第114話 対【闇寤ノ御子】戦3
【闇寤ノ御子】の作り出した眷属達が立ち並ぶその背後、神社の本殿の屋根に【闇寤ノ御子】は居た。
そこで優畄達の戦い様を見るつもりなのだろう。
『ここまで良き戦い振りだったぞ。さあもっとワシを楽しませてくれ』
「野郎! ふざけやがって……」
その【闇寤ノ御子】のあまりに馬鹿にした態度に激昂した優畄が''王燐弾''を放つが、すかさず落武者の一体が盾に入り防いでしまう。
『其奴らを倒さねばワシの元までは辿り着けんぞ』
【闇寤ノ御子】が指をクイっと曲げるとそれを合図に一斉に襲い掛かってくる眷属達。
先程までの戦いで疲れが見えて来ている優畄達。この厳しい状況に正直逃げ出したい心境だ。
【闇寤ノ御子】がまさかこの様な体力を削る戦法を取ってくるとは夢にも思わなかった。それにこの眷属を生み出す能力は優畄達も知らなかった【闇寤ノ御子】の能力だ。
(まさか奴がこんなにも眷属を作り出す能力に長けていたとは…… 正直過小評価をしていたようだ)
もし【闇寤ノ御子】が優畄達との3対1の戦いに応じていれば60〜70%の確率で優畄達が勝っていただろう。
だが【闇寤ノ御子】はとっておきをを隠し持っていたのだ。それも3対1の戦力差を埋めて余りある程の。
何故彼がこの神社から動かず討伐隊を招き入れたのかが分かった。彼はあえて動かず罠を張って待っていた。
優畄の脳裏に撤退の文字が横切るがそれが無理だと言うことは神社の入り口を見て分かった。神社の入り口には先程梃子摺った軍神が3体おり出口を守っている。他の眷属を相手取りながらその3体を倒すのは無理だろう。
退路を断たれたならば突破口は自分達で切り開くのみ。今までそうして来たのだ出来ない事はない。
【闇寤ノ御子】が高みの見物を決め込む中、優畄達は先程より多い眷属を相手に奮闘していた。
何度か目の''獣王爆撃掌''を優畄が放った時優畄達の眼前にいた眷属は全滅していたのだ。そしてついに【闇寤ノ御子】が優畄達の前に降り立った。
奴は肩で息をする優畄達の奮闘を称えるかの様に拍手をし出す。
『流石は黒石の当主候補、まさかワシが作り出した兵を全滅させるとは予想外だった、褒めてやろう』
そう言うと闇から漆黒の矛を創り出す【闇寤ノ御子】、そしてその矛先をこちらに向ける。
『これから殺し合いをするその前に貴様に提案がある。どうだ我が軍門に降る気はないか?』
「なに?!」
『黒石に反旗を翻し共に戦わぬかと言ったのだ』
「……」
『即時に断らぬという事は黒石に何らかの不満が有るという事、それにあの時からワシはお前に目を付けておったのだ。ワシの予想通り貴様は強くなった。そしてまだまだ強くなる』
黒い靄の中返答はいかにとばかりに赤黒い目が瞬く。奴の真意は分からないが応えは決まっている。
「……応えはNOだ。他を当たってくれ」
『そうかならば仕方ない、お前達には死人形としてワシの傘下に入ってもらおう』
そう言うと【闇寤ノ御子】は辺り一面を覆い尽くす勢いで闇を解き放つ。あっという間に闇に囚われた優畄達。
「キャア!」
「な、なんて勢いだ、瑠璃! 相殺出来るか?!」
「グッ、やってみます」
衝撃波を伴った闇が矢継ぎ早に【闇寤ノ御子】から放たれる。そしてあっという間に彼を中心に半径50mが闇に包まれた。
瑠璃が自身からも闇を放つ事で相殺しようとするが、勢いが強く思う様に行かない。
「な、なんて質量なの!?」
質量を持った闇の激流は想像以上の威力で優畄達を飲み込んでいく。
『ワシの闇を相殺しようとしても無駄だ。そのまま闇に飲まれるがよい』
まるで全方位から聞こえて来る様な奴の声。闇そのものな彼からは逃れる術はないのだ。
