エイプリルフール特別企画「世界征服」
始まりは、お茶会での一言だった。
「お姉様。世界征服とかしないんですか?」
優雅な佇まいで微笑みかけてくるセッカ。
いつも通り綺麗笑顔だけど、いつも通り言ってる事の意味はさっぱり分からない。
「世界征服って……いきなり何の話よ」
「いえ、ふと思ったのですけれど。お姉様なら出来そうだな、と」
「あぁたしかに。オウカさんなら出来そうですね、世界征服」
「カノンさんまで何言ってるんですか」
セッカがおかしなことを言うのは割といつも通りだけど、カノンさんがこういう話に乗っかるの珍しいな。
ほら、カエデさんも驚いて……ないな。深く頷いてるし。
「やるやらないは別として、可能なのでは?」
「いや、ただの町娘に何を求めてるんですか」
「その自称はこの国の誰にも通じませんよ、次期女王陛下」
「いやいや、それ受け入れてませんからね?」
「……でもオウカちゃんな、ら。出来るんじゃ、ないか、な」
「いやいやいや。何なんですかこの流れ」
からかわれてるんだろうか。
でも何か、マジっぽい目なんだけど。
「武力でも良し、経済面でも良し。やろうと思えば可能だと思うので、やってみてくださいお姉様」
「やらんわ。何のメリットも無いし」
「……ふむ。メリットがあればやるんですか?」
それなら、と。カノンさんはイタズラに微笑み。
「では、世界征服出来たら私とデートしましょう」
「ちょっと頑張ってみます」
その場のノリでそう答えてしまった。
そして月日は流れ。
私は、王城の玉座に座っていた。
「オウカ様! 敵国より降伏の使者が来ております!」
「分かった、受け入れる。これでもう、私の道を阻む者は居なくなったか」
これまでの道を振り返る。
始まりは小さな約束。日常の他愛ない口約束。
そこから、色んなことがあった。
等身大の巨大マシュマロを作ったり、ドラゴンの巣を攻め落としたり、魔王国ゲルニカと戦争したり。
そして、救国の英雄たちと死闘を繰り広げたり。
しかしもう、私の敵は存在しない。
たった今、王城に乗り込んできたセッカを除いて。
「やっぱり来たか。さて、どうするつもり?」
「お姉様を、止めます!」
「は。やってみろ!」
互いに構える。右手にはお玉、左手には炒め鍋。
手の内は知り尽くしている。どちらが速く、より正確に料理を作れるかどうか。
私と対等に戦える相手は一人もいなかった。でも。
私を止めに来るなら、セッカだと思っていた。
「さて、やろうか。今日こそはケリを着けてやる!」
「今日こそはお姉様を倒します! 妹として!」
こうして、戦いの火蓋は切って落とされた!
「っていうのはどうかなっ!?」
「酔っ払ってんですか?」
意味不明な事を言い出したレンジュさんに神速のツッコミを入れた。
真面目に聞いてた私が間違ってたわ。
「新しい演劇の台本としては悪くないんじゃないかなっ!!」
「色々と酷すぎませんかそれ」
てか何だ、料理勝負って。そこは戦闘じゃないのか。
「そもそもカノンさんとのデート権で世界征服って無理がありません? そこはレン……っと。今のなしで」
「おっやぁっ!? じゃあ誰とならいいのかにゃっ!?」
「ちょ、あぁもう暑苦しい! 離れてくださいってば!」
ことある事に抱きつくのはやめて欲しい。ちょっと恥ずかしいし。
「にゃははっ!! 嬉しいくせにっ!!」
「……まぁ、嫌じゃないですけど」
嫌じゃないけど、認めると助長しそうでこわいんだよね。
最近また距離感が近くなってる気がするもんなー。
「ほら、早く食べないと料理冷めちゃいますよ?」
「それは大問題だねっ!! いただきまーす!!」
私が持ってきたお昼ご飯を物凄い勢いで食べだした最強の英雄を見て、思わず苦笑が漏れた。
しかしまぁ、世界征服ねぇ。
目の前のレンジュさんを見て、思う。
こんな穏やかな日々が続くのなら、私は世界なんて別に欲しくもない。
みんなで美味しいもの食べて、笑いあって。
それだけで、私はどうしようもなく幸せなのだから。
「……ね、レンジュさん。いま幸せですか?」
何となく尋ねてみた。
「もちろんっ!! ご飯美味しいしオウカちゃんがいるしっ!!」
ニッコリ笑って即答する英雄さま。
うん、やっぱりそうだよね。
「じゃあ私も幸せかなー」
一生懸命お肉を頬張っているレンジュさんを撫でながら、私も自然と笑顔になっていた。
そんな、なんでもない日常。
私が守りたいと思う、大切な日々。
幸せのカタチ。それを感じながら、私は小さくアクビをした。
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