第22話新人バイトをいじめてみた2
「は? 高校生で新人バイトの菅谷奏介ですが、何か?」
「う、嘘だ」
奏介は呆れ顔だ。
「嘘ってなんだよ」
「お、お前がおれに言い返せるはずない。だ、誰なんだよ」
奏介をため息を吐いて、
「人を化け物みたいに。とことん失礼なバカだな」
「バカだと!?」
奏介は鋭い視線を向ける。
「お前さぁ、何が目的なの?」
「……へ?」
「俺をいじめて追い込んで辞めさせたいわけ?」
目的は、ストレス解消に他ならない。辞めたら辞めただ。そんなの、知ったことではない。新しいバイトが入ってきたらまた同じことをするだけだ。
「あー、なんにも考えてないパターンか。二十二にもなって、親に迷惑かけて恥ずかしくないのか?」
「親に迷惑? 迷惑なんてかけてない。おれはここできちんと働いてるんだ。親のすねなんかかじったこともないっ」
一人暮らしもしているし、仕送り、というほど離れていないがもらっていない。大学を卒業してからは真面目に働いてきた。心外だ。
「そういう意味じゃねぇんだよ。この店はお前の親が経営者なんだろ? なのに会社が雇った人材を次々にいじめて辞めさせて、もはや営業妨害だろ」
「勝手に辞めて行く奴が悪いんだっ」
「本当に先のことを考えてないんだな。もうちょっと頭を使えよ」
「さっきから生意気な口をききやがって、親父に言いつけてお前なんか即効クビだっ」
「え……その年齢でパパに泣きつくの?」
奏介は半笑いだ。
「うぐっ」
「まぁ、パパが大好きなら良いと思うよ?」
小さな子どもを嗜めるような言い方にまたもやカチンと来た。何様のつもりなのだろう。雇われている分際で。
奏介はすっと真面目な顔になった。
「お前がいじめて辞めた人が何人いるか知らないけど、それによって人手不足になってるんだよ」
一樹は一瞬言葉に詰まる。事実だった。一人辞めると、しばらくは残業しなければならない。慣れてくれば人数が少なくても回るが抜けた直後はさすがにきつい。
「それでも、新しいバイトが入ってくるんだろうけど、それも無限じゃないんだぞ?」
「……どういう意味だよ」
「ここで辞めさせられた人間は親、兄弟、友人、知人に愚痴る可能性が高い。あの職場でいじめられたってな。それは噂になるし、そんな話を聞いてここの面接を受けたいと思うか? どうせなら人間関係が良いところで働きたいもんだろ。それに、パートバイトってのは二時間も三時間もかけて通うものじゃないんだよ。求人はこの周辺地域を対象としてるんだ。だから、いつかこの辺りの人達全員がこの職場の噂を知って面接を受けに来なくなったら、人手不足は一生解決されない。それでいて激務になったら今いる人達も辞めて行くかも知れない」
一樹は口を半開きにしてぽかんとした。
「な、なんだそれ。なんの話してんだよ?」
「この店の未来の話だよ。お前がただのバイトだったらどうでも良いかもしれないけど、経営者の息子なんだろ? ここまで考えて行動してるのか?」
「……そ、そんなの知るかよ」
どう考えても今の自分には関係ない。なんだかんだで新しいバイトは入ってくるだろうし、この店もずっと経営はそれなりに安定して続いて行くはずだ。漠然と、そう思っている。
「なるほど、どうでも良いってことか。それはそれで仕方ないな」
奏介は肩を落とす。
「……じゃあ、本題に入るか」
一樹はビクッとして一歩後退した。
「な、なんだよ。本題って」
「言っておこうと思って。店長、主婦のパートさん、学生のバイト、お前のパパにも何件かクレーム入れたついでに言っておいたから。『教育係の高平さんが俺に仕事を教えてくれない』って」
「……は?」
わけがわからない。
「後は、この店にもクレーム入れたんだ、十件くらいだったかな。客の振りしてさ、高平ってやつの接客態度が悪いって、な」
「お、俺は経営者の息子なんだぞ? なんで告げ口できるんだよ!?」
「逆になんで言わないと思ったの? バカなの? 業務に支障が出るんだから言うべきだろ」
「ひ、卑怯だっ」
「誰が卑怯だよ」
奏介は蔑みの目でこちらを見ていた。
「俺は何度も言ったよな? 仕事を教えて欲しいって。それを無視して陰でクスクス笑って悦に入ってた奴に言われたくねぇんだよ。このクズが。お前さ」
奏介は一歩、踏み出した。
「まさか俺にやり返されないとでも思ったの?」
「え……」
「俺がこのまま何も言えずに辞めるとでも?」
「……」
「あんまり嘗めてると、次どうなるか」
奏介はそれ以上何も言わなかった。不気味に笑っただけ。
「ひっ」
一樹は思わず床に座り込んだ。
「それじゃ、高平さん、明日から余計なことは考えずバイト頑張りましょう。お疲れ様です」
奏介は手を振って、倉庫を出て行った。
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