第27話わかばの友人の許嫁に反抗してみた3
「いっ痛、うあっ」
「きゃあっ」
額を押さえてバランスを崩す殿山とテーブルに押し倒される女子生徒。
端から見たら、本当にあられもない状態だ。
「く、くそ、お前、なんで」
すぐに体を起こせず、顔だけで歩いて来る奏介を睨みつける殿山。
「なんで? なんでってなんだよ。この変態。ここがどこだか分かってんのか?」
「今朝の不良か!? ってことは」
奏介の後ろから付いてきたのはもちろん、ヒナである。
「ヒナぁ、お前、さっさと帰れと命令しただろうっ、何をしているんだ。オレに逆らって、どうなるかわかってるのか! 不良男なんか連れてきやがって」
奏介は殿山の胸ぐらを掴んだ。
「うぐ」
「何、俺を無視して僧院にだけ吠えてんだ? 言いたいことがあるなら言えよ」
顔を近づけて凄んでやると、一瞬怯えたような表情をしたがすぐに、口元に笑みを浮かべた。
「不良ごときが正義のヒーロー気取りか? なんでまったく関係ないお前にとやかく言われなきゃならないんだ?」
奏介は胸ぐらを離して、ポケットから生徒手帳を取り出した。ページを開いて、殿山の鼻先に突きつける。
「ほら、文字が読めねえなら読んでやるよ。『桃華学園校則第五条 生徒同士の不純異性交遊を禁ず。節度のある交際を心がける』お前らのやってることはこの不純異性交遊だ。それを取り締まるのが、風紀委員なんだよっ」
腕章を見せてやると、殿山は言葉に詰まった。
言ってみてなんだが、風紀委員という肩書は悪くないかもしれない。奏介はなんとなくそう思った。
「ふ、風紀委員? はっ、笑わせるな。俺のうちの家柄を知らないのか? ちょっとの問題なら簡単にもみ消し」
「じゃあ、今すぐネットにバラまくことにする」
奏介は重なり合う彼らの写真を撮って、スマホを操作する。
「タイトルは殿山家の跡取り息子が学校で不純異性交遊やってみた、でどうだ? 顔もばっちりさらしてやるよ。簡単にもみ消せるなら秒でやってみろ」
奏介が吐き捨てるようにいうと、青い顔をして固まっていた女子生徒が怯えたように、
「ま、待って。やめて、私の顔は」
「は? 同罪なんだから仲良くネットの海へ乗り出せよ」
そんなやり取りをしていると、後ろから来たヒナが奏介の前に立った。
「僧院?」
「下がってて」
何か、決意したように瞳に強い意志が見えた。
「ふ、ふふ。ヒナ、わかってるのか? お前のせいで僧院は終わった。婚約の話は破談だ」
急に強気になる辺り、クズさが滲み出ている。
ヒナはスマホを取り出して、電話帳からとある人物の番号を呼び出すと、スピーカーホンにして、自分の顔の前に構えた。
『もしもし』
相手はどうやら年配の男性のようだ。
「もしもし、殿山のお義父様ですか? 僧院ヒナです」
『ヒナの嬢ちゃんか。どうした、いきなり』
殿山のお義父様、つまり殿山和真の父親だ。
「これを見てください」
カメラ機能を使い、目の前の二人を真正面から映し出す。
「え……?」
殿山が間抜け面で口を半開きにした。
乱れた服で重なり合う二人の様子が父親に生中継されている状況らしい。
「お義父、様。私、どうしたら良いのでしょうか?」
次第に涙声になり、鼻を啜り、完全に泣き出す。
「うう、私、和真さんが小さい頃から大好きなのです。なのに、こんな。まだ高校生なのに、先ほどまでこのお二人は一糸まとわぬ姿で……うううう」
『な、な……』
戸惑うような殿山父の声が図書室内に響く。
奏介は口元を押さえ、苦笑い。
「あの、お聞きしたことがなかったのですが、殿山家は二股公認なのでしょうか? 一夫多妻制を取られているのでしょうか? だとしても、もちろん、受け入れます。ですが、知らなかったもので取り乱してしまって。申し訳ありません。うう」
殿山は口をパクパクさせている。まさにまな板の鯉状を体現している。
『そ、そんなことがあるはずないだろう。おい、和真、このバカ息子がっ、許嫁の前でなんてことを』
「ち、違う、親父! こいつにはめられたんだっ」
「お義父様、不甲斐ない許嫁で申し訳ありません」
『ヒナの嬢ちゃんは何も悪くない! と、とにかく迎えをよこすからうちへ来なさいっ』
そこで通話は切れた。
「ひ、ヒナぁっ!」
殿山の怒声、そしてヒナは、
「この状況で、殿山のお義父様は誰の味方をするのかな? ねえ? 和真?」
嘲笑を浮かべてそう言った。
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