第17話


 王都に戻った後、宿で夕食を食べ、お風呂に入って早々に部屋に戻った。

 色々あってちょっと疲れてたようだ。

 部屋に戻るなりベッドに沈んだらしく、翌朝、髪が凄いことになっていた。


 髪型を整えるのに結構な時間を使っちゃって、最終的に諦めて帽子を被る事にしたけど。


 朝起きるのも遅かったせいで、ギルドに顔を出したときにはお昼前になっていた。

 今日もリーザさんが受付にいる。

 挨拶しようとすると、ちょいちょいと手招きされた。


「おはようございます。どうしました?」

「オウカちゃん、昨日なにやったの?」


 困ったような笑顔でそう聞かれた。

 ……昨日? 何したっけ。


「えーと。ホルダー買って里帰りしましたね」

「……そう。よくわからないけど、お客さんよ。あっちの男の子」


 言われて振り向くと、緊張した貴族っぽい男の子が居た。

 ……だれだっけ。なんか見覚えある気が…


「お、おう。昨日は世話になったな」

「……。あ、昨日の絡んできた兄ちゃんか」


 えらく立派な格好してるから分かんなかったわ。

 こいつ、貴族か何かなんだろうか


「……絡んできたのはそっちだと思うけど」

「で、なに? どしたの?」

「いや、その……昨日は悪かった。すまん」


 後ろ頭に手を置いて謝ってきた。

 どことなく、バツが悪そうな顔をしてる。


「……はあ? 何、わざわざ謝りに来たの?」

「いや、そういう訳じゃないんだが……」

「あによ」

「ええと……その、な」


 ……なんだよ。煮え切らない態度だなー。

 昨日の威勢はどこいった。


「よくわかんないけど、お詫びは受け取ったわ。他に用がないなら、行くとかあるからまた今度ね?」

「あ、おう……またな」


 よく分からんやつだなー。わざわざ謝りに来たんだろうか。

 見かけによらず律儀と言うか。いや、見た目通りなのか?

 ……まあいいや。とりあえず、エリーちゃんのお店に行こう。

 そろそろ約束の時間だろうし。




「おう、できてるぞ」


 お店に入るなり、親父さんがぶっきらぼうに言った。

 カウンターの上には革製の三角形のホルダーが置いてある。

 全体的に硬そうな見た目だけど、手に取ってみるとしっかりとした縫製で、柔らかく軽い。

 拳銃を入れるとすっぽり収まった。革紐の留め具まで付いている。

 これ、何の革だろ。凄い高価たかそうなんだけど。


「親父さん、これさ」

「良いものが作れた。これはおまけだ」


 ことり、とカウンターに置かれたのは、暗い色合いの革グローブ。

 いや、おれもおまけとかってレベルの品じゃないと思うんだけど。

 試しに着けてみると、私の手にちょうど良いサイズだった。


「おお、ぴったり! ……じゃなくてさー」

「なんだ。不満があるなら言え。すぐ直す」

「不満とかじゃないけど……これ、何の革?」

「知らん。龍種だったと思うが」


 おい。なんてもん使ってんだ、この人。

 龍種って、ドラゴンだよね? めっちゃお高いやつじゃん。


「いやそれ、絶対高いよね? お金払うから」

「いらん。お前さんの為に作った特製品だ、持ってけ」


 ぶっとい腕を組んでそっぽ向かれた。

 うーん。頑固だな、この人。


「……むう。じゃあさ、何か欲しい素材とかない?」

「素材か? リザードマンとワイルドボアの皮、あとは質の良い皮なら何でも欲しいが」

「んじゃ、今度から狩ったら皮はここに持ってくるわ」

「いらんと言うとるに……頑固な奴め」

「お互い様だと思う」


 睨み合う。だってこんなの、筋が通らない。

 対価を払えるのだ。払わない道理などない。

 なんと言われようと、ここは引けない。


「……ぶぁっはっは!! まあ、違いない!! いいだろう、それで手を打つか!!」

「おっけ。それとは別に銀貨1枚、渡しとく」

「おう、毎度。今ウワサのオーガキラーが何を持って来るか、楽しみにしとるぞ」

「げ、ウワサになってんの? 言っといて何だけどあんまし期待しないでね。ただの町娘だし」

「お前さんのような町娘がおるものか」

「ここにいるでしょ」


 失礼な親父さんだわ。

 ……いや、自称町娘がそろそろ厳しいのは自分でも分かってはいるのよ。

 でも、凄いのって全部リングと拳銃だし。私自身は至って普通な町娘だしなあ。


「まあいいわ。これ、ありがとね」

「おう。また何か作らせろよ」

「考えとく。……そういえばエリーちゃんは?」

「裏で仕事をしとる。あいつも未熟とは言え職人見習いだからな」


 あらま、残念。会いたかったんだけど……仕事なら仕方ないか。


「そっかー。じゃあ邪魔したら悪いか。また今度寄るね」

「おう、またな」


 貰ったばかりのホルダーに拳銃を納め、グローブを装着。

 ……おお。見た目、かなり冒険者っぽくなった。

 さすが職人さん。いい仕事してんなー。


 さてと。ちょうどいい時間だし、いろいろ試しに街道にでも行ってみるか。



 街道沿い、岩場の少しある草原。

 主にゴブリンやはぐれコボルトなんかが徘徊してる所だけど、今日は周囲には見当たらない

 ちょうどいいので、大きめな木を探す。


「リング、剣作れる?」

「――可能:Ready?」

「頼んだー」


 片手剣くらいの長さの刃が拳銃の銃口から伸びてきた。

 拳銃を両手で持って、剣を振って木を斬り付ける。


 がつん!


 あれ、弾かれた?

 ブンブンと何度か試してみるけど、全く斬れない。


 ……あ、そっか。刃筋が立ってないのか。

 刃の部分を木に当てて引き斬ってみると、簡単に木の半ばまで刃が通った

 むう。切れ味はいいんだけど……私に剣は使えないみたいだな。


 次はハンマー。これは予想通り、木にぶつけてもカツンと軽い音がしただけだった。

 魔力製の物は重さが無い。鈍器は全く役に立たない。


 うーん……だめか。

 色々と思い付く限りの武器を試してみたけど、どれも残念な結果しか出なかった。ううむ。

 試しに弾丸を撃ち込むと、余裕で木を貫通する。


 ……まあ。万能調理器具として有能だし、それでいいか。

 あらゆる調理器具を汚さず使えるってだけで十分だし。

 剣は……練習した方がいいのかなー。いや、どうせ上手く使えないか。

 それなら慣れてる拳銃の方がいいや。



 気落ちして宿に戻ると、私宛にでっかい花束が届いていた。

 送り主不明。何で送ってきたかも不明。


「……あの、おばちゃん? これ、何?」

「あんたに届いた贈り物だよ」


 肩を竦めて呆れ顔で言われた。


「はあ? いや、花なんて貰っても困るんだけど」

「そりゃそうだろうねぇ。何せあんたは冒険者なんだし」

「うーん。どうせならおばちゃん貰ってくんない? お店に飾るとかできそうだし」

「おや、いいのかい? じゃあ今晩の夕飯もサービスしとくかね」

「おぉ! やった!」


 今日は何がついてくるんだろ。正直、花なんかよりこっちの方が嬉しいわ。

 にしても、花なんかわざわざ贈って来るって。心当たり無いんだけど。

 そんな事、貴族しかやらないと思うし。

 んー。ま、いっか。おばちゃん喜んでくれたしなー。

 私もオマケつけてもらえて嬉しいし、良きかな良きかな。

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