色が見えている。


「ほんと、酷い怪我なのかな?」


 詩音が不安そうに言う。


 高士の先導で彼女の元へ。


「あ、井上君」


 にっこりと笑う。中々可愛らしい。


「えっと、前に言ってたお姉さん?」


「うん、水果姉ちゃんとその友達の人達」


「そっか、会わせてくれるって言ってたもんね」


 どうやら水果の話はしていたらしい。


「初めまして、真鍋まなべなゆです」


 お互いに自己紹介をする。


「お姉さん達、桃華なんですか? 私も一応桃華小学校なんです。今は、ちょっとお休みしてるんですけど」


 それは頬の怪我に関係しているのだろうか。それにしてもしっかりしたしゃべり方をする子だ。見た目より大人に見える。


 と、子どもを遊ばせている母親達がひそひそと話始めた。




「またあの子」


「あの顔、なんなの? 気味悪い」


「病気? 移るんじゃない?」




 心ない言葉がなゆには突き刺さっているのだろう。憂鬱そうな顔をする。


「ね、ねぇ、真鍋さん、公園出ようよ」


 高士が慌てた様子で言うと、


「うん、そうね」


 なゆは頷いて、了承してくれた。


 詩音は皆で遊びに行こうと提案したものの、相手は小学生だ。家に送るがてら、話を聞いてみることにした。


「半年前に家が火事になって、酷い火傷をしたんです。皮膚は焼けただれてしまって、綺麗に治すには移植しかないそうなんです」


 手術はするかもしれないと彼女は言う。


「火傷……。その時なんでもなくても後から酷くなるらしいからね」


「火傷の程度は深達性Ⅱ度だそうです」


「あれ? それって結構酷いんじゃなかったっけ」


「確か熱傷の深さを現してるんだよな」


 奏介はスマホをいじって、検索すると二番目に酷い熱傷だ。痕が残ってしまうとも書いてあった。


「絆創膏を外すと本当に酷い見た目で、治ってから学校も少し行ったんですけど、男子に傷のことを色々言われて行きたくなくなったんです」


「そう、なんだ。火傷したって知ってるのに酷いね」


「どこにでも悪ガキはいるもんだね」


「移る病気だとか根も葉もない噂を流されてしまって本当にどうしたらいいか」


「ごめん、僕役に立てそうにないよ」


「ううん。井上君が話を聞いてくれるから、毎日公園で待つのが楽しいよ」


 笑顔を向けられ、高士は照れ臭そうにする。


「へぇ、良い子じゃないか、高士」


 水果がからかうように言う。


「!! いや、水果姉ちゃんが思ってるようなことないからっ」


 必死である。


 と、前方から桃華学園小学校の制服を来た男子達が歩いてくるのが見えた。


「あ、ゾンビ女」


「こわっ、外歩くなよ~」


「移るじゃんか」


 ニヤニヤ笑いながら言ってくる彼らの言葉になゆは唇を噛み締めた。


「ばーけもの、ばーけものっ」


「人間に化けてんのかよ~」


 詩音が目を見開く。


「なっ……なんてことを」


「こいつら、鬼畜だね。女の子に向かって」


 高士が一歩前へ。


「やめろってっ、真鍋さん、傷ついてるんだぞ!」


「お、なんか出てきた」


「化け物の彼氏か? あはは、弱っちそう」


「あ、キモオタクもいるじゃん。なんだ、この化け物グループ」


 皆でギャハハと笑う。調子に乗りまくってる様子。


 奏介はため息を一つ。


「真鍋さんのこれな、火傷なんだけど」


 奏介がどこまでも冷静な声色で言ったので彼らが眉を寄せる。


「何言ってんの、こいつ?」


「知らね」


「へぇ、まさか火傷を知らないのか。お勉強が足りないみたいだな。もうちょっと頑張らないと、バカだと思われるぞ? それにしても、火傷を知らないとか……マジか」


 奏介はニヤリと笑った。

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