第99話


 リビングにて、英雄が床にうつ伏せになって行き倒れていた。

 手元を見ると赤い何かで『寂死さびし』とダイイングメッセージが書かれている。 


 ……ええっと。

 なんつーか、めっちゃ帰りたくなったんだけど。



 横目でアレイさんを見ると、肩を竦められた。

 いや、何とかしてくださいよ。貴方の仲間でしょうが。

 何となく苦手なんだよこの人。


 仕方なく逆側のカエデさんを見ると、こくりと頷かれる。

 おお。頼れるお姉さんだ。


「おお、ゆうしゃよ、しんでしまうとは、なさけな、い」

「……は? ゆうしゃ?」

「復活の呪文、らしい、よ」


 ドヤ顔で胸を張るカエデさん。なんだこれ可愛すぎるんだけど。


「惜しいなカエデ。それは復活後の呪文だ」


 今時知ってる奴もいないか、と苦笑いしながら、小さく肩を震わせているリュウゲジマコトさんの後ろ襟をひょいとつまみ上げるアレイさん。

 ……なんだろ。身内ネタかな?


「うぐぇ。ちょっとアレイ、壊れ物なんだから優しく扱ってくれないかな」


 おー。ぶらーんとなりながら、ぷんすか怒ってるわ

 やっぱり見た目は可愛いなーこの人。


「うるせぇ。用があるんだから起きろ」

「おや。随分自分勝手だねえ」

「大体こないだも来たばかりだろうが……」

「それはそれ、これはこれ。いいかいアレイ、ウサギはあんまり放置すると寂しさで……巨大化するんだよ!?」

「それはもはやウサギじゃないな」


 ……ほんと、観賞用には最適なんだけどなあ。

 イマイチ言ってる事の意味が分からないのが難点だ。

 何だよ、巨大化って。


「で。今日は何の用かな?」

「ああ、オウカちゃんの拳銃なんだが」

「……あっれぇ? 片方しかないね?」

「不幸な事故で消し飛んだんだ」

「……ねえ、それ消し飛ばしたって言わない?」


 珍しく同意。てか、あれは事故で済ませていいんだろうか。

 ちょっと睨むと苦笑いされた。罪悪感はあるらしい。

 ……まー壊れちゃったもんは仕方ないけどさ。


「とにかく、作るのは大丈夫だけど……全く同じでいいの?」

「あ、出来れば火力を上げたいです。銀熊に勝てるくらいに」

「……なっかなかクレイジーなことを言い出すね。魔法銀の塊を貫ける威力を拳銃に持たせろって?」

「ええと、無理ですか?」

「いや、出来るけどね。オウカちゃんしか使わないんなら」


 言っておいてなんだけど、出来るんだ。凄いな、物作りの英雄。

 私なんて使ってるのに原理は理解してないわ。


「じゃあお願いします。お代はお菓子でどうでしょうか」

「おっけ。すぐ終わらせるから待ってて」

「え、そんなすぐ出来るんですか?」

「まあ、すぐと言うか……見ているといいよ」



 言うや否や、両手を空中にかざし、その足下からは緑色の魔力光が溢れだす。



「『想像イマジネイト』」



 キーワードに反応して手元に浮かび上がる緑色の文字列。

 あれ、何の言語だろ。リングに書いてあったのに似てる気がするけど、別物にも見える。

 そこに指が触れる度、目の前の空間に文字が浮かび上がる。

 何か物凄い速さで指を動かして……文章っぽいものを作ってるのかな、これ。


 なんだか、世界が書き換えられているようだ



「……よし、と。『創造クリエイト』」



 魔力光が一際輝く中で、何もない場所に何かが生まれた。

 影になっててよく見えないけど……あれ、拳銃かな?



「はい完了。使い方は……まあ、分かるよね」

「うわー……凄いですね。今の何ですか?」

「『万物を司る指先パンドラ』。ある程度どんなものでも作れる加護だよ」

「おお……さすが英雄。基本的に何でもありですね」


 渡された拳銃を受けとって、くるくる回しながら見てみる。

 見た目は前の奴と同じに見えるなー。

 てか何も変わりがないのが逆に凄い。


「見た目は同じにしておいたよ。普段の使用感も前と同じ。ただ、一時的なリミッター解除機構を搭載させた」

「……ええと、つまり?」

「魔力やばいくらい使うけど魔弾の威力を上げられる。基本的に一日一発が限度かな。

Existイグジスト』がトリガーワードになってるからね」

「……イグジスト?」


 なんだっけ。何か、聞いたことある気がするけど。


「撃つ時はやや上を狙うように。射線上に人がいないことも確認しようね」

「あ、はい……てか、何か大分まずい威力が出ます?」

「下手したら『堅城アヴァロン』一枚なら貫通するかもしんないね」

「うっわあ。気を付けて取り扱います」


 魔王の一撃を防いだ最強の盾を貫くのか。

 頼んでおいてなんだけど、非常にヤバイものを渡されたんじゃないだろうか。


「で、ほら。報酬は?」

「あ、はい。手持ちだと……これなんかどうでしょうか」



 アイテムボックスから焼き菓子の詰め合わせを取り出す。

 全てお手製、ここらじゃ手に入らない調味料なんかも取り入れた至極の一箱である。

 途中で楽しくなって色々詰め込みすぎたのでお店では出せないほど高級品になってしまったものだ。


「おおおおお……ひゃっほぉい!!」


 箱を抱えて跳び跳ねる物作りの英雄サマ。

 こうも喜んで貰えると作りがいがあるよね。


 ……しかし、考えてみたらこの人、私より年上なんだよね?

 こうしてみると年下にしか見えない辺り、何となく恐ろしいような、ある意味納得しちゃうような…


「……で、こっちの用は終わったわけだが」

「ちょい待ち。アレイ、例の件なんだけど」

「あー……そうだな。カエデ、オウカちゃんを送ってやってくれないか?」

「ん、わかった。オウカちゃん、行こう、か」

「うっす。拳銃、ありがとうございました」

「こちらこそ、またお菓子持って遊びに来てね」

「また作りすぎたら持ってきます」


 と言うか作り置きのストックが切れてきてるので、また近い内に大量生産する必要があるんだけどね。


「ではまた」

「はいはい。またねー」


 いつものように長い袖をぶんぶん振り回すリュウゲジマコトさん。

 和むなあ、とか思ってると、最近聞きなれてきた軽い音がして、目を開けると王都の自室の前に居た。

 ……これ転移魔法も何気にかなり凄いよね。


「それじゃ、また、ね」

「はい。色々とありがとうございました」

「ん。ばいば、い」


 はにかみながら、ひらひらと小さく手を振って姿を消した。


 うぅむ。何だか、常識ってなんだっけかと思う事が多かったなー。

 まあ、うん。拳銃も戻ったことだし。一先ず、料理でもしますか。


 英雄の言動については、あまり深く考えたら負けな気がするし。

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