第19話ネットの誹謗中傷に物理で反抗してみた4
翌日、奏介と真崎は昇降口で女子組を待っていた。正直二人は来なくても良いのだが、行く気満々だったので仕方がない。
「なあ」
「ん?」
壁に背中をつけて並んでスマホをいじっていたのだが、真崎が声をかけてきた。
「野竹さん、お前のタイプだよな。美人系眼鏡お姉さん」
「……うん。ドストライクだった」
「おっぱい大きかったしな」
「それはお前の趣味ね」
「じゃあ絶壁でも良いのか?」
「さすがにそれは嫌だ」
「贅沢だな」
「なんでだよ」
「しかしチャンスじゃね? ここでびしっと決めればさ」
「俺じゃ釣り合わないよ」
奏介は肩をすくめる。
「挑戦する前に諦めるのは逃げちゃねぇか?」
「別に諦めてないよ? ただ、俺なんか相手にしたくないでしょ。ああいう人には爽やかなイケメンがお似合いだよ」
「ばっさり切るのな」
と、丁度二人が一緒にやって来た。
昨日と同じように四人で『マカ』へ。今日も店は閉まっていた。炎上中だからか休業中のようだ。
「ナナカ、大丈夫?」
玄関を開けるとエプロンをつけた彼女が出て来た。
「あ、皆」
家の中にはバターを焦がしたような甘い香りが漂っていた。
「あれ、お菓子焼いてるの?」
「ええ、常連さんはちゃんと分かってくれてて、電話で注文をくれるの」
昨日より少し元気になったように見える。
「電話はどうですか?」
ナナカは頷く。
「今日は昼間に五件あったの」
「え、多い」
詩音が口に手を当てる。
「やっぱ昨日夜に来なかったのは偶然だったってわけだな」
呆れたように言う真崎。
「さて、出番ね菅谷?」
「油断するとすぐ上からだな」
と、タイミングよく電話が鳴った。
「はい、奏ちゃん、頑張って」
奏介はため息を吐いて、ボイスチャンジャーを装着、
「お邪魔します」
咳ばらいをして受話器を取った。
「はい、もしもし」
高めを意識すると本当に可愛らしい声が出た。若干、幼すぎる気もするが、そう思った瞬間、ちょっとした作戦を思いついた。
『……野竹ナナカ、じゃないよね。誰?』
ヤンキーのような話し方をする若い女性の声だった。顔を見なくてもわかる。不機嫌そうだ。
「ナナカお姉ちゃんですか? えっと今ちょっと出かけてて」
意識すると完全に小学生だ。
舌打ちが聞こえてきた。
『あんた妹?』
「ナナカお姉ちゃんは親戚のお姉ちゃんです。あのー、お姉さん何歳なんですか? 電話に出る時はもしもしっていうんですよ? 名前も言わないし常識ないですね!」
息を飲む気配。
『さすが野竹の親戚、ガキのくせに』
「お姉さん、面白いですね。常識ないって言っただけなのになんで怒ってるんですか? あ、パパに聞いたんですけど、こういう人を低脳って言うのかな? 煽り耐性ないとか頭悪いのかな?」
『っ! ほんと、野竹の親戚って感じ。これは期限切れの材料を入れてお菓子作るだけあるわ』
「え? お姉ちゃん、そういうの、ちゃんと確認してましたよ? 何日までに使わなきゃいけないっていうやつですよね! お姉さんはナナカお姉ちゃんのお友達なんですか?」
『んなわけないでしょっ、非常識女との接点なんてないっての』
「じゃあ、なんで賞味期限? が切れてるものをお菓子に入れてるって知ってるんですか? もしかして勝手にお店に入ったんですか? 見たんですか? ちゃんと確認したんですか?」
『み、見てないけど』
「ええ? 見てないのにわかるんですか? お姉さん超能力者? すごーい初めてお話します」
『超能力? バカじゃないの?』
「じゃあ、なんで知ってるんですか? ちゃんと見て言ってるんですよね? まさか他の人に聞いたからそうだと思ってお姉ちゃんを悪い人扱いしてるんですか?」
『の、野竹はそういう女よ』
「お友達じゃないお姉さんにナナカお姉ちゃんの何がわかるのかなぁ? なんかお姉さん言ってること変ですよ?」
『子供にはわからないわ』
「ぷっ」
奏介は噴き出して見せる。
「あはは、言い返せないからって逃げたー。私のお友達にもそういう子いるんです! お姉さん、同級生なのかな? 小学生みたいですね!」
そこで切られた。
奏介は舌打ちしてボイスチャンジャーを外した。
「何一つ言い返せねえのかよ」
吐き出すように言って、受話器を置いた。
「ほら、こんな感じで良いか?」
四人は口を半開きにして呆然としていた。
「キモイ、けど凄い」
「そ、奏ちゃんにしてはマイルドだったね」
「いや、この煽り方はダメージすげーぞ」
「菅谷君、演劇部とか入ってる……?」
「……なんでそこに突っ込まれなきゃいけないの。希望通り言い返したんだけど」
不本意である。
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