第50話 不良外国人ボブ再び



ボブ.マーカス16歳。彼は母国ジャマイカから、交換留学で日本にやって来た青年だ。


今彼は武者修行の旅で日本中を回っている。


交換留学生がそんな事をしていて良いのかって?


良いはずはないのだが、彼は気にしない。何故なら何も考えていないからだ。


そんなボブは今、非常に困っていた。何故なら旅費の入った財布を落としてしまったからだ……。


「…… あの運転手ゥ、次に会った時はァタダじゃあおきませ〜ン!」


そう、おのボーゲルに足を掴まれ放り投げられた時に落としたらしく、無くしてしまったのだ。


そのため、ボーゲルに投げられた方向を闇雲に彷徨い歩いているボブ。


この真夏の炎天下の下、財布を探して5時間程歩き続けていたボブは軽い熱中症にかかってしまう。


「ハア…… 暑いで〜ス…… あの小屋で休むで〜ス」


ボブがフラフラと避難したのは木々で日陰になっている古い御堂だ。


所々が朽ちて崩れかけているが、中は涼しく休憩するにはもってこいの場所。


それにちょうどお供物の団子もある。お供えられて余り時間が経っていないのか、ボブなら食べれそうだ。


なんの躊躇もなくお供物の団子を貪り食べると、御堂の中でゴロンと横になる。


「フ〜、日本の夏は異常で〜ス。まさか母国のジャマイカよりも暑いとは思いませんでしたァ……」


腹も満たされいつしかボブは眠りの中へ……


「フガァアアアア〜〜! フガァアアアア〜〜!」


凄まじい寝息を立てながら眠るボブ、そんなボブのイビキに反応する生き物がいた。


それは小型犬程の大きさの可愛らしい狸。


その狸は御堂の奥で暮らしていたらしく、突然の爆音に驚いて出てきたのだ。


狸は辺りを探る様に見渡すと、いつも楽しみにしていたお供物の団子が無くなっているのに気付く。


《なんじゃこのケッタイなミミズ頭は》


その犯人はここに居るボブしか考えられない。爆音の主で狸の眠りを邪魔した存在でもあるボブ、キレた狸はボブの側にやってくると、猫パンチならぬ狸パンチをボブの額にお見舞いしたのだ。


「ウウ〜ン…… ムニャムニャ、お婆ちゃん、もお食べれないよォォ……」


祖国の祖母の夢でも見ているのか、気持ち良さそうに眠るボブ。


そのボブの姿を見て更に怒りが増す狸。


狸としては自分が気持ち良く寝ていたところを、このイビキに邪魔されたのだ。それに楽しみにしていたお供物まで食べられてしまった。


その張本人がのほほんと眠っている現状に腹が立たない訳がない。


《おのれミミズ頭め!》


狸はボブに仕返しとばかりに悪夢の妖術を使う。この妖術は、ただ寝ている者が悪夢を見るというだけの妖術で実害はない。


「……ウ、ウウン……ウン……」


狸の妖術が効いて来たのかボブがウンウン唸り出す。そして寝づらそうに寝返りを打つ。


「ウ〜ン…… お婆ちゃん、そのマフィンはァ傷んでいま〜ス!!」


そう言って飛び起きるボブ。


目覚める前の寝言でどんな悪夢を見ていたのか大体想像が出来る……。


「…… オ〜ウ、どうやら寝てしまったようで〜スネ」


眠りから覚めたボブは辺りを見回す。すると御堂の奥で身構える狸を見つけた。


「オ〜ウ、ワンコロで〜ス?」


ジャマイカでは珍しいというかほぼ居ない狸を、完全に犬だと思っているボブ。


そんなボブに狸はウウウと唸り声をあげて威嚇して警戒する素振りをみせる。


「これは可愛いいワンコロで〜ス。私ィのペットにするで〜ス! ポチや、花子や、チッチチチチチ……」


そこでボブは旅先の民家で休ませてもらった時に頂いたはいいが、怖くて食べられ無かったイカのスルメを懐中から取り出す。


「これは宇宙人? の干物で〜ス。私ィは怖くて食べられませ〜ン…… アナタ食べますかァ?」


《ぬぬ! こ、この香りは……》


ボブがスルメを差し出すと最初は警戒していた狸だったが、余程お腹を空かせていたのだろう。匂いを嗅いで安全だと分かると、スルメを食べ始めたのだ。


「美味しいですかァ?」


ボブのその問いかけに頭を縦に振って応える狸。食べ辛くはあるが、どうやらかなりスルメを気に入った様だ。


「それは良かったで〜ス。''旅は道連れ世は情け"これマーカス家の家訓で〜ス。貴方は花子で〜ス、一緒に旅に出ましょう」


そう言うとボブは懐中から何枚かのスルメを出して誘う様にみせる。


打算的に狸は考える。


《…… 少々癪に触るがこの者に着いていけば、またあの干物を食べられると言う事か……》


狸の心の声はボブには聞こえて居ない。だが彼の人間性が何となくわかる。狸にはこのボブが悪者には思えなかった。


「食べたりしません安心してくださ〜イ」


《……う〜むしかたあるまい》


それでもやはりスルメの魅力には勝てなかった狸の花子(命名ボブ)は、ボブに着いて行く事にした。






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