第190話


 さて。レンジュさんを大人しくさせようと来てみたは良いものの。


「にゃはははっ!! オウカちゃんはやっぱり可愛いねぇっ!!」


 早速絡まれてしまった。物理的に。

 ええい、酒臭い。離れてください。


「レンジュさん、飲み過ぎですよー。ちゃんとご飯も食べましょうね?」

「にゃはっ!! つまみは食べてるよっ!!」


 あ、ほんとだ。おつまみになるもんだけ食べてる。


「……うーん。ならまあ、良いのかな?」

「オウカちゃん優しいから好きだなっ!!」

「あーはいはい。私も好きですよー」

「……えっ?」


 からん、と。お酒の入っていたコップを落とした。

 ん? なんだ?


「オウカちゃん、もっかい言って欲しいなっ!!」

「は? 何をですか?」

「私のこと好きなのっ!?」


 えーと。何言ってんだこの人。


「そりゃ好きですよ。明るいし、活発だし、可愛いし、気遣い出来るし、かっこいいし、なんだかんだ頼れるし。セクハラさえなければ超高評価ですから」


 ほんと、セクハラさえ無ければなー。マイナス点が大きすぎるんだよなー。


「オウカちゃんが……ついにデレた!?」

「いやいや、いつも通りじゃないです?」

「いつもは連れない態度じゃんっ!!」

「んー? 割と距離感近いと思うんですけどねー」


 少なくとも、いきなり抱きつかれても嫌では無い。

 て言うか、どちらかと言えば嬉しいし。

 ちょっと暑苦しいけど。


「てか嫌いなら専用おつまみなんて作りませんよ。レンジュさんだから作ってるとこありますし」


 私の専門は料理とお菓子であって、お酒のつまみなんかはあまり詳しくないし。

 毎回わざわざ調べて作ってっからなー。

 割と手間がかかるけど、レンジュさんの笑顔を考えたら苦じゃないし。


「ええっと……割と混乱してるんだけどもっ!?」

「それはあれですね。お酒の飲み過ぎです」

「いや絶対違うよねっ!?」


 いやー。元気だなー、レンジュさん。


「とにかく飲みすぎはダメですからね? 体壊しますよ?」

「えーっと、もう酔いが覚めちゃったんだけどねっ!!」

「おー。そりゃ良かったです。何か食べます?」

「う……なんか、オウカちゃんが強いね……」

「そりゃ慣れましたからね」


 どんだけ絡まれてると思ってんだ。

 常に対策を練るくらいには慣れてきてるってば。

 それに、攻められたら弱い人だって知ってるし。


「ほらほら、取ってあげますから。なんなら食べさせてあげましょうか?」

「さすがに人前でそれは恥ずかしいかなっ!?」

「人前では。なるほど? ふぅん?」

「うぐっ!! 今日は意地悪だねっ!?」

「にひ。いつまの仕返しです」


 私だってやられっぱなしでは無いのだ。

 たまには逆襲しとかないとね。

 良いチャンスだし、たくさん苛めてあげよう。


「……なんなら、部屋行きます? 二人っきりで」

「はあっ!? ちょ、何を言ってるのかなっ!?」

「やだなー。お酌するだけですよ。何考えたんですか?」

「……ぐぬぬ。なんか、こんなオウカちゃんも良いなとか思い出した私が居て複雑なんだけどっ!!」

「いや、どんな私でも好きでしょ?」

「好きだけどもっ!!」


 あ、好きなんだ。結構嬉しいなー。

 へー。そっかぁ。ふーん?


「……えへへ。好きなんだー?」


 あ、やばい、顔がニヤける。

 にやにやしちゃう。


「…………ちょーっと、待ってねっ!!」


 ん? なんか、両手を突き出して俯いちゃったな。

 どしたんだろ。



「…………落ち着け私ここは人前だからダメだっていやでもこんな可愛いオウカちゃん見せられたらいやでも嫌われたくはないし…………」



 うん? ちょっと小声で早口すぎて聞き取れないけど、なんか言ってるっぽい?


「レンジュさん?」

「……よしっ!! 煩悩は振り払ったっ!!」

「えーと。よく分かんないですけど……大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないけど大丈夫っ!!」

「はぁ。とりあえず、なんか食べます?」

「肉っ!! あとお酒っ!!」

「はいはい。取ってくるんでまっててくださいねー」


 お肉……あー、あの辺か。お酒もあるな。

 ちょっと行ってくるかー



◆視点変更:コダマレンジュ◆



 うっわぁ……あっぶな。あれ、ヤバいわー。

 思わずいつもの仮面が外れかけたし。

 何あれ、頬を染めて微笑むオウカちゃんの破壊力、魔王を超えてんだけど。


「……いやぁ。よく耐えましたね、蓮樹レンジュさん」

「あー、京介キョウスケ? うん、私自信を褒めてあげたいよ……」


 いやまじで。ちょっと可愛い過ぎないかあの子。


「あれで自覚無しですからねぇ……タチの悪いことです」

「アタシちょっとマジになったからね……」

「おや。亜礼アレイさんは良いんですか?」

「いやまぁ……割と本気で、重婚アリかもしれないって思った」

「……それほどですか」


 いやだって、亜礼の事は好きだよ?

 でも、同じくらい……下手したらそれ以上なんだけど。

 オウカちゃんのアレ、天然だからなー。

 自分の容姿とか全く気にしてないもんね。

 これで自覚持ったらどうなるんだろ……


「うーわー……おかしい、演技だったはずなのに……」

「……難儀ですねぇ」

「あの子、良い子すぎるんだって。可愛いし、気が効くし、優しいし、勇気あるし。それにあれだね、純粋だよね」


 アタシらとは違って。どう育ったらあんなに真っ直ぐになるんだろうか。

 敵意に敏感なのにすぐに人を信じる。

 誰に対しても善意を持って接する。

 まるで女神の奇跡のような子だ。


「うーん……ちょっと対策考えないと、襲っちゃいそうなんだけど」

「そこは我慢しましょうね。亜礼さんが本気で怒りますよ?」

「分かってるよ……でもちょっと、理性の削られ方がヤバいんだよ……」

「……まあ、せめて同意を得ましょうね?」

「今のオウカちゃんだとオッケーしそうで怖いからそんな事言うな!!」


 割と本気で揺らいじゃうから!!


「ふふ。これほど余裕の無い蓮樹さんも珍しいですね」

「くっそ。性格悪いなー相変わらず」

「あぁほら、戻って来ましたよ」

「やば……えーとえーと……オウカちゃんっ!! ありがとねっ!!」


 普段の活発な仮面を被り直す。

 よし。これで大丈夫。何も問題はない。


「はい、お肉とお酒です。飲みすぎたらダメですからね?」


 あああああ!! だから頬を染めて上目遣いで微笑むのはやめてぇぇぇ!!


「……分かってます隊長っ!!」

「誰が隊長ですか、まったく……」


 うわ、こんどは膨れてるし。なんだこの可愛い生き物。

 てかヤバい、無理無理無理、我慢出来そうにないって!!


「えっと、ごめんねっ!! ちょっと用事があるからまたねっ!!」

「え? レンジュさん、行っちゃうんですか……?」


 ふぐぅっ!? 指先で袖を掴むのは反則じゃないかな!?

 ちょ、その潤んだ瞳で見つめるのはダメだって!!


「ぐぬぬ……せ、『韋駄天セツナドライブ』っ!!」


 最速の加護を使い、アタシは逃げ出した。

 ……やっば。次会った時、理性保てるかなー。




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また「さくら・ぶれっと」本編は200話で完結します。

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