第90話


 大通り沿いのお店への事情説明を兼ねた挨拶回りを済ませ、大量の頂き物を持って一度家に帰った。

 毎度の事ながら、何故か顔を見せる度に何かしら貰うんだよね。

 いや、ありがたいんだけどさ。

 けどなんかこう……かなりの確率で飴玉をもらうのは何とかならないだろうか。

 いま私のアイテムボックス、食べきれてない飴が山のようにあるからね。


 その中の一つを口に放り込み、文机に向かう。


 一先ず急ぎでやんなきゃいけないことは終わった。

 後は依頼の受領待ちと働き手の応募待ちの間に、お菓子のレシピを書き起こす必要がある。


 オウカ食堂の時に思ったけど、直に教えるのも限界があるんだよね。

 前回は仕方なく、レシピを覚えた子が他の子に教えて、って方法を取ったけど、それだとどっかで内容が変わっちゃう危険もあるし。


 最初は数種類でいいかもしんないけど、時間ある時にちまちま書き足していこう。

 とりあえず、できる分やっちゃいますか。



 そんで気がつくと窓の外が暗くなっていた。

 ……いや、寝てないよ? とてつもなく集中してたせいで時間の経過が分からなかっただけだし。

 あ、ほっぺたに机の跡がついてる……拭ったら取れるかな?

 ぐしぐしやっとこう。



 とりあえず、何か食べるかー。

 何か軽いもんあったっけ……あ、あれがあったか。


 作り置きしてたサンドイッチをアイテムボックスから出して、かぶりつく。

 レタスとトマトとベーコンを挟んだ簡単なものだけど、塩と胡椒が効いてて中々うまい。

 これ、チーズ入れても良かったかな。次はチーズ入り作ってみよ。


 さて。お腹も満ちた事だし、冒険者ギルド行ってみるか。

 依頼受領されてたらいいなー。



 冒険者ギルドは隅の方に飲食物を持ち込んで食べるスペースがある。

 最低限のルールを守れば誰でも使っていい場所だ。

 最近そこでオウカ食堂のお弁当を食べたりしてる冒険者を良く見かけるので、ちょっと嬉しかったりする。


 けどまあ、夜になると案の定と言うか、酔っぱらいの溜まり場になっているようだ。

 酒瓶を片手に大笑いしてるおっちゃんとか、半分寝てる兄ちゃんとか、色々いる。

 お酒なー。昔間違えて飲んだときは何か楽しかったような記憶があるけど、翌日頭が割れるように痛くなったんだよなー。

 それ以来、料理で使う以外では触れもしてない。


 そんな酔っぱらいを横目に受付カウンターに進むと、リーザさんが書類書きをしていた。

 おお、メガネかけてる。レアだ。

 そういや夜に来たのって初めてだけど、何時くらいまで開いてんだろ。


「リーザさん、こんばんは」

「あら、オウカちゃん。こんな時間に珍しいわね」

「あー……書き物してたらいつのまにかこんな時間に」

「ふふ。ほっぺた、あと残ってるわよ?」


 あ、しまった。忘れてたわ。


「……えーと。見なかったことにしてください」

「はいはい。それで、依頼ならまだ受領されてないわよ」

「ありゃ、そですか。まあ流石に即日は無いですよね」

「いえ、みんなで取り合ってるってのが正解。ほら、あそこの人達」


 あそこって……さっきの酔っ払い集団?


「誰が依頼を受けるかで飲み比べ勝負中」

「まじか」


 ええ……そんなに割りのいい仕事じゃないと思うんだけど。

 むしろ慣れない建築作業してもらうことになる分、かなり大変だと思うし。

 まさか取り合いが起きるとは思ってもなかったわ。

 しかもその解決法方が飲み比べってどうなのよ。



「オウカ食堂割引券、好評なのかなー」

「と言うより、依頼人がオウカちゃんだからじゃないかなー」

「え。どういう意味です?」

「そのまんま。いいとこ見せたい人もいるんじゃない?」

「……んー。なるほど?」


 年齢的に父親とかそんくらいのおっちゃん達だし、娘に頼りにされたい、みたいな感じなんだろうか。

 ただちょっと、熱くなりすぎてると言うか。まあたぶん、騒ぐ口実に使われただけなんだろなー。


「……あれ、朝まで続きそうですけど、大丈夫なんですか?」

「あまり騒ぐようなら追い返すから大丈夫よ」

「え。あれを追い返せるんですか」

「そこはほら、長年の経験ね」

「なるほど……」


 何の経験か言わない辺り、察した方が良いのだろうか。

 やっぱリーザさんも冒険者とかやってたのかなー。

 にしては体型が凄く女性らしいけど。


「ま、朝までには決着も着いてるだろうから、また明日いらっしゃい」

「はーい」


 さて。全く眠気もないし、どうしたもんだろうか。

 ちょっとうろついてみっかなー。




 で。オウカ食堂にて。

 暗くなったキッチンでこそこそしてる子達を発見。即座に捕獲した。


「さて。現行犯な訳だけど」

「……その、今日はたまたまですね」


 ほう。たまたまねえ?


「たまたま閉店後のお店に集合してみんなで翌日の仕込みをしていたと」

「……偶然って凄いですよね」


 おいこら、目ぇ逸らすな。


「あんた達全員、明日休みにするぞ」

「ああああ、ごめんなさいそれは勘弁してくださいぃぃ!!」

「まったく……てか何、人手足りてないの?」

「いえその。足りてるんですが、勉強会を兼ねて自主的に」


 あー。確かに、よく見たらカウンター係の子ばっかりだわ。

 それぞれの役割分しか仕事を教えてないもんなー。

 でも、仕事を早く覚えたいってのは分かるんだけどさ。

 こんな時間に子供だけでお店に居るのは危ないでしょうが。


「……あ。まさかとは思うけど、キッチンの子達も似たようなことやってんの?」

「えぇと……寮で計算や接客の練習はしてるみたいです」

「ならまだいいけど。あんたらもやるなら職員寮のキッチンでやんなさい」


 ちなみに、王都以外から来た子達は、みんな冒険者ギルドの職員寮で集団生活をしている。

 いつかちゃんとした寮を作りたいけど……まあ、機会があればかな。


「あっちだと食材や調味料がないんです」


 あー。まあ、それもそっか。

 でもいくら治安が良くなったからって、こんな時間まで子どもだけで集まってるのはダメでしょ。


「お店から持ってっていいから。専用の帳簿作って使用分を記入する事」

「え、いいんですか?」

「あんたら止めてもやるでしょ。ただし、作ったものは捨てない、夜はちゃんと寝る、火と刃物使うときは年長者が付き添う。

 この三つは守ること。いい?」

「徹底させます」


 皆してびしっと敬礼。

 ん。分かったならよろしい。


「んじゃ今日は帰るわよ。明日も朝早いんだし」

「はい」

「あー、あと……次はねぇかんな」

「は、はいぃ!!」


 ややキレ気味である。

 あーもー。真面目すぎるのも考えもんだなー。サボる心配だけは無いけど。

 ……キッチン組の子達にも言っとかないとなー。

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