第48話


 今回の再調査を兼ねての集団討伐のお陰で、森の魔物はほとんどいなくなったらしい。

 また時間が経ったら増えるんだろうけど、しばらくは安心だ。

 さすがベテラン達、被害もほとんど出ていないらしく、今回の集団討伐は大成功と言える。

 グラッドさんが、より人相が悪く見える笑顔で教えてくれた。


「ああ、いやがった。おい嬢ちゃん。お前、よくも騙してくれたな」

「あ、ゴードンさん。騙したって何よ」

「腕の良い冒険者が駆け出しのふりをするんじゃねぇよ。驚いたろうが」

「え、いや。私も駆け出しなんだけど」


 実際、冒険者初めてまだ日も浅いし。


「いいや、あんだけ戦えるんなら駆け出しとは言わん。心配して損したわ」

「えー。私は嬉しかったんだけどなー」

「……とにかく、無茶しない程度でギルドに貢献しとけ。分かったな?」

「はぁい」


 なんか渋い顔で怒られた。なにも嘘は言ってないのに。

 んー。まあ、リングと拳銃あれば戦えるけど……基本的には町娘なんだけどなー。

 あんまし言われると、ちょっとへこむんだけど。


 少ししょんぼりしてると、冒険者の輪の中からグラッドさんがぬぅっと顔を出した。

 うわ。こわっ。


「おいオウカ。お前、今度は何をやらかした?」

「え。何もしてないと思うけど」

「王城から呼び出しがかかってるぞ」


 はあ? また? え、今度は何よ。


「ええと。誰から?」

騎士団長コダマレンジュだな」

「破り捨てといて」


 ぜってぇ行かねぇ。


「そんな訳にも行くか。正式な出頭命令だぞ、これ」

「あの人怖いんだってまじで!!」


 越えちゃいけない一線をいつの間にか越えてくるんだよあの英雄。

 出来るだけ関わりたくないんだってば。


「だが無視する訳にもいかんだろ。それに今回は『天衣無縫ペルソナ』の連名だしな」

「ぐう。よりによってその二人か」


 私的に一番二人っきりになっちゃいけない人と、一番文句を言いたい人のセットだ。


「あー。ほら、二人一緒なら大丈夫なんじゃないか?」

「……分かった。けど、何かあったら逃げるからね」

「ああ、その時は俺から保護者カツラギアレイに一報入れるから」

「うぅ。私が何をしたって言うのよ」


 いやまあ、ゴネても仕方ないのは分かってんだけどさー。

 ……アレイさんが同席してくれることを願おう。



「おっちゃん、こにちあー」

「お、来たな、オウカちゃん」


 いつもの様に王城の門兵のおっちゃんに挨拶。慣れたもんである。


「今日は修練所に来て欲しいってよ。場所覚えてるか?」

「あー。騎士団の人と演習した場所だよね」

「そうそう。オウカちゃんが大暴れした所な」

「うっ。それは違うと言いたい……けど、違わない」

「ははは。ほら、英雄様がお待ちだ。行ってくるといい」

「ん。あんがとー」


 笑顔で手を振ってくれるおっちゃんに見送ってもらい、修練所へと向かった。


 目的地に着くと、なんか両極端な二人が入口付近に立っていた。


「やっほーおひさっ元気だったかなっ!?」


 私と同じくらいちっこくて、超ハイテンションなレンジュさん。

 こっちは置いといて。


「……はじめまし、て」


 自信無さげに微笑んでいる、黒髪をショートボブにまとめたローブ姿の女性。

 何処か儚げで、守ってあげたくなるタイプの美少女だ。


 非常に残念なことに、アレイさんはいないらしい。

 警戒度を少し高める事にした。


 とりあえず、構ってほしそうなレンジュさんはガンシカトするとして、もう一人の美少女に声掛けてみるか。


「はじめまして、オウカです。貴女が『天衣無縫ペルソナ』の?」

「ミナヅキカエデ、です。よろしく、ね」


 やんわりと微笑んでくれた。うわ、めっちゃ可愛い。

 ……じゃなくて。


「こちらこそ。二つ名の件はどうも」

「あれ、ね。私の自信作なん、だ。えへへ」


 ぐっ。照れ笑いもまた可愛い。悪意が無い分、たちが悪いな、この人

 なんて言うか、シスター・ナリアやリーザさんとは違う意味で文句言いにくい人だ。


「えーと。それで、今日はどんな要件ですか?」

「あ、今日はね、オウカちゃんの魔力を、見せてもらいたく、て」

「私の魔力ですか? いいですけど、私は魔法使えませんよ?」

「うん、大丈夫。ちょっと、手を貸して、ね」


 両手の先をきゅっと掴まれる。

 なんだろ。どう見ても年上なのに、癒される。

 あれだ。小動物見てる感じがする。

 こういう人ってモテるんだろうなー。


「……魔導式起動」


 小さな呟き。それに合わせて、地面に魔法陣が現れて、白い魔力光が立ち上った。

 うわ、なんか凄い。綺麗だな。


「展開領域に接続。施行……あれ、失敗? 魔導式展開領域の形式が違うのかな…」


 何か小さな声でよく分かんないこと言い出した。リングの謎言語に似てる気がする。


「代理展開後に接続。演算速度が速い。魔力容量も……なるほど。理解しまし、た」

「あ、えーと、もう大丈夫ですか?」

「はい。ちょっと気になる事が、あったので、確認させてもらいまし、た」


 ふわりと白い光が収まっていく。

 ミナヅキカエデさんの魔力光なんだろうか。

 イメージと合っていて、何となく愛らしい。


「ええと、確認ですか?」

「オウカちゃん、魔力容量と演算速度が凄まじいです。けど、魔導式を起動出来ないみたい」


 ……は? 何言ってんだ? 

 えっと。魔法の話ってのは分かるんだけど。


「……つまり?」

「多分、専用の魔法なら使えるけど、この世界の一般的な魔法は使えないと、思う」


 専用の魔法、ねえ。まー思い当たる節はある。

 サクラドライブ。インストール。ソウルシフト。

 全部、聞いたことない効果だし。


「多分その、一番最初にそういう設定を、されたんじゃないか、な」

「あー。造られた時にって事ですかね」

「……うん」


 なーるほど。納得いった。

 魔力はあるけど魔法は使えない。代わりに、サクラドライブを使える、と。

 うーん。しかしこれ、どうなんだろ。特に不便してないし、問題ない気もするけど。


「オウカちゃんは『再現する』力がとても高いの。だから、知ってさえいれば、大体は、真似できるんじゃないか、な」

「んーにゅ。心当たりが有りすぎます」


 空飛んだり、穴掘ったり、殴ったり、色々と。


「むう。まあ、便利そうなんでありがたく使っときます」

「うん。特に構造欠陥も無いし、大丈夫だと思う。ただ、気になる事があって、ね」

「ぬ。なんですか?」

「何かね、えーと……水源、みたいなものがあるっぽ、い?」


 水源? 川とかの元になるやつ? どゆこと?


「そこから情報を持ってくるのが、正式な流れなんだと思うんだけど、それが今は使えないみた、い」

「……んー。あー。なんとなーく、分かる気がします」


 本当に、なんとなく、だけど。

 インストールする情報を集めておく場所、みたいなものが、あった気がする……?

 んー。なんかもやもやしてて良く分かんないけど。今度時間ある時にリングに聞いてみるかな。



「で、で、で!! 話は終わったのかなっ!?」

「あ、うん。用事は終わりだ、よ」

「んじゃ次はアタシのターンだねっ!!」


 私たちの間に割り込むように、レンジュさんが飛び込んで来た。

 相変わらずのハイテンションだ。


「じゃ、お邪魔しましたー」

「待った待ったっ!! 逃げないでっ!? 今日は真面目な話だからっ!!」

「えーと、どのようなご用件ですか?」

「なんだか心の距離を感じるねっ!? まぁそれはともかくっ!! 私もちょい気になる事があってさっ!!」

「……気になる事ですか? 何です?」



 レンジュさんから笑みが消える。


 それだけで、ピリ、と肌が泡立った。

 すらり、と刀を抜く、その仕草だけで、背筋が凍りつく。




「ちょっと、アタシと立ち合ってもらおうかな」




 刀身をこちらに向け、笑みを消した最強の英雄は言った。

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