第48話漫画家の作品が無断で転載複製されていたのでサイトの管理人に反抗してみた2

 ピロリンという音に祐太ゆうたははっとした。


「申し込みかな?」


 いそいそとPCの前に座り、操作する。


「メールか。お、また感想来てる」


 『流行り漫画美術館』と称したサイトを立ち上げたのは一ヶ月ほど前。大好きな漫画、『フラクタデイズ』の応援サイトだ。最初は一話ごとに気合いの入った紹介記事を書いていたが、それがかなり好評であり、絵付きで解説してほしいとの要望があったのだ。そこからはサイト会員の要望に応える形でサービスを増やしていった。一巻の無料冊子を配り始めてからは『助かります』『無料で見られて神!』『有能サイト』などのコメントが届くようになった。


 『フラクタデイズ』が好きで始めたサイト運営だったが、今や会員千人を抱えている。まるで自分が有名人にでもなった気分だった。


「無料冊子の申し込みかな?」


 開いてみると、


「え?」


 メールの内容は予想外だった。




『無料配布今すぐやめろ。無断転載するな。著作権侵害だ。今日の二三時五十九分までにサイトを消さなければ訴える』




「なん、だ。これ。脅し?」


 文面から感じる圧にたじろぐも、


「いやいやいやっ、こういうのが来るのは想定通りだっての」


 祐太はすぐさま返信することにした。











 奏介達がメールを送って数分。サイトの管理人から返事が返ってきた。


「ん……?」


 連火が首を傾げたので奏介、真崎も覗き込む。


「えーっと、会員制のサイトであり、身内で楽しんでおります。私的複製に当たるかと……え?」


 真崎と連火はぽかんとする。


「どういうことだ?」


 奏介は眉を寄せた。


「合法的にアップされたコンテンツなら個人的に楽しむ目的でダウンロードしても違法にはならないんだ。こいつが言ってるのは、このサイトは会員制で誰にでも見られるわけじゃないから、個人で楽しんでることになるってことかな。そういう理屈だと漫画の複製冊子も友達に譲ってるだけだから、違法じゃないって言いたいんじゃない?」


 連火が顔を引きつらせる。


「こ、これ、違法じゃないんスか!?」


「そんなん、まかり通るのかよ?」


「いや、屁理屈でしょ。会員登録なんて誰でも出来る仕様になってるんだし。でもこの人、分かっててやってるんだね。それで、自分で消す気はないと」


「悪質過ぎねぇか」


「そこまでして……おれという漫画家を潰したいってことっスか?」


「編集部に言って対処してもらった方が良いですね。私的複製の範囲なんか越えてますから、普通に違法です」


 連火は肩を落としていた。先ほどより小さく見える。


「せっかく売れ出したのに、まさかこんなんでケチがついちまうとは思わなかったっスよ」


 確かに、この件はニュースになる可能性もある。そうしたら、壱時連火は一躍有名になるかもしれない。しかし、あまり印象は良くないだろう。


「あ、菅谷さん。ちと聞いても良いっスか?」


「なんですか?」


 年上の敬語にまだ慣れない。


「実はこのPC、ハッキングされてるかも知れないんスよ」


「え?」


「あ? なんだそりゃ」


「いや、それがっすね」


 連火の話によれば、先週の雑誌の発売日四日前、いわゆるネット掲示板に次回載る予定の最新話の内容が書き込まれたらしい。その時点で担当編集に見せるどころか印刷所にも入れておらず、紙の原本とPCに取り込んだデータのみだったらしい。


「そんなんだから、このサイトの管理人が俺のPCを覗いたんじゃねえかって。その最新話ってのが話の内容的に胸熱で、反響が大きかったんスよね」


「あー、胸熱展開に我慢し切れなくなって掲示板に書き込んだって?」


 奏介は少し考えて、


「それって描き上がったのはその日なんですか?」


「そうっス。んで、勢いでPCに取り込んで、次の日の朝に書き込みっス」


「ちょっと詳しいこと聞いて良いですか?」


 いくつか、質問と確認をすることにした。











 祐太は戻ってこないメールにニヤニヤしていた。返信がないということは何も言えないのだろう。


「こっちだって考えてんだよ」


 脅迫文のようなメールを削除して、サイトのホーム画面に戻った。今度は本物の無料配布希望のメールが来ていた。


「三人か。オッケーオッケー」


 大学の印刷機を使えばゼロ円で刷れる。朝早くか夜遅めなら使い放題なのだ。


「返信しとくか、えーとメールありがとうございます。お届けまで二日ほど頂きますがよろしいでしょうか? っと」


 と、その時。頭をガッっと掴まれた。


「あでででってでっ!?」


 こめかみを指で抉るように押さえ込まれ、なんとも言えない痛みが走る。


「お前、『流行り漫画美術館』の管理人だな?」


 慌てて見上げると、兄のところへ来ていた友人、もとい奏介が無表情で見下ろしていた。


 壱時祐太はぽかんとして彼を見つめるしかなかった。

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