第82話 助っ人
結局あの後は狸にも会えず、精神会館に帰る事にした優畄達。
「あ〜あ、狸ちゃんどこ行っちゃったんだろ……」
優畄達は明日で精神会館ともお別れだ。明日の一日が終われば、黒雨島の時の様にマリアに強制的に飛ばされてしまうかもしれない。
そうなると落ち着いて狸に会いに行けるのは、今日が最後だったのだ。
「明日…… 時間があったらもう一度だけ行ってみようか」
「うん! 行ってみよう」
何故かは分からないが、優畄はあの狸に親近感を感じていた。まるで生き別れた家族に会ったかの様な感覚。
(何故かは分からないが、あの狸にはまた会わなければならない、そんな気がする……)
たかが狸、されど狸、明日会えればいいなとそんな事を考えながら歩いていると、精神会館の建物が見えてくる。
「明日は確か康之助さんが直に見てくれるて話だったよな」
「なにをやるんだろうね、ちょっと楽しみかも」
いつも前向きなヒナさんは素敵です。いつまでもそのまま変わらないで居てほしい。
精神会館に帰えってからは習った事のおさらいと、明日以降の準備をして過ごした。
準備といっても着替えの類をまとめてリュックの中に入れただけだ。
その時既にリュックの中の荷物の一つと化していた携帯に数件の着信が入っているのが目についた。
町に来て電波が通る様になったのだ。
「……携帯、! 着信が入ってる。誰からだろう?」
1番新しい着信を見てみる事に。
[優ちゃんこんにちは(^ ^) 22日の花火大会には帰ってこれそう?]
それは桜子からのものだった。その他の着信も全て彼女からだ。この慌ただしい毎日ですっかり忘れていた彼女との約束。
(…… 何でだろう、あんなに楽しみにしていた約束だったのに……)
「優畄、どうしたの?」
そんな俺を何があったのかと心配そうに見つめるヒナ。
「う、うん、だ、大丈夫だよ」
ぎこちない返事に訝しがるヒナだったが、優畄がそれ以上話そうとはしないので着替えのまとめに戻っていった。
(……22日か、桜子ともちゃんと会って話をしてこなくちゃな)
結局桜子には返信しない事にした。22日に帰れるかも分からない現状、何より今の俺の現状を説明する言葉が思い浮かばない。
それでも、その日に元地元だった町に戻れるかは分からない、だがもし会えたならば彼女にはきちんと伝えなくてはならない、別れの言葉を。
もうあの日常には戻れないのだから、のんびりだったが輝いていたあの日々には……
8月18日ーー
翌日館長室に呼ばれた優畄とヒナ。チラッと隠し部屋の方を見れば、すっかり片付けられて怪しいアイテムの類は無くなっていた。
「おっ来たな2人共、実はお前達に本家から討伐依頼が来ている」
「本家から?!」
館長室に着いて早々嫌な予感が当たった様だ。
(やっぱり俺の予想通りだ。あのブラックな本家が俺達を好きにさせる訳がないんだ……)
そして康之助は一度深くため息を吐いた後に、本家から来た依頼の内容を話してくれた。
「今から5日ほど前、かつて黒石の者に封印された6体の鬼が解き放たれた。奴等はこの町の半径50km四方に潜伏しており、人を食べる悪鬼だ」
「…… 人を食べる……」
「鬼……」
「人を食らった妖魔は存在の格が上がる。速い話がその分強くなるて訳だ。強さ的には災害級、今の優畄と同じかそれ以上だな」
(俺と同等かそれ以外が6体も……)
妖魔の類は人を喰らえば喰らっただけその力が強くなる。特に鬼種はその傾向が如実だ。
「奴等は600年前に封印した黒石の者に恨みを抱いている。そしてここ精神会館は最も黒石の者が集まる場所でもある」
「という事は……」
「ああ、間違いなく奴等はここに来る筈だ」