優畄達には【闇寤ノ御子】が先程闇から生み出した槍の事が頭にある。この闇に紛れて槍で攻撃されては防ぎようが無い。
そんな状況に優畄は''獣王無心陣''という闘気を半径5m四方に放ち、防御力を高めると共にレーダーの様に敵を探し出す能力を使う事で牽制する。
ヒナも【土龍掌】で盾を作り出しながら、【火焔掌】の技の''火焔陣''を自分達の周りに展開して簡易的な結界として用いる。
2つの能力を同時に使う事はかなり難しく、そのどちらも正解に制御してみせるヒナさん。
『簡易的な結界か面白い』
まるでスピーカーから聞こえて来るかの様に闇に響く【闇寤ノ御子】の声。闇自体がスピーカーの役割をしており、いっそうその気配が掴み辛いのだ。
『菅凪流槍術.五月雨突き』
【闇寤ノ御子】はかつて人間のおり菅凪流槍術の免許皆伝を持つ猛者だった。
ズガガガガと全方位からの漆黒の槍の攻撃はこの闇の中では交わす事は不可能。優畄達は全身に切り傷を負うが簡易結界のおかげで致命傷は免れる。
「グッ、瑠璃まだ相殺出来ないのか?!」
「あ、おと少し……」
瑠璃も闇を相殺しようと頑張っているが、予想以上の【闇寤ノ御子】の闇の激流に翻弄されて思う様に行かない。
『うむ、なかなか強固な守りだ。ならば一点突破ならどうだ?』
どうやら【闇寤ノ御子】は優畄達との戦闘を楽しんでいる様子。それはすなわちまだ本気ではないという事。
『菅凪流槍術.流星槍』
闇の中にあって優畄達には分からないが10m程の巨大な槍を作り出すと、その槍を流星の如きスピードで放ったのだ。
凄まじい勢いで何が迫って来るのは分かるがこの闇の中ではもはやどうしようもない。
だが間一髪のところで瑠璃の闇と【闇寤ノ御子】の闇が相殺した事によって流星槍の軌道が見える。その狙いは優畄ではなくてヒナを狙った攻撃だったのだ。
「ヒナ!」
それに気付いた優畄がすかさずヒナの盾に入り流星槍を交わす事が出来たのだが、優畄の右腕が肩口から斬り飛ばされてしった。
「優畄!」
「グッ…… 毎度の事とはいえやっぱり痛い……」
ヒナはすかさず【水蓮掌】の''治癒の手''を使う。優畄の回復力も上がっているので2分もすれば完治するだろう。
『なんだせっかくワシが邪魔な人形を親切に屠ってやろうと思ったのに、自ら人形の盾に成るとは…… 愚かなり』
どうやら【闇寤ノ御子】は本気で優畄を自らの配下に引き入れようとしていた様だ。
優畄がヒナの盾に入った事に驚愕したのは【闇寤ノ御子】だけでは無かった。側で見ていた瑠璃もまた驚いていた。
(……信じられない、主人が授皇人形を庇うなんて……)
瑠璃は今まで様々な現場に遣わされ何人かの主人と授皇人形の関係を見てきたが、ここまで強い信頼で結ばれた主人と授皇人形は初めてだった。
大体の主人は彼等授皇人形を使い捨ての駒としか見ていない。それなのに彼は彼女を庇ったのだ。
彼女の心臓がドクンと脈打つ。それと同時に失われたはずの記憶が断片的に蘇る。
(…… わ、私はこの人の事を知って…… いる?……)
だが次の瞬間には彼女は我に返っていた。
(今は戦いの時、こんな事を考えている時ではない)
優畄達が回復をする中、彼女は【闇寤ノ御子】の闇を更に相殺させていきついには半径5mの円形に闇を払う事に成功する。
『ぬっ、この小娘め! 正気を感じぬという事は死人か』
【闇寤ノ御子】の闇では死人の探知は出来ない。何故なら彼自信が死人なため生者以外の気配を掴む事が出来ないためだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます