第95話 3対1
「ぐっ、己れ!」
再びボブに向かって行くが結果は同じだった。カウンターの蹴りを喰らい空に逃れる刻羽童子。蹴られた腹を摩りながらボブを睨みつける。
「オ〜ウ、硬いで〜ス……」
ここまで余裕に見えたボブだったが正直まいっていた。ボブの攻撃は鬼が集まる前に一体でも数を減らそうと本気の本気のものなのだが、異様に硬い鬼達を相手に決定打がなく倒しきれないでいたのだ。
鬼の中でも両面白夜の打たれ弱さは特質で、他の鬼は車に跳ねられた程度ならケロッとしている程に頑丈なのだ。
「このオイラにここまで攻撃を当てるとは…… 」
「然り! 然り! 然り!だから我と共同戦線をば……」
「嫌だね! コイツはオイラが倒す!」
鬼一プライドが高い刻羽童子はどうしても一人で倒したい様子。
「ならこれならどうだ!」
そして再び一体でボブにかかって行く刻羽童子。今度は背中にある羽衣を自身の第三の手足の様に使いボブを翻弄していく。
刻羽童子の戦法は肉弾戦だ。手足による蹴りや突きに混じりまるで刃物の様な羽衣が様々な軌道から自由自在に襲い掛かる。刻羽童子の必勝パターンなのだ。
だがそれでもボブに刻羽童子の一切の攻撃が当たらないのだ。それどころか羽衣を使った戦い方に慣れてきたボブにカウンターを喰らいだす刻羽童子。
「グッ、こ、こいつ!」
この羽衣を使った戦法で遅れをとった事のない刻羽童子の顔に驚愕の色がうかぶ。
「否、否、否! だから言ったのだ、我も加わるぞ!」
「チッ、好きにしろ」
ここに来てボブを強敵と認めた鬼達が共同戦線を築き、ボブに襲いかかる。
「オ〜ウ、少し厳しいで〜ス……」
そうは言うが、それでもなお鬼達の攻撃をニュルニュルと交わしていくボブ。まあ正直交わすので精一杯の状態なのだが、それは内緒だ。
「チッ、同時に掛かって当たりすらしないだと……」
「解せぬ、解せぬ、解せぬ! この様な奴に我等が翻弄されようとは…… こう慣れば我が奥の手で……」
2体掛でもボブに手も足も出ない状で椿崩が秘技を使おうとした時、精神会館にもう一体の鬼が姿を表したのだ。
「オ〜ウ……」
さしものボブも言葉を失うこの状態。
「ここが精神会館か…… て、あっ〜! 刻羽こんな所に居やがったぁ!!」
赤蛇は刻羽童子を見つけると凄まじいスピードで駆けて寄って来る。そしてそのままダイブすると、ボブを前に身構えていた刻羽童子に抱き付いたのだ。
「刻羽〜! アタイはお前に会いたかったんだぞ〜!!」
刻羽童子に抱き付くと頭をグリグリとして刻羽童子の温もりを堪能する赤蛇。
「…… 赤蛇、今戦闘中なんだけど」
「戦闘中?」
刻羽童子が鬱陶しそうにそう言うと頭を上げて辺りを見回す赤蛇。
「喧嘩て、もしかしてあのミミズ頭とか?」
「そう。だから邪魔しないでくれないか」
「なんだよ…… やっと会えたてのにつれない事いうなよ……」
赤蛇には辛辣な刻羽童子。彼女があまり好ましくない彼としては正直体にも触れて欲しくないのだ。
ほっぺたを膨らませてスネた様子の赤蛇がボブを睨み付ける。
「じゃあコイツをさっさと片付けてさっきの続きをしようぜ!」
当の赤蛇は刻羽童子の本心なぞつゆ知らず、とっととボブを片付けてイチャイチャしたいのだ。
そして指先から超強酸性の血液を地面に滴り落とす。その血が触れた地面に10cmほどの穴が開く。
(あの指汁はヤバそうで〜ス……)
「否、否、否! 其奴は簡単に勝てる相手ではないぞ赤蛇、我等と共闘するのだ!」
「椿…… なんだお前もいたのか?」
よほど椿崩の事が嫌いなのだろう、どうやら椿崩の存在に気付いていなかった様子の赤蛇。
「ウヌヌヌ…… とにかく其奴を甘く見てはならんぞ、ここは共……」
「煩い! アタイに指図するんじゃねえ!」
鬼達がボブを警戒しながらも言い争っている中、当のボブはいつもの様にレゲエのリズムに揺れていた。