黒石の者に恨みを抱く鬼達、彼等の目的が復讐か否かは分からない。だが奴等がここに来るという事は確実性が高いだろう。
「で、でもこっちらには康之助さんもいるし、余裕ですよね」
康之助の強さを知っている優畄だからこそ、その安心感は絶対だ。だが肝心の康之助の顔は厳しいままだ。
「手を貸してやりたいのは山々なんだが…… 悪い、俺は他に用事が合ってな、今日中にここを離れなきゃならねえんだわ」
「は、離れるって康之助さんが?! そ、そんな……」
「康之助さん行っちゃうの……」
何でも康之助さんには本家から他に討伐のお達しがあり、仕方なくここを離れるとの事なのだ。
康之助が受け持つ討伐依頼は、一個で国を滅ぼす力を持つ魔物が対象。その為自ずと優先順位が出来てしまう……。
「じゃあ俺達だけでその鬼を退治しろって事ですか?」
「うう……」
康之助が居なくなるとあってヒナからも不安の感情が伝わってくる。
「お前達2人のコンビネーションなら、その程度の相手には負けはしないだろう。だが流石に2人じゃ厳しいからな、助っ人が来る事になっている」
「助っ人?」
「ああ、今回の相手は分家の連中じゃあ荷が重い。本家筋の、それもお前と同じ当主候補の男だ」
「! 当主候補の……」
この精神会館にも討伐隊に属する者はもちろんいる。だが今回の鬼の討伐は黒石の者でも直系レベル、それも能力の高い能力者、当主候補クラスでなければ対応出来ない。
そのため精神会館の人達には任せられないのだ。
「驚いた様だな。黒石家の当主候補は、お前を含めて全部で7人いる」
「7人! そ、そんなに……」
「今回来る奴は少々性格が歪んでいてな…… だが根はいい奴だ仲良くしてやってくれ」
そして康之助は何とも苦そうな顔をする。
とにかく何やらクセの強そうな奴が助っ人として来る様だが大丈夫だろうか、心配でしょうがない……。
それにーー
(…… 7人も当主候補が居るなんて、じゃあ俺なんて必要無かっただろ……)
黒石の本家の考えることはどくな事ではないとつくづく思う優畄だった。
「鬼の討伐、その間はこの精神会館を好きな様に使ってもらって構わない」
「やった〜! また狸ちゃんに会いにいけるね」
「ああ、そうだね」
これで狸に会いに行けると喜ぶヒナ。
「悪かったな。今日は俺が直に見てやるつもりだったが、今のお前達なら大丈夫だ。この黒石の生き地獄を生きていけるだろう」
そう言う康之助さんの顔はいつになく険しいものだった。
「俺は3日は戻れないと思う。その間ここを頼んだぞ」
「は、はい!」
ヒナもどこで覚えたのか軍隊式の敬礼で康之助に応えていた。
そして康之助さんは忙しく支度を整え自身の愛車、ハーレーダビッドソン''アイアン1200™''に跨ると、優畄達の方に向き直る。
「じゃあ頼んだぞ」
そうとだけ言い残して康之助さんは走り去って行ってしまった。
「…… 康之助さん行っちゃったね」
「大丈夫だよ、ヒナの事は必ず俺が守るから」
「うん。」
それでも心細のだろうか、ヒナが握る俺の手に力がこもる。
助っ人が来るのは正午頃だと聞いている。それまでは加奈さんの総合格闘技の道場でおさらいをする事にした。
動いていた方が落ち着くとのヒナの意見を採用したかたちだ。
他にも道場やジムは有るが投げる交わす系が好きなヒナでも、殴る蹴る系が好きな俺でも何方でもいける総合を選んだのだ。
今回来る助っ人の名は黒石刹那。能力は【魔人変化】という魔人種に変化出来る能力だ。
そいつがどんな奴でどの程度強いのかは分からないが、胸騒ぎだけはいつまで経っても治らなかった。
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