第87話 両面白夜

場所は変わってある変電所、そこで作業をしていた5人の作業員が不気味な様相の男を目撃する。


「なんだアイツ……」


「さあ、今流行りのコスプレとかってやつじゃ無いのか?」


その男は頭の左右に顔が有り腕が4本もある。そしてその男が電線の線を見ながら何やらぶつぶつと呟いているのだ。


その男が近づいて来た事で分かったが、それはコスプレなどでは無く彼等本来の姿だったのだ。


俗に言う結合双生児という奴だ。テレビや何かで見たことは有るが実際に見るのは初めてだ。


触れてはまずそうな相手と見なかった事にし作業に戻る作業員達だったが、なんとその男が電線伝いにこの施設内に入って来ようとしている。流石にそれは危ないので注意する事にした作業員の1人。


「お、おいアンタ、ここは危ないから入っちゃダメだぞ」


男が近くに来てから気付いたが、彼等?は額に角の様なものを生やし、手には鉄パイプと木で作ったと思われる木刀の様なものがにぎられている。


「兄者腹が空いたのう「おう弟よ食事にするかよ、ちょうどそこに餌がおるでな」


そういうや否や振われた鉄パイプによって作業員の首が跳ね飛んだのだ。鉄パイプで人の頭を刎ねる。一体どれだけの速さで振るえばそんな事が出来るのか、現にこの者はそれを成したのだ。


突然作業員の仲間の首が跳ね上がった事で、一瞬キョトンとしていた他の作業員達だったが、鬼が首の切断面からゴクゴクと血を美味しそうに飲む様に悲鳴を上げる。


「ひ、ひゃひゃぁ!!」


だが悲鳴をあげれたのもその1人だけだった、刹那の瞬間にその場にいた作業員は全員輪切りにされ、その斬撃は後方の変圧器すらも切り裂いたのだ。


バチバチと花火が散る変電所で腹を満たすと両面白夜は、鉄塔伝いに牧場に戻る事にした。


「兄者あの鉄の塔はあの牧場まで続いておるのか?「分からん。それよりこんな珍しいもの辿らぬはそんじゃぞ弟よ「誠その通りじゃ」


彼等が牧場に帰り着いたのはそれから3日後の事だった。



ーーー



花巻牧場にはバイクで向かうのだが、刹那がバイクを運転出来たとは驚きだ。


「……なにお前運転出来ねえの? クククククッ」


ヒナがハンドルを握っている事から優畄が運転出来ないと見抜く刹那。


「クッ……」


「何してるの優畄、早く乗りな!」


そう言って後部シートを叩くヒナさん。


「…… ハッハハハハ こいつは傑作だぜ、女の尻にでもしがみついていればいいぜ!」


「クッ、クッ……」


たかがバイク、されどバイク、今度ヒナ先生にバイクの運転を教わろうと密かに誓う優畄だった。


そして俺達が出立しようとした時、何を思ったのか今度はデブ兄弟達も着いて行くと言い出す。



「お、俺達も行くぞ!」


なんでもこの2人、実の父親の豪毅から今回の討伐で、一体でも鬼の首をあげなければ家督から外すと、厳しく言い使っているのだ。


彼等には今年15歳になった妹がおり、【授皇伎倆の儀】にて、父と同じ【武威変化】という体を武器に変化させる変化系の能力を授かった。


これは康之助とも同じ能力で、非常に戦闘特化な能力なのだ。


そう、彼等の妹の黒石七彩こそ優畄や刹那と同じ当主候補の1人なのだ。


それを受けてそれまで出来損ないと見向きもされなかった父親から、プレッシャーが強まったのがデブ兄弟。


父親としては自分と同じ能力を引き継ぎ、美麗麗しい娘の七彩を後継にしたい。だが彼は政治家だ、世間体を考えれば長男に継がすのが筋。


だが能力も黒石本家では無能といわれる万能系、妖魔の討伐もどくに成せず、家でブクブク太るだけの愚か者達には継がせたくない。


邪魔者は要らないならば始末するだけの事。


早く言えばお前たちはどこぞなりで死んで来いと遠回しに言っているのだ。


それに焦ったのが勘違い兄貴の将毅だ。


(このままじゃあのクソ妹に家督を奪われちまう…… そんな事になれば俺の働かなくて、遺産だけて食って行くという野望が叶わなくなっちまう……)


彼なりの覚悟でこの討伐に参加しているのだ。


だけど移動手段がリムジンてナメてるのかて言いたくなる様なチグハグさが、こいつらのダメさ加減を現している。



デブ兄弟が着いて来ると言い出し、なんて断ろうかと優畄が考えていると、刹那が先に口を開いた。


「…… 着いて来たければ来るがいい、だが俺達の足手纏いには成るなよ」


「ブヒッ! そ、そんな事するもんか!」


俺が抗議の視線を向けると、刹那は知らんとばかりにフルフェイスのヘルメットを被ってバイクで走り去ってしまう。


仕方なく俺もヒナの後ろに乗り、その後を行く事に。


(まさかこんな大所帯になるとはな、先が思いやられるよ……)