コレは決してふざけているのではなく、何も考えていないボブが気分を落ち着かせるために無意識で行なっている事なのだ。
そんなボブと鬼達の戦いを精神会館の中から見ているのは本来の仙狐の姿に戻っている花子こと千姫。
彼女はボブが戦って時間を稼いでいる間に、精神会館の建物自体に鬼を避ける結界を張り巡らせている。そして加奈に会館の関係者達の避難をたのんだのだ。
彼女の結界は特別製でその名を【絶対排除】といい、特定の種族を限定する事でその能力を特化させているため簡単には破れない。
もちろん今回は鬼限定の結界だ。
「もう一体増えるとは…… ボブの奴は大丈夫かのう…… 」
心配そうにボブの戦いを見守る千姫。彼女の能力は幻術や結界などの守りの能力。彼女に直接相手を攻撃する能力はないのだ。
手助け出来ない自分を不甲斐なく思いながらも、見守る事しか出来ない千姫。
(頼む、優畄達よ早く帰って来てたもれ……)
ちなみにあれからボブに神社まで連れて行ってもらい服を持って来ているため、今の彼女は裸ではない。
そんな中、ボブと鬼達の方にも動きがあった。どうやら鬼達の話がまとまった様で、3人掛でさっさとボブを片付けてしまおうと言う事で一致した様だ。
「悪いがここからはオイラ達全員で行かせてもらうぞ」
「本当にこんなミミズ野郎が強いのか? まったく……」
赤蛇は不服そうだが刻羽童子の言う事ならと従ったのだ。
「我がマーカス家の家訓にィ「ヤバくなったら逃げるが勝ち」という家訓がありま〜ス。だけど私〜シは逃げませ〜ン!」
正直ボブ1人ならとうの昔に逃げていたところだが、根が優しいボブは精神会館の人々を見捨てられない。
そして始まった3対1の戦い。新手の赤蛇の酸の血の能力が地味に厄介だ。当たれば即死は免れない攻撃を紙一重で交わして行くが、そうなれば他が手薄になる。
徐々に鬼の攻撃を捌き切れなくなり被弾が増えて行くボブ。彼には''瞬間再生''というチート的な能力が有るのだが、それでも体力は消耗していく……
「コイツ! 柳みたいな奴だな」
「だが赤蛇のおかげで隙が出来たぞ!」
赤蛇の酸の攻撃を交わした所でボブの体が大きくそれてしまったのだ。その隙を見逃さず刻羽童子が''風殺拳''という、インパクトの一瞬だけ拳に風圧を起こし回転を加えて貫通力を上げた正拳突きで、ボブを殴り飛ばしたのだ。
「アウチ!」
ギュルギュルと回転しながら吹き飛んでいくボブ。
わざと体を回転させる事で刻羽童子の"風殺拳''の威力を相殺させようとしたが、それなりのダメージを負ってしまう。
ボブだからこの程度ですんでいるが、他の者だったら即死していた攻撃だ。たまらず後退しようとするが、その背後には椿崩の姿がありその背中を切り裂かれてしまう。
「否、否、否!」
「グゥッ!……」
いつもは出さない様な声を出してよろめくボブに赤蛇の''血の祝祭日''という酸の血液を霧状にして噴射する特技が迫る。
ボブが1番警戒している相手の攻撃だ、触れたならばタダでは済まない事は間違いないだろう。
ボブは地に手を付けると脚を駒の様に回転させて、風圧をお越し超強酸の霧を散らすが、その代償に片脚の膝から下を焼き溶かされてしまう。
いつもならボブの"瞬間再生''で瞬く間に再生するのだが、赤蛇の超強酸の血液は特別製で、ボブの触れた体の部分に留まり溶かし続けるという厄介な品物。
ボブの回復速度より酸の浸透性の方が強く回復が間に合わない。そんな彼に鬼達の追撃が迫る。
(…… お婆ちゃん、グッドラックで〜ス……)
ボブが最後に思うのは故郷のジャマイカにいる優しいお婆ちゃんの事だった。
死んでも生き返るボブだが本人はそれを知らない。
だがボブが絶体絶命だと思われたその時、彼の周りに突如として結界が張られたのだ。
結界を張ったのは千姫、ボブの絶体絶命のピンチに思わず体が動いてしまったのだ。
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