第119話


 カノンさんに心配をかけた罰として、今日一日、治療院でお手伝いする事になった。


 制服一式を借りて更衣室で着替える、が。

 ……ぶっかぶかだった。

 おかしい。これ、子ども用のサイズのはずなのに。


 仕方ないので、袖や裾を折って、腰は紐を通して無理やり着込んでみた。

 よし。とりあえず、動けはするから大丈夫だ。 




「……ふふ。あ、失礼。似合ってますね」


 その格好で出ていくと、キョウスケさんに笑われた。

 このイケメン、何気に意地悪かもしんない。


「とりあえず今日は皆さんのお手伝いをお願いします。

 主に洗濯や煮沸消毒になるかと思いますが、指示はその都度お伝えしますので」

「お。了解です」


 そんな感じで、お手伝いは開始された。



 思いの外、患者さんが多いな。頑張ろう。


 私の最初の仕事は、一人ずつ症状を確認して、傷の具合に合わせて赤、青、黄色のリボンを巻いてい行くこと。

 そのリボンを目印にして、キョウスケさんが治療を行っていく。

 時には傷口を切り開いて異物を取り出し回復薬で治し、時には打ち身に効く軟膏塗って手当をしている。


 あれ。加護、使わないのか。

 治療費無料って聞いてたから、てっきり加護で治すんだと思ってた。



「僕の加護は相手の魔力を消費してしまうので、あまり気軽には使えないんですよ」

「うわっ!?」


 え、この人、いつの間に私の後ろに来たの!?

 てか、なんで考えてる事分かったの!?



「オウカさんは思った事が顔に出ますからね。何となく予想はつきます」

「……そですかー」


 なんか、怖いな、この人。

 見た目は爽やかスマイルのイケメンなんだけど……

 笑顔の裏に何かありそうな気がする。勘だけど。


「さて、患者さんも減ってきましたし、医療器具の消毒をしてもらえませんか?」

「あ、お湯で煮るやつですね。了解です」

「包帯や布巾もお願いします」 

「あいあいさー」


 大量の医療器具や包帯類。

 それらは基本的に捨てず、使えるものは再利用しているらしい。

 煮沸消毒した後、更に魔法で綺麗にするんだとか。


 ふむ。とりあえず……煮込むか。


 リングに特大の鍋を出してもらい、水を入れて加熱。

 沸騰したらポイポイ放り入れる。

 しばらく待って、大鍋の底をザル状に変化させ、湯切り。

 あとは干して乾かすだけだ。


 うーん。改めて便利だなー、これ。


「終わりましたよー。私は魔法使えないんで、そこは他の人にお願いします」

「おや? もうですか……それでは薬の調合を手伝ってくれますか?」

「はーい。レシピ、あります?」


 鍋でかき混ぜたりすんのかな。ちょっと楽しそうだ。


「ああ、指定した材料を持ってきてもらうだけですよ」

「ありゃ。なるほど、了解です」

「ではまず、春先花と紅山茎をお願いします。あと、ポーションの空き容器をありったけ」

「はいはいさー」


 薬の材料が置いてある場所に向かい、指定されたものをアイテムボックスに収納。

 ポーション容器は…あの山か。結構あるなー。

 こちらもアイテムボックスに収納。

 すぐさま戻り、それらを並べていく。


「……ああ、アイテムボックスが使えるんでしたね。さて、どうしたものでしょうか」

「ん? とりあえず、終わりましたよ」

「そうですね……では、薬草の調達をお願いできますか?」

「あ、この辺りで採れる奴は大体持ってますよ。何が必要ですか?」

「……では、このリストにある物をお願いします」

「りょーかいです……よいしょっと」


 結構な量の薬草を取り出し、これも並べていく。

 うわー。治療院の仕事って、普通にやったら超ハードなんだなー。

 これを毎日こなしてるの、凄いな。

 ちょっと尊敬してしまう。


「ふむ……全て揃ってますね」

「持ち合わせがあって良かったです。他に仕事はありますか?」


 少しでも他の人の負担を減らせるように、今日は精一杯頑張ろう。



 その後もキョウスケさんは途切れる事無く指示してくれて、それらを順調に行っていった。

 改めて、仕事の量が多いし、何気に力仕事もたくさんある。

 私の場合は拳銃型デバイスと容量の大きなアイテムボックスがあるから何とかなってるけど。


「さて、困りましたね。今は行ってもらえる仕事はありませんし」

「んじゃお昼ご飯作ってきます。片手間で食べられるサンドイッチかな」

「有難いですが……軽く五十人は居ますよ?」

「そのくらいなら余裕です」

「……。そう、ですか。ではお願いします」

「了解でーす」


 王城のキッチンは遠いので、収納していた簡易キッチンをセット。

 何気に使うの初めてだな、これ。

 ちょっとテンション上がる。


 さてさて。疲れを取るために甘いものがいるかな。

 イチゴジャムサンドとリンゴジャムサンド、あとは……鶏肉の照り焼きを薄く切って挟むか。

 丁度いい事に、どれも作り置きがあるし。

 ぱぱっとやっちゃおう。



「でーきまーしたー。手が空いた方からお好きに持って行ってくださいねー。

 あ、飲み物はそっちにありますんで」


 まばらに昼食を持っていく治療院の職員さんたち。


「いや、助かるよ。ありがとう」

「わー! おいしそう! ありがと!」

「噂のオウカちゃんの手作りか……ありがとよ!」


 余程疲れているのか、とてもお礼を言われた。

 うん。喜んでもらえて何よりだ。午後も張り切って行こう。




 そして昼過ぎ。


「……とても残念なのですが。もうお任せできる仕事が無くなりました」

「……え。マジですか」

「普通なら軽く数日かかる量の仕事を用意していたのですが……予想外でしたね」


 数日分て。

 どうりで作業量が多かった訳だ。


「……もしかして、なんですけど。わざと多めに仕事振ってました?」

「ええ。カノンさんに懲らしめて欲しいと頼まれたので」

「……。なんて言うか、キョウスケさんって性格悪いって言われません?」

「不思議とよく言われますね。何故でしょうか」


 こんにゃろ。爽やかスマイルで流しやがった。

 ……まーいいけどさ。他の人が楽できたなら、それだけでやったかいがある。


「ふむ……ところで。オウカさんが良ければ、治療院で働きませんか? 給与は相場の二倍出しますので」

「ぜってぇ嫌です。上司が怖いんで」

「おやまあ。嫌われちゃいましたか」

「んー。嫌いではないですよ。尊敬もしてます」


 怪我人を処置する時の迷いの無い手さばき、的確な指示出し。

 決して狼狽うろたえることの無いその姿は、それだけで安心できる。


 この治療院はたぶん、彼のおかげで成り立っているんだと思う。

 さすが英雄。魔王を倒した後も国を支え続けてくれている救世主だ。

 ……まあ、なんか腹黒そうなのはいただけないけど。


「……それはありがとうございます。今日はもう帰って頂いて大丈夫ですよ」

「や、折角なんで他の人の手伝いして行きます。普段からやってる仕事がまだ残ってますよね?」

「おや。バレてましたか」

「人数見てたら仕事量も大体分かります。とりあえず、何したらいいか教えてください」

「それは凄いですねえ……ではまず……」


 この日は結局、夕飯を食べ終わるまでお手伝いしてきた。

 ……普段の仕事量もだいぶ多かったな。

 みなさん、毎日お疲れ様です。


 仕事も大体覚えたし、たまに手伝いに来ようかな。

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