道中、ヒナさんの後ろに乗っていて思うのは、ヒナは走りが荒いという事。よくいえば攻め過ぎるのだ。

あの温泉の時もそうだったが、ギュインギュインとカーブで車体を倒して曲がっていくからとても怖い。


「ひゃ〜〜!!」


別に事故ったとしても即座に【獣器変化】で変化すればいくらでも対応出来るのだが、怖いものは怖い。


しまいには先を走る刹那達に追い付き、レース紛いの無茶を始める始末……


俺は牧場に着くまで生きた心地がしなかった。



「…… アンタなかなかやるじゃねえか」


「フフン、いつでも挑戦は受けるわよ」


「……上等だ、今度は負けないぜ」


レースはヒナ先生の圧勝だった。俺や刹那とタメ口て話すヒナに少し嫉妬混じりの視線を向けるマリーダ。


彼女も内心ヒナと俺の様に刹那とタメ口で、本当の意味で信頼出来る仲になりたいと思っているのだ。


まあ刹那も満更ではなさそうなので、そのうちそうなりそうな気もするが……。


そんなこんなで予想より早く花巻牧場に着いた俺達。遅れているデブ兄弟はほっておいて牧場内を見て回る事にした。



「……」


牧場に入って先ず気付いたのが、まるで人の気配がしないという事。人はおろか牛すら居ないのだ、何が起きたのは間違いないだろう。


「集乳車も止まったままか……」


俺は鼻元だけを犬のそれにすると、血の匂いを辿り有る建物のところまでやって来た。


「血の匂いはこの建物の中に集まっている様だ……」


「……そんな事も出来るのか、お前の能力も便利そうだ」


その建物の周辺には大破したトラクターや牛乳が入っていたと思われる拉たタンクなど、鬼がいたと思われる形跡が残されていた。


鼻で嗅ぎ覚えた匂いがこの建物内に集められている事まで分かった。


そして血液は残されていないがその匂いは至る所から嗅ぎ取れた。その結果に優畄の顔が歪む。


「……どうやらこの牧場の人達は、ここに一旦集められてから鬼に食い殺された様だ」


聞いた話ではこの牧場で働く人の数は8人。その人数を連れて行くとは思えない。


「……で、肝心の鬼どもは何処に行ったんだ?」


「ああ、俺も匂いを辿っているけど、ここには人間の匂いしか残されていない」


そう鬼には匂が無いのだ。


(だが集乳車で嗅いだ匂いと、あと1人ぶんの匂いがこの牧場から消えている……)


優畄は匂いを辿って町へと続く道に出て来る。そこでパッタリと匂いが途切れてしまった。


(鬼達はジャンプしながら移動しているのか?……)


「ひょとしたらまだ生存者が居るかもしれない。生存者と思われる2人の匂いはここで途切れているが、生きている可能性が高い」


これから殺す予定の人間を連れ回すのかどうか疑問だ。ならば何らかの役に立つか、連れ歩かないくてはならない事情が出来たと考えるのが筋だろう。


それとどうやら方向からして鬼達は、あの町に向かったと思われる。


この牧場は町の北側真上に位置し、西側からも東側からも何方からでもいける様になっているのだ。


「俺たちが来た道と反対側の道、どうやら奴等と行き違いになった様だ…… 精神会館が心配だ急いで帰ろう!」


「うん!」


そして俺たちがバイクを止めて有る牧場の入り口付近に向かおうとした時、その方向から誰かの悲鳴の様な叫びと共に、何かが爆発した音が響いてくる。


「ひ、ひゃ〜! た、助けてくれ!」


「ヒッ、ヒィ〜! 早く逃げるぞ由紀!」


「輝毅様! お、お待ちを……」


優畄達がそこに向かうと真っ二つにされ炎上するリムジンと、鬼から逃げる様にこちらに駆けてくるデブ兄弟達の姿があった。


そして優畄達が視線を向けた先には、4本の腕と2つの顔を持つ異形の鬼が佇み大破したリムジンを珍しそうに眺めていたのだ。


「この様なものがいかにして動くのか、全く持ってこの世は面白いのお兄者。「ああ弟よ、まこと然り。先程は驚いて思わず斬ってしまったが、実に勿体無い事をした……「それよりも兄者、ただの餌かと思うたが、この者等から感じる気配は黒石のものぞ……」「ああ弟よ、忘れもせぬ我等を封じし忌まわしき一族の気配じゃ」


鬼達の前では鬼見知りで無口な兄だが、人を餌としか見ていないため人の前では話す事に躊躇が無いのだ。


鬼から凄まじい殺気が吹き上がる。それを見て優畄とヒナは臨戦体制に入った。





